「てぇへんだ,てぇへんだぁい!!」
バタバタ,3人の教室に駆け込んでくるのは志保ちゃんニュース発行元。
「何だよ、その江戸っ子口調は」
「う、うるさいわね,浩之。とにかく大変なのよ!」
大変というわりには大きな瞳はキラキラ輝いていたりする。
浩之はジト目で、彼女を睨みつけた。
「お前、人の不幸は蜜の味ってゆ〜のにまんま当てはまるのな」
ゲシィ!
「?!?!?!」
「それで何だい? 志保?」
雅史は愚地独歩のようにコツカケが出来なかった浩之に哀れな視線を落としてから、話を促す。
コツカケを知らない人は武道家に向かって「俺はコツカケをマスターしてるぜ!」と宣言してみよう。
その後どうなっても当方は一切の責は持たないが…話を戻そう。
「セリオがえらいことになってるのよ」
「セリオって…マルチちゃんの姉妹機の?」
「そうよ、あかり」自慢げに頷く志保。何も彼女が偉いわけでもないが。
「えらいことって…アイツは来栖川重工の科学の粋を集めた機能重視の機体だろ?」
ようやく復活した浩之はこの学校のマスコットと化した掃除好きの少女を思い出しながら続ける。
「感情重視で機体に金かかってないマルチと違って、そうポコポコ壊れるものでもあるまいに」
「そうでもなかったみたいよ,生活防水だって言うし」
「「生活防水?!?!」」一同驚愕。
「そんなことよりも…」
「「そんなことよりもかい?!」」お決まりのツッコミ×3。
「そのセリオがこの学校に来てるのよ,何でも所属している部活でウチと対抗試合あるとかないとかで。ほら、噂をすればなんとやらよ」
志保は教室の窓の外を覗く。
校門を望める2Fのこの教室,グラウンドの所に彼女の女子高生達がその試合の為であろう,移動していた。
その中にセリオの姿がある!
「で? どう大変ってんだ?」
浩之は笑顔で同級生に話しかけているセリオを眺めながら、隣で青い顔をした志保に尋ねた。
「アンタ…分からないの?」
「本当…大変だわ」志保の隣ではやはり青い顔のあかり。
「OH! 浩之,これは大変なコトね〜!」
「えらいことやで、浩之!」
「レミィに委員長まで…一体何が大変ってんだ? なぁ、雅史…雅史?」
浩之は呆然とセリオを見つめる同姓に声を掛ける。
しかし彼の返事はない。ただ同然としているだけだった。
「おい、雅史!」
「あ…浩之…分からないのかい?」
遠く、セリオを指差して雅史は尋ねる。
「わかんねぇよ」
「セリオが笑っているんだよ」
「だから?」
「セリオに感情が生まれたんや」掠れた声で、保科は説明。
浩之はしばらく唖然とし…そして。
「別に喜ぶことじゃないのか? どうしてそんなに唖然とするんだ? お前等??」
そんな浩之の肩をポン、志保は叩く。
「噂ではセリオは性格も奢ることなく誰にも優しい,男から見ると世間知らずのお嬢様ってことになってるらしいわ」
「へぇ」
「へぇって…それが何を顕わしているのか、アンタ分かってるの?」
「??」
代わりにあかりがずぃ、前に出る。
「性格良くて勉強も運動もコンピューター制御で万能! さらに守ってあげたくなるお嬢様タイプ! そんなのに私達が太刀打ちできると思ってるの?!」
叫ぶあかりを押しのけ、保科が続く。
「さらに奴は…奴は時々眼鏡かけるそうやで!!」
「む…無敵だ」
がっくり、浩之はその場に膝を付いた。
どうなる? ToHeart! 最大の敵は以外な奴だぞ! っつうか隠れキャラ?!
「素敵だ」
雅史は一人、呟いていた。