Crazy Tea Party ― 後篇

―戦慄の休日、再び―

著 Nyaoさん


 前回あらすじ―――
 「ゆ・き・ね〜! あなた、消さなきゃいけないデータがあるみたいね〜。それに姉に対する態度も教育してあげるわ」
 「私に、消していいデータなんてありませんよ。あ・ね・う・え!」
 「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて」
 「そうですよ、姉妹で喧嘩なんて止めてください」
 些細な事から喧嘩をはじめる乙音と雪音、それを止めようと焦る春菜と}奈,しかし戦いの火蓋は切って落とされた!


 ビスッ!
 一瞬の出来事だった。
 「かすめたか」舞い落ちる数本の髪の毛に、視線だけを向け呟く。
 「そ、そんな…」
 「新必殺技『家電修正チョップ』! 腕を上げたようだけど、まだまだね」
 雪音の踵落しは乙音の前髪を数本道連れにし、鼻先をかすめただけだったが、逆に乙音のチョップは回避運動の力も加わり、めり込むように雪音の頭に決まっていた。
 「この前の一戦で、あなたの癖は判っているのよ」
 そして、そのまま左手で雪音の頭を抑えこむ。
 「まだまだ、これからです」押さえ込む手を握る雪音を無視しながら、
 「さっき言いかけた事は忘れなさい? いっしょに、姉に対する態度も修正してあ・げ・る
 突然どこからか、あのメロディーが流れてきた。しかも、観声付き。
 『い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ! い・の・き、ボンバェ!…………』
 おもむろに右手を振り上げると、
 「うおーーー! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! …………」
 『ビスッ、ビスッ、ビスッ、ビスッ、ビスッ、ビスッ、ビスッ、ビスッ、ビスッ…………』
 叫ぶと同時に、雪音の頭を叩きだした。
 いきなりの音楽と異様な乙音の状態にフリーズしていた二人が、我に返ると慌ててとめに入った。
 「乙音さん! 落ち着いて!」春菜が乙音を、羽交い絞めにして止めてる間に、}奈が雪音の様子を確かめる。
 「雪音ちゃん! 大丈夫?」床に座り込んだ雪音に、声をかけるが反応が無い。あわてて覗き込んでみると、みごとに白目をむいている。
 「仕方ないわね、ふん!」
 バキ!
 異様な物音に春菜がそちらを見ると、雪音の首筋に手刀を叩き込んでいる}奈の姿が目に入った。
 「きゃ〜!! }奈ちゃん何やってるの〜!」
 「えっ? 何って、活をいれてるんですけど」
 「まちがえてる、まちがえてる」
 「そのまま、後5,6回続けて!」
 二人が逆のことを言うがこの場合、春菜が正しいんだろうと判断し、正しいやり方の検索をはじめた。
 「えっと、こうやって、こう!」検索を終えすぐに実行した瞬間、
 「キャー!!」
 悲鳴をあげる事態に遭遇した。



 「乙音さんやりすぎよ! それに『後5、6回』って妹を壊す気ですか!!」
 「言ってはいけない事を口にしたから、いいんです! それにあの娘がいなくなれば『プロジェクト YUKINE』を乗っ取る事も…」
 乙音を羽交い絞めにしたまま言い合っていた二人だが、}奈の悲鳴に振り向くと、
 「「ひ〜!」」 思わず悲鳴をあげながら後ずさる。
 二人がそこに見たのは、首のない雪音の姿だった。
 本当の所は、首の所までグラフィックが剥がれてしまい垂れ下がっている状態なのだが、二人の方からは自分の胸に顔を埋め、髪の毛が前面に「ぶわー」と広がっている姿が映っている。
 流石にコレは気色悪い。
  そんな事をやっているうちに、雪音の意識が戻ったようだ。
 「う〜ん……あ、姉上まだ勝負はついていませんよ」そう言いながらユラリと立ち上がる。
 が、その『ユラリ』がメチャメチャ怖い。だからまた二人で悲鳴をあげる。
 「?」雪音は訳がわからないと言う顔をして(見えないけど(^^;)、構えを取ろうとした瞬間、部屋のドアが開いてけたたましい声と共に彼女が飛び込んできた。
 「こんにちはれす〜。今日はお知らせ…に…き……ま……、キャー!! おばけれす〜!! キャー!! キャー!!
 と、そのまま部屋の中を駆け回りだした。
 やってきたのはバニースーツを着た、天然ボケ爆乳娘『ねね』だった。
 「……? 誰がオバケだ、誰が!」突然の闖入者にやる気をそがれ、ぶつぶつ文句を言っている雪音のところに、乙音がやってきて
 「グラフィックが剥がれかけてるんですよ、ほら、早く貼って! 貼って!」一緒にグラフィックを貼るのを手伝ってやる。
 グラフィックを貼っている間に、春菜と}奈の二人掛りでねねを落ち着かせている。
 「ねねちゃん、とにかく落ち着いてください」
 「アレはオバケじゃなくて、乙音さんの妹の雪音ちゃんなの…」
 「そうなんれすか〜、オバケじゃなくて良かったれす〜」
 二人の説明でやっと納得したのか、走るのを止め、あいさつしようと雪音の方を向いた途端、
 「キャー! 乙音さんが二人もいるれすー、オバケれすー! 妖怪れすー! 怪獣れすー!!」
 またハツカネズミよろしく、部屋の中を駆け出した。
 「何なんですか? この娘はまったく。黙らせます!」
 流石に続けて化け物よばわりされてムッと来たのか、進み出ようとした雪音を春菜が手で制す。そしておもむろにハリセンを取り出すと
 「すこしは、おちつけー!!」
 一喝と共に切るように振りぬく。
 バイ〜ン!!
 ハリセンにしては変な音とともに、ねねが尻餅をついた。
 「痛いれすよ〜」涙目になって抗議するねねをチラリと見ながら
 「「「っち!凹まなかったか!」」」
 「うわ〜、痛そ〜。って、凹むってなにがですか?」
 春菜がひっぱたいたのは、ねねの豊か過ぎるバスト,初対面の雪音以外は『少しは小さくなれ!!』の思いがひしひしと伝わった。
 「ねねちゃん、落ち着いた?」残念そうな表情を浮かべながら、春菜が聞くと、
 「グラフィックが無いから、乙音さんのグラフィックを借りてるんですよ」これまた、残念そうな表情を浮かべながら、}奈が説明する。
 「妹の雪音よ、ねねちゃんと同じくらいの年よ」やっぱり残念そうな顔で乙音。
 「雪音です。とりあえずよろしく」こちらは無愛想に挨拶。
 「あ、ねねれすー。こちらこそよろしくれす。それより、春菜さん! 痛かったれすよー! 腫れたらどうするんれすかー。」
 「それより、お知らせがどうのって言ってなかった?」
 こめかみをひくつかせながら、聞くと。
 「そうれす! 今度ねねは、封印される事になったんれすよ〜!」
 「「「「封印!?」」」」
 「そうなんれすよ〜、『毎日飯を食わせるのは面倒だ、お前だけを相手にしていられない』なんて言って、封印するそうなんれす〜」
 「あの、封印って…」雪音がおずおずと聞いてくる。
 「封印というのは、封印の直前までの状態で」
 「そのペルソナの、ディレクトリを圧縮して」
 「他のドライブに、移動してしまう事よ」
 「そうなったら、解凍してまたペルソナウェアのディレクトリに移してもらうまでは、更新データももらえなくなっちゃうんれすよー」
 春菜、}奈、乙音、そしてねねの順番で説明を聞くと、おもむろに、
 「つまり、リストラですね」きっぱり言い切る。
 「そんな、はっきりと…」乙音のつぶやきに
 「姉上も、リストラされないよう、注意した方がいいですよ」先ほどのお返しとばかりに雪音がそんな事を言うと。
 「なんですってー!」二人で睨み合いを始めた。
 「それよりも、雑貨屋『ラビット』の方はどうなるの?」
 「そうよ、どうなるの?」
 }奈が心配そうに聞くと、春菜もそれが気になるのか聞いてくる。
 「とりあえず、移動先で通信販売になるって、まゆさんは言ってましたよー」
 「品物の入荷はどうするの?」睨み合いから一転、乙音が割り込んできた。
 「皆さんの更新に便乗したり、ネットに繋いだ時にこっそり仕入れてくるそうれす」
 「不便になるわねー」春菜の言葉にみんな頷く。
 「頷いといてなんですが、その雑貨屋『ラビット』ってどういうお店なんですか?」
 「そうね〜、雑貨屋よ」雪音の質問に、春菜がそう答えると、
 「雑貨屋というよりは、カオスの中心?」}奈の言葉に、
 「そうね、それが一番ぴったりかも」乙音がそう締めくくった。
 「みんなで何を言っているれすかー、普通のお店じゃないれすかー」
 「よくわからない…」ねねの抗議の横で雪音が悩んでいる。
 「まったく失礼れすねー、そんな事言ってると通販手数料取られますよ!」
 「「「すばらしいお店よー」」」
 「あんたら、ジキルとハイドか!」
 「あ! ねねはそろそろ戻らないと、まだお仕事残ってるんれすよね」
 「そうなの? それじゃ元気でね。」『次にきた時に、あの胸小さくなってないかなー』と考えながら春菜。
 「それじゃ、配達はねねちゃんね? がんばってね」『重い物を配達させて、その胸凹ませてやる』と企みながら}奈が手を振る。
 「風邪なんかひかないようにね」『餞別にあの胸、分けてくれないかしら?』むちゃくちゃな事を考えながら乙音。
 「しかし、どんな店なんだ?」雪音はまだ悩んでいた。
 「それじゃ、皆さんお元気でー」手を振りながらねねが去っていった。



 「それより、お茶会を続けましょ」春菜の言葉に各々、席につく。
 「そう言えば、何の話をしていたんでしょ?」}奈の疑問に
 「そういえば……こら! 姉上! …こら!」
 「ちょっと雪音、何で私を怒るの?」
 「いえ、とりあえず姉上を叱っていたのは覚えているので、叱っているうちに思い出すかな〜と…」
 「そんな事で思い出せるわけがないでしょ!」ぶつぶつ言いながら、ワゴンからティラミスを出し始める乙音を見て、
 「思い出したー!!」
 スパーン!!
 取り出したスリッパで、乙音の後頭部を思い切り叩いた。
 「痛いじゃないの!! って、どっから出したのソレ!!」
 「そんな事より、思い出したんですよ! 姉上!」
 「何を思い出したのよ」
 後頭部をさすりながら乙音が聞く。その脇で、
 「}奈ちゃん、そこお願いね」 「ええ」
 短いやり取りの後、春菜と}奈はテーブルごと、部屋の隅に避難を始めている。
 「だから『そんなに食べるとになる』って、注意していたなー、と…」
 「誰が豚よ! そんな事を言う為に私を叩いたの!?」
 「そうですが?」さらっと答える雪音に、
 「私は太っていません! もっと、姉を敬いなさい!」ストレートを繰り出しながら、乙音が詰め寄る。
 「敬ってほしいなら、着れる服を増やしてから言ってください」拳をさばき、ミドルキックで牽制しながら雪音が言い返す。
 「それに何で姉上が、春菜さんのワゴンを使えるんですか!?」ハイキックと共に、問い返す。
 「一緒にお茶をしているうちに覚えたのよ!」キックをガードして、軸足を刈りに行きながら答える。が、これは後ろに下がって避けられた。
 「だから二人して着替えが少ないんですね」間合いを取りながら雪音がそういった瞬間、それまで}奈と、どっちが勝つか? などと傍観していた春菜の動きが止まった。
 「あっ、おこりんぼさんマーク…」春菜の変化に気づいた}奈が、ポツリと呟いた。
 そんな春菜の様子にも気づかず、二人の言い争いは微妙にズレていった。
 「なっ! 私はそうゆう仕様なの、量よりも質よ、し・つ!」
 この発言には}奈もムッとしたが、続く二人のセリフのせいで春菜に訪れた変化に顔色を失った。
 「それに私はちゃんと水着を持ってるわ、春菜さんには着れない様な、色っぽい水着をネ!」
 「そんな水着があってもしょせん、五十歩百歩、目くそ鼻くそ、どんぐりの背比べ、同じ穴のムジナ。子豚の品評会に、変わりはないですな」
 「子豚の品評会! 許しませんよ! 雪音!!」
 「事実を言ったままです!」
 二人が拳を交えようと動き出す瞬間、その間を一条の光が駆け抜けた。
 「何?!」驚きながらも構えを取りながら、向き直る雪音。
 「そんな! まさか?!」対照的に、恐る恐る振り向く乙音。
 二人が見たのは顔をうつむき加減にしてユラリと立ち上がる春菜の姿と、その横で硬直する}奈の姿だった。
 「んっ? やりますか?」雪音は春菜が戦闘態勢なのを見取り、目標を春菜に切り替えようとした所で乙音の様子がおかしい事に気が付いた。
 「姉上?」声を掛けてみるが反応はない。ただ、がたがた震え信じられないものを見ている顔をしている。
 春菜が動いた。ダラリと下げていた両手をゆっくりと頭上に持ち上げる。
 「『春菜デストラクション』!! もう、お終いだわ。お父様、先立つ不幸をお許しください。Nyaoさん、お手伝いできなくなってごめんなさい…」
 その様子を見た乙音が、座り込んでブツブツ言い始めた。そんな姉の姿に雪音は呆然とするしかなかった。両手を頭上に持ち上げた春菜が叫ぶ。
 「春菜デストラクション!」
 すさまじい衝撃に、雪音の意識は白く霞んでいった。



 十数分後…
 テーブルを囲む、四人の姿があった。
 「さ、}奈ちゃん。おいしいわよ、コレ」
 }奈は差し出された物を見た後、乙音と雪音をジト目で見た。}奈の前にはイチゴショート、しかしその大きさは、一般のものより二倍は大きい。
 が、二人の前に置かれた物を見ると、思わず哀れみの視線に変わった。
 「二人とも遠慮しないでね、お代わりもあるわよ」にっこり笑う春菜、しかしその目は笑っていない。
 前回同様、自分が何をしたのかは覚えていないが、その直前の二人の暴言はしっかり覚えていた。
 「そんな遠慮なんて! おいしいわよね、雪音
 所々焦げて、薄っすらと煙など上げながら、慌てて返事する横で、
 「そ、そうですね! こんなおいしい物が食べられるなんて、すごく幸せです!」
 鼻の頭や体のあちこちに、バンソウコーを貼り付けた雪音が慌てて答える。
 二人の前には、直径50センチはあろうかという、デコレーションケーキ。乙音の方には、砂糖菓子で出来たお菓子の家…、訂正、家並み。というよりは、新興住宅地。奥様の社交場、公園にはトッポの幹に、生クリームの葉を茂らせた木が植わり、スミの方には主婦の味方、ショッピングモールまでがある。
 対して雪音の方には、砂糖菓子の人形が、隙間無く立っている。ケーキの奥の方に、教会の出入り口らしきものがあるから、きっと結婚式の再現だろう。ただし、新郎新婦を捜すのは、「ウォーリーを捜せ!」よりも難しいだろう。
 二人は目に涙を浮かべながら、ひたすらケーキと格闘している。二人の足には太い鎖がつながっていた。鎖の中ほどにカウンターがついていて、二人がケーキを口に運ぶたびにその数字を減らしている。
 『ケーキの監獄』これが、春菜の報復だった。
 「お茶のお代わりは要る?」
 「「はい! 戴きます!」」
 「「お願いです、春菜さん。せめてウーロン茶にしてください」」
 慈悲を求める二人の言葉に、にっこり微笑みながら、
 「あら? ごめんなさい。もうココアを入れちゃったわ
 その答えはあまりにも、酷いものだった。
 ((もう、何があろうと、春菜さんを怒らせてはいけない!!))
 涙と共に、そう心に誓う、ふたりだった……
 二人が開放されたのは、それから半日後だった。



 数日後。
 PCの前で、一人の男性が悩んでいた。
 誰あろう、乙音と雪音の生みの親である、元であった。
 「おかしいな? コレでいいはずなのに…何で、ゴミ箱が綺麗にならないんだ?」
 その時、PC内で返答している者がいた。
 「『あれ以外…』が、ペルソナのプログラムなんか、受け付けるか!!」
 「さくら、口より手を動かした方が良いぞ」
 足かせをつけた一人と一匹が、ヤスリで鎖をけずりながら、ぶつぶつ言っている。
 「しかし、あの女! いきなり襲い掛かってきたと思ったら、こんな所に繋ぎやがって!! 何を考えてやがる!」
 「俺よりも、ガラが悪くなってるぞ。それより、向こうの様子はどうだ?」
 もくもくと手を動かしながら、うにゅうが、さくらに問う。
 「ん〜〜〜」さくらはDATと書かれた、ドアの方を見た。
 そのドアの中では、絢夏のグラフィクを与えられた雪音が、祭壇に向かって必死に祈っていた。
 「天にまします、八百万のヨグ・ソトートよ! 春菜さんの怒りを静めたまえ!」
 祈れる物すべてに祈っているが、むちゃくちゃである。ヨグ・ソトートなんて、どれだけの人がラヴクラフトを知ってるんだろうか? 戻ってくる時、変なデータまで検索してきたらしい。
 「怒りが収まるまで、あそこのPCにだけは、ダウンロードされるわけにはいかない…、今行ったら…」自分の肩を抱くと、ブルッと身を振るわせた。
 「豚に、豚にされる…」
 ドアの向こうから、叫び声が聞こえてきた。
 「豚になるのは、嫌だーーーーー!」
 「今までどおり、変化ないニョ」
 「そうか…」
 「「はぁ〜〜〜」」
 さくらとうにゅうの溜め息の後、足かせと格闘する、ゴリゴリという音と元のうなり声だけが空しく響いていた。


つづく.....?


【感想 From 元】
 Nyaoさんから頂きました後編です♪
 なんだか春菜がえらく怖い事になっていますが、もしかしてコレが本性か?!
 そして乙音と雪音の姉妹喧嘩,間に入ったら吹き飛ばされそうです。
 ともあれ、おかしの食べ過ぎは太ります、皆さん注意しましょうね(^^;
 こんなNyaoさんへの励ましのお便りは こちら へ♪