エリーのペルソナ

お題:『女神異聞録ペルソナ』


 ペルソナ,仮面,心のカタチ,私のカタチ…


 「Brown! 後ろ!」
 「ゲゲッ!」
 彼に向かって熊系Monsterの爪が振りかざされる!
 「Shit!」私はペルソナを反転,その腕に向かってありったけの力を叩きつけた。
 「グォォ!」腕が吹き飛び、風圧だけがBrownを襲う。
 「た、助かったぜ,さすがだね,エリーは」
 そんなこと、ない。
 「私がSlumpの時はBrownに助けてもらうことにしますわ」
 「そんな日が来るとは、と〜て〜思えないんすけど…」
 苦笑する彼。
 彼とって、私は皆と同じように映っているのだろう。
 『エリーはすごいよな、成績も良いし』
 『スタイル良いわよね』
 『お嬢様よね、エリーさんて』
 今までまわりで囁かれていた声。雑音に近い、私を無意識のうちに「そう」させようとする声。
 『楽しそうだね』
 !?
 その声の中、彼の声が心に残る。
 私が素顔を表わしたら、貴方はどう思うの? Naoya?
 あれ?
 何故、私は彼のことを思うのだろうか? 想いを打ち払う。


 「駄目! 癒しが効かない!」
 Naoyaの傷から、血が溢れ出る。
 治癒の魔法,私のペルソナの使える数多くの特性の一つ。
 しかし、彼の深い傷の前には、私の力では無力だった。
 駄目,私じゃ…無理なの?
 「どいて!」
 その声に、私は自ら身を彼の前から引く。
 Maki?
 彼女はNaoyaに前に跪くと、疲れ切っているにもかかわらず彼に手をかざす。
 仄かに明りが患部に灯る。
 強力な癒しの力だ。
 「すげ…」Markの呟きが後ろから聞こえてくる。
 「力、か」
 「? 何か言った? エリー?」
 「ううん、何でもない」
 首を傾げたBrownに、私は何事もないように微笑む。
 心に疼く嫌な感情。
 私は…


 「通らない?!」
 私のペルソナの渾身の一撃は、襲い来る”首のない騎士”の装甲が破れなかった。
 「退くぞ,エリー!」Markが私の手を引っ張る。
 「任せろ! タケミカヅチ!!」
 Keiの声。
 「「!?」」
 背後から通り抜けるは雷を伴った裂風!
 あっさりと、それは首のない騎士を両断した。
 「南条のペルソナは切れ味抜群だな」Markは感嘆の溜息。
 「これだけは、藤堂にも負けんよ」
 「そうだなぁ」Naoyaは素直にそう感心,彼に向かって微笑んだ。
 「力、か」
 また、声を突いて出る。
 私のペルソナは癒しという力ではMaki、破壊力という点ではKeiに遠く及ばない。
 まいったな。
 私のペルソナには、得意とするところが,ない。
 「いえ…」
 否定。
 それは、私自身の問題が投影されているに過ぎない。
 『すごいな、さすがエリーだ』
 そんなまわりの求める声に、私は結局そう在ろうとしてきた。
 完璧であろう、そう思うが故に結果、秀でたものがないんだ…


 Monsterに私達は囲まれていた。
 「あっちは任せたぞ,エリー!」
 「Ok!」それに私はいつも通りの返事。
 「お、おい! 南条,無茶言うなよ!」
 「大丈夫よ,Brown。任せて!」
 戸惑うBrown。
 「…頼りにしてるぜ」そして彼は言う。
 「Yhaaa!!」私は小さく頷くとペルソナをMonsterに向けて解放!
 頼りに,しないで…
 背後に向かって、そう想いを吐く。
 私はそんなに、強くない。
 貴方たちが思っているほど。
 ホントは弱いんだ。
 だから
 だから私に『強いエリー』なんていう仮面を着けさせないで!


 「フゥ」
 溜息を吐く。
 しばしの休息。私はその場に腰を下ろす。
 と、隣に気配を感じ、振り向く。
 「お疲れだね!」
 陽気なBrown。
 でもそれは、人を気遣う陽気だということを、最近気付いた。
 彼なりの優しさだ。
 と、彼の微笑みは消え、神妙な面持ちで私を見つめる。
 「?」
 「…何かあったのか?」躊躇いがちに尋ねる。
 「いえ…」
 私は彼から視線を逸らした。
 「そっか」
 瞬間だったのか、それとも長い時間だったのか,無言が続いた。
 「最近よく、考え込むような顔してるの見るからさ。気になったんだ」
 時間に耐え兼ねたのか,Brownは沈黙を破った。
 「…そう? 良く見てるのね,もしかして私にLove?」茶化す。
 「ち、違うって!!」頬を紅潮させ、彼は慌てて否定。
 「なにもそこまで力一杯言わなくても」
 「そ、そう?」苦笑するBrown。彼はその表情のまま、続ける。
 「オレ,昔色々あってさ。無意識に人の顔色を見ちまうんだ。だからさ」
 「くろ〜してるわね」
 「へいへい…って。でも、オレ達は仲間だろ。気になっちまってさ」
 「そうね」
 だから、心配させたくない。
 だから、傷つけられるところを見たく,ない。
 だから、守りたい。
 「仲間って,何かな?」呟くように、尋ねる。
 「?」Brownは首を傾げる。
 深く考えたことはなかった。
 私を見てもらいたい。
 だから、認めてもらいたい。
 そのためには、皆の求める私の姿でなければならない。
 完全でなければならないんだ。
 だからこそ、私は私をペルソナで飾る。
 でもそれは、
 私自身を見てもらうことではない。
 「仲間、かぁ」『考える人』を真似ているのであろう、そんな格好でBrownは言った。
 「ん」私は頷く。
 「…自分を飾らなくて済む、気の許せる奴等…じゃないかな? 違う?」
 顔を上げ、Brownは優しく微笑んだ。
 「…」
 「エリーもさ、すぐには難しいと思うけど…外して良いんじゃないか,オレ達には」
 「え?」突然の言葉に、私は呆然と彼を見つめる。
 「心のペルソナを、さ」言ってBrownは仮面を外す仕草。
 「そうだね」
 私は微笑む,偽りなき微笑を。
 「仲間ってさ…」私は思いきり体のバネを利かせて立ちあがる。
 「ん?」
 「良いもんだね!」
 そして、
 私の中で、新しいペルソナが見つかる……


looking for yourself and myself ,together !

これは緒方ばんり氏にお送りしたものです。
氏のHP閉鎖に伴い、ここに移動致しました。