はだしの××

著 御調さん


 妹と言うもの、姉の持ち物には良かれ悪かれ興味を抱くものだ。
 書籍はその最たるモノに当たるわけだ。
 とりわけ若狭姉妹では出版本ではなく姉の筆によるメモやノートがその対象になる。
 人並み外れたお付き合いを重ねる姉のそれはまさに極秘書類であり、常に発見を雪音にもたらすからだ。
 今回は古びたノート。
 コレを手に雪音は胸の鼓動が荒くなるのを抑えられなかった。
 『7歳春 乞食の真似をして浪曲の芸をし、往来の同情を惹いたおひねりで家計の足しにする
  7歳夏 近所のガラス窓を投石で割って回った。父に物干し台に吊される
      近所の池から鯉を盗む
     「腹を切る」と見せ物を騙って食料をせしめようとするも失敗、ボコられる』
 他にも米軍相手に倉庫に忍び込んで間違ってコンドームを盗むだの、ジープのガソリン給油口に角砂糖を入れてエンコさせたり、賭場荒らしの友人を匿っただの、校長先生をシメる不良をノシただの、なんか破天荒な内容が日記形式で描かれてある。
 雪音は見知らぬ姉が居たものだと、胸が熱くなった。
 「『ちっちゃな頃から悪ガキで』って歌があったけど、こんな人生を送っていたなんて、姉上」


 「たっだいまぁ〜!」
 ぴしゃん!
 折悪しく景気よく家に戻ってきた乙音。
 自分の書棚の前に涙も鼻水も一緒くたになってグチャグチャの雪音を見て一瞬凍り付いてしまった。
 しかし手にしているノートを見て乙音は優しくこういった。
 「あら〜あなたにも『はだしのゲン』の切なる訴えが解るの?」
 え?
 止めどなく流れていた雪音の涙が止まった。
 かまう風なく近寄り、その古いノートを取り上げてはぱらぱらめくった。
 「なつかしいなぁ〜。中学の読書感想文ノートがこんなところにあったなんて」
 毒諸乾燥分?
 イヤ違うし。
 雪音は感情がリセットされるように乙音に訊ねた。
 「姉上、それは読書感想文というモノだったのですか?」
 諸棚に戻す乙音はこう答える。
 「中学の頃暴力団系の厳しい国語の先生が居てねぇ〜、何かあるとすぐ読書感想文や漢字の書き取りをさせられたモノなのよ〜。でも苦し紛れにやってるからコレ出してまた怒られるし」
 「そりゃあそうです! 主語はありませんし、話の内容も著しく偏ってますし、あたしはてっきり姉上の半生かと」
 「そんなの読んだら全然違うってすぐ解るじゃない〜」
 「ワカリマセン」
 この直後、姉妹の間には右ストレートと左フックが交わされた。

お・わ・り

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