爽やかな朝。小鳥の囀りが閑静な住宅街に一縷の音階を立てて行く。
そろそろ街が動き出す、そんな時間。
数ある住宅の一つ,赤い屋根の一戸建ての玄関を前に一人の少女が足を止める。
両手に学生鞄,その取っ手には熊のキーホルダーが彼女の白い手をくすぐっていた。
セーラー服が朝の風に舞う。
彼女は家の2階,上を見上げた。
朝日が、眩しい。
さらりとショートカットの髪が流れる。
すぅ
深呼吸。そして、
「浩之ちゃ〜ん、朝だよぉ!」
ソプラノボイスが、凛と響く。
「浩之ちゃ〜ん!」
二度目の呼びかけ。その時である!
どぎゅるるるる!!
空気をつんざく黒い物体が、彼女に向って飛来した!
彼女がそれに気付くのは遅い。
すぃと、それを見て避ける間もなくただ驚きの表情を浮かべるのみ。
どべしぃぃ!!
「うきゃん!」
白と黒のストライプが顔面に豪快にめり込むのを確認しながら、彼女は後ろへ一転、二転,三転と吹き飛び、最後にアスファルトにキスをした。
「ううう…」
大きな瞳に涙を溜めながら、彼女はゆっくりと起き上がる。
ずしゃぁ!
そんな彼女を朝日が遮る。逆光に、人影が彼女を見下ろしていた。
しなやかな肢体,成長期にある青年の姿だった。
「あ、あなたは…」鼻を押さえながら、驚愕の彼女。
彼女を直撃したそれ,白と黒の球体・サッカーボールをリフティングで自分の足から腕の中に戻して、人影はキッと彼女を睨み付け、言い放つ!
「毎朝毎朝、犬チックに僕の浩之の名前を叫ぶんじゃねぇ,神岸あかり!」
「ま、雅史ちゃん?!」
いつもと様子の違うもう一人の幼馴染みのいきなりの出現と言動に唖然とあかり。
そんなあかりを、雅史はビッシィと指差す。
「幼馴染みだからって油断したぜ,僕の浩之を朝っぱらから誘惑するなんて言語道断,お天道様が許してもこの僕はゆるさねぇ,この売女が!」
「な、何を言って…まさか…まさか雅史ちゃん?!」
ゆっくりと後ずさるあかり,その彼女に向って雅史はサッカーボールを持って斜に構える。
「すでに志保もレミィもこのボールで始末した。貴様もあいつらの後を追うがイイサ,死ねぇ! サンバ●カンボール!!」サッカー部次期エースの渾身のシュート!
どきゅるるる!!
どべしぃぃぃ!!
それは見事に背を向けて逃げようとした彼女の顔面にHit!
「うきょ〜〜〜」ゆっくりと少女の体がくず折れる。
完殺した彼は、ゆっくりと想い人の家を見上げた。
「待っててね,僕の浩之…ふふふふふふふふ,ふぁっはっはっは〜〜〜」
狂気の笑いが住宅街に木霊した。
危うし,浩之! 意外な敵がすぐ近く?!
なお、浩之はこの日は葵ちゃんの朝錬に付き合っていて難を逃れたそうな…