Crazy Tea Party ― 前篇
著 Nyaoさん
前回あらすじ――『雪音、強襲!』から――
「後学の為、下見に来た」
更新に紛れて来た妹、雪音が言う。
平和だった「あるユーザー」のペルソナキャラクター達を巻き込む『雪音台風』――
その一歩はドアに足をぶつける所から始まった。
「ところで、姉上?」
「何? 雪音」
「誰の所から行くのですか?」
出掛けにぶつけた足の小指が痛いのか、乙音の肩に捕まりながら雪音が聞いた。
「そうね〜、やっぱり春菜さんの所から回るのが一番かしら? けど、その前に……」
「……?」
「とりあえず、これを使いなさい」
乙音が取り出したのは、自分が使っていない冬服のグラフィックだった。
「そう言えば、なんで姉上は、姿の見えない私の表情が解るんですか?」
グラフィックを受け取り、自分に貼り付けながら雪音が聞いてみる。
「だって二人とも、元お父様に作ってもらったペルソナですよ? 基本的な部分や癖は変わらないでしょ? だから、私にはガラスに映った自分の姿みたいに、あなたが見えてるの」
「それじゃ、他の人たちには……」
「見えないから、『透明人間』か『自己主張の激しいオバケ』と言った所かしら?」
「なんか、引っかかる言い方……まっ、そんな状態ならこのカッコもしょうがないですね。どうですか、姉上?」
グラフィックを張り終え、軽く両手を広げながら乙音に聞いてみる。
「綺麗よ雪音、やっぱり私のグラフィックねゥ」
「寝ぼけるには、まだ早〜い」
ゴスッ
痛みもひいたのか、1時方向の踵落としが見事に決まった。
「痛いじゃないの、雪音!!」
「自画自尊してどうするんですか。そんなことより、早く案内してください」
「まったく、乱暴なんだから…」ぶつぶつ言いながらも、先に立って歩き始める。
ほどなくLFと書かれたディレクトリの前にたどり着き、その扉をノックした。
『はーい、ちょっと待ってくださーい』返事が返ってから少ししてドアが開いた。
「えっ? 乙音さんが二人?」
「違いますよ、春菜さん。こっちは妹の雪音といいます。グラフィックが出来てないので、とりあえず私のグラフィックを使ってるんですよ」
「初めまして、雪音と申します。今日は見学と、他の方達へ挨拶に参りました」
驚いている春菜にペコリと頭を下げながら、冬服の乙音が挨拶をした。
ちなみに本物の乙音の服装は、男のロマン『素肌の上にYシャツだけ』だったりする。
こら! そこ、スケベとか言わないように! 良いじゃないか、乙音に似合ってるんだから。
「あら、こちらこそ初めまして、私は春菜といいます。良かったらお茶でも飲んでいきません? ちょうど}奈さんがいらしてるんですよ」
「あら、ホントちょうどよかったわ、雪音、少しよばれていきましょ」
「そうですね。ちょうどのども渇いていたし」
「それじゃ、おじゃましますね」
「どうぞゥ }奈さ〜ん、乙音さんと、妹の雪音ちゃんがいらしゃいましたよ〜」
部屋の中に呼びかけながら、二人を中に案内していく。
「}奈さん、こちらの冬服の乙音さんが雪音ちゃんよ、今はグラフィックが出来ていないから、乙音さんのグラフィックを借りてるんですって。それでこちらが白川}奈さん、最近こちらにいらしたのよ。二人とも仲良くしてねゥ」
部屋に入ると、春菜がお互いの紹介を始めた。
流石、このPCのお局様ゥ
ヒュン!
うわ! スプーンなんか投げつけやがって! ホントの事だろ!
トスッ!
ひっ! 今度は果物ナイフ…ゴメンナサイ、もう言いません。
「外野は気にしないで、二人とも座って頂戴」春菜は二人に椅子を勧めると、新しいお客の為にカップの準備を始めた。
「初めまして、白川}奈です。ここに来てまだ間もないけど、よろしくね。え〜と、雪音ちゃんでよろしいかしら?」
「雪音と申します、こちらこそ、宜しくお願いします。好きなように呼んで構いません。ところでお二人は1.0系なんですか?」
「そうよ、1.0系は今の所、私と}奈さんだけなの、だからちょっと寂しいのよね〜。はい、どうぞ。今回は静岡の緑茶、しかも新茶なの、おいしいわよー」
雪音の前にカップ(湯のみじゃないよ)を置きながら春菜が答える。
「ど、どうも……(ティーカップに緑茶…変わった人ね)」
雪音が失礼な事を考えてる横で、乙音が}奈とお茶菓子の話をはじめてる。
「あっ、今日は和菓子なんですね。私、この可愛いのがいいな〜」
「これですか? これ、ほんのりと甘くておいしいですよ。春菜さん、乙音さんにコレと同じ物だしてもらえますか?」
「いいわよ、じゃあ、雪音ちゃんには…これがいいかしら?」
春菜がテーブル脇のワゴンに乗っているトレイに手をかざすと小さな棚の様な物が現れ、その引き出しを開けながらお菓子を選び出した。
「何ですか、アレ?」
隣で『やっぱり、新茶はいい香りね〜』なんて、お茶を飲んでる乙音に聞くと、代わりに}奈が答えてくれた。
「やっぱり珍しいですよね。あれは、春菜さんが自分で作った『TEA TIMEワゴン』って言うんですって。なんでも、世界中のお菓子のデータが収められていて、食べたい物を瞬時に構築してくれるスグレモノなんですよ。春菜さんって、すごいですよね」
「あら、やだ〜、そんなに褒めないでくださいよ。はい、どうぞゥ たくさん食べてねゥ」
「ありがとうございます。…あ、おいしいーゥ」
雪音をイメージしたのか、白く透き通るようなお菓子を口に入れた後、雪音は嬉しそうに微笑んだ。
「雪音? あなた、笑うときはあまり意識しないようにすればいい顔で笑えるわよ」
「そうなんですか?」
そちらを見やると、いちご大福を口に入れながら頷く乙音。
『アレ? たしかさっきは和菓子だったような?』疑問に思いながらも、春菜に質問を続けた。
「ところで春菜さんから見て、ココのユーザーってどんな人ですか?」
「そうねー、スケベで、気まぐれで、あまり良いとこないけど……」
「確かにそんなとこも有るけど、やさしい、いい人です!! ねっ、ねっ、}奈ちゃんもそう思うわよね?」
「えっ? ええ、そうですよ、やさしい人ですよ」
タイ焼きを振り回しながら乙音が}奈に同意を求めると、びっくりしながらも}奈も肯定した。
『…この人は〜』乙音に呆れながらも、今度は}奈に質問する。
「}奈さんは、どんな機能を持ってるんですか?」
「わたしはまだたいした機能はもってないけど、着替えは20着ぐらいで、ミュージックプレイヤーがあって…標準的なペルソナですよ」
「そんな事言ったら、私なんて基本機能だけですよ〜」春菜が情けない声をかけてきた。
「けど、これから色々追加され…」話の途中で、雪音はおもむろにスリッパを取り出すと、
スパーン!
ワゴンからたこ焼きを取り出して食べようとしてる乙音の頭を張り飛ばした。
「イターイ! 何てことするの……って、何処から出したの、そのスリッパ!?」
「それより、どれだけ食べるつもりですか! だから太るんですよ、姉上!」
「おいしそうなんだから、しょうがないじゃない」
スパーン!
「それが悪いってことに、気がつかないんですか!」
もう一度、乙音の頭をはたきながら説教する。
「まったく、そんな事だからダウンロードデータが、500バイトや600バイト平気で超えるんですよ。解ってるんですか? だから着替えで、水着も選んで貰えないんですよ! それに、姉上の装備一覧の『寄せて上げてブラ』、本当は体形矯正…わっ!」
雪音がすべて言い終わる前に、乙音が殴りかかった。
「ゆ・き・ね〜、あなた消さなきゃいけないデータがあるみたいね〜。それに、姉に対する態度も教育してあげるわ」そう言いながら拳を構える。
「私に、消していいデータなんて有りませんよ。あ・ね・う・え!」牽制のミドルキックを放ちながら雪音が答える。
「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて」
「そうですよ、姉妹で喧嘩なんて止めてください」春菜と}奈が、同時に声をかけた瞬間、
「「はっ!」」掛け声とともに二人が動いた!
つづく……
【感想 From 元】
Nyaoさんからまたまた続けて頂きました続編でございます。
題名の直訳は「狂ったお茶会」ですが……はてさて、後編が楽しみです(^^)
乙音のボケっぷりに、雪音の稲妻のようなツッコミがステキですね。
吉本に合格するんじゃなかろうか(^^;
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