「ぬぁ〜 どうして、どうしてなんだぁ!」
旅の途中。
突如叫び出すクラース。
「どうしたんですか?」
「頭痛いのですか?」
心配そうにクレスとミントは頭を抱えてうずくまる研究者に尋ねた。
「どうして…」
ボソリ,クラースは何かを呟いた。
「「え?」」
耳を立て、聞き返す二人。
ガバリ,クラースは不意に立ちあがり、青空に向かってこう叫んだ!
「どうしてピコピコハンマーなんだぁぁ!!」
「「はい??」」
呆気に取られるクレスとミント。
そんな二人に,特にミントにクラースは鬼気迫る勢いで言葉を繰り出した。
「どうして攻撃魔法なのに鉄製のハンマーが降って来るのではなくて、塩ビ製の、しかも叩かれてもぜんぜん痛そうもないものが降ってくるのだ? あ??」最後の方はなんかヤンキーくさい。
あまりの剣幕に、ミントはあわあわとわななきながら涙目で小さく応えた。
「傷を癒す法術士ですから…」
「理由にならん!」そんな小さな抵抗をばっさりと切り捨てるクラース。
「神の大いなる意志とか?」見かねたクレスはそう助け舟を出した。
ギギィ,クラースの重たい、重たい瞳がクレスを捉える。そしてずずぃと彼に迫り…
「めっちゃ貧弱やん,話になんね!」
鼻をほじりながら召還術士はクサった。
「え〜と、その〜」
「クラースさん…」戸惑う若い二人。
そんな二人をわき目にも振らず、クラースは地団駄を踏み出した。
「そもそもあんな攻撃魔法食らって倒れる敵も分からん! 人生に悔いはないのか,敵キャラ!」
「あの…クラースさん?」おずおずとミントは声をかけるが無視される。
「ピコピコハンマーに潰されて一生を終える,そんなの関口宏が許しても。オレは許さん!」
「いえ結構痛いですよ」苦笑して言い放つクレスにキッと彼は鋭い視線を向け、そして…
「ひぃ!」
ミントを睨んだ。
「俺にかけろ…」
ズィ,アップで迫るクラース。
「え、あの、その…」もはや泣き出しそうなミント。
「オレにピコピコハンマーをかけろと言っているんだ!」
「危ないですよ,クラースさん!」クレスはそんなあまりの無謀に叫んだ。
「危ないものか! あんなんで死ぬ敵は死んだふりしてるに決まってるんだよ! さぁかけろ、今すぐかけろ,さっさとかけろぉぉ!」
クラースは目を血走らせてミントに迫りまくる。
「ひぃぃぃ! 来ないでぇぇ!! ピコピコハンマー!!」
ぺしゃ…
真実の探求は、いつも虚しい。
塩ビ製の赤いハンマーは、今日は一段と赤みがかっていた。
「なぁぜなんだぁぁ!」
翌日
「ど〜したんですか?」
全身包帯で叫ぶクラースに、クレスは気の抜けた返事で相づちを打った。
「おかしいのだよ、キミ!」
「だから何がです?」務めて優しく尋ねる若き剣士。態度だけ。
「この間、回復魔法『ナース』で出てくるナースちゃんをナンパしたんだけどさぁ…」
”をいをい”ジト目でクレス。
「精霊になって出直して来なって、あっさりとフラれたんだよ,一体何故だ,何故なんだぁぁ!!」
頭を抱えて絶叫のクラース。
クレスは氷の瞳で彼を見つめ…
「ミント」
パチン,指を鳴らす。
彼の後ろからスゥっと現れたのは若き法術士。
ゆったりとしたモーションで右手を天に上げ…
「ピコピコハンマー!」
ぺしゃ…
最近はミントの攻撃魔法に磨きがかかっているそうである。