「鞠絵ちゃんが帰ってきた?!」
航は驚いて立ち上がる!
病弱だった鞠絵は先日、置き手紙を残してこのウェルカムハウスから姿を消したのだ。
手紙にはこう一言。
『強くなる修行の旅に出ます』
病弱な彼女がそんな行動に出るとは誰も思ってもいなかった。
航も、妹達も彼女の消息を探したのだが、愛犬のミカエルともども痕跡すら見つけ出すことができなかったのだ。
”大丈夫なのか?! 怪我とかしてないよね、鞠絵ちゃん!”
航はそう祈りつつ、玄関へと駆ける。
そこには妹達がすでに輪になって、帰ってきた鞠絵を取り囲んでいた。
「鞠絵ちゃん!」
航は叫ぶ。
「ワン!」
答えるのは彼女のお供たるミカエルだ。
彼の声に応じて、妹達の輪が解き放たれる。
そこに立つのは一人の大きな影。
「え?」
航はぴくりと足を止めた。
「鞠絵……ちゃん?」
中央にいた鞠絵はゆっくりと顔を上げ、航に視線を向けた。
「兄上様ぁぁ!!」(声:菊地 正美)
「んな?!?!」
航は驚きを禁じ得なかった。
鞠絵は元気だった、元気すぎていた。
身長148cmの彼女は、その高さ以上の貫禄を持ち合わせている。
まずは腕――年齢を経た丸太のような、それでいて柔軟性に飛んだゴムのような鍛えられた腕だ。
足――カモシカのようなしなやかさと、まるで筋肉の鎧を纏っているようながっしりとした両足。
そして胸――女の子特有の胸の膨らみというよりもむしろ、均整の取れた筋肉の胸鎧というべきか。
なにより彼女の表情だ。
地上最強の生物のようなふてぶてしさと、そして眼鏡の奥に光るよどみのない殺気。
隣に控えるミカエルは独眼になっていた。さらに温厚な気配は消え、獣の気配がする。
”バ、バキと武蔵のようだ”
作品は違うが……それが航の純粋な印象だった。
「鞠絵は、鞠絵は強くなって帰ってきましたっ!」(声:菊地 正美)
駆けてくる鞠絵、その速さは風のようだ!
「くっ!」
回避行動に移る航、だが!
「遅い!」(声:菊地 正美)
「しまっ……」
後ろから羽交い締められる、万力のような強い力が航の背中を締め上げた。
「ぐあぁぁ!!」
「兄上様、鞠絵は強くなりました。もぅ兄上様にご迷惑をおかけすることはありませんわ」(声:菊地 正美)
「鞠絵ちゃん、強くなりすぎ…」
「はい。夜叉猿を倒して、地下闘技場で優勝してきましたの」(声:菊地 正美)
「ゆ、優勝?! ……独歩は強かった?」
「そこそこでしたわ、ね、武蔵,じゃなかった、ミカエル?」(声:菊地 正美)
「ばぅ!」
「こうやって、背骨折りで一撃に」(声:菊地 正美)
「う」
ばき……
枯れた木を折るような音が1つ―――
「あにぃ、大変だよ、大変!!」
衛の声が背骨に響くのか、やや苦悶の表情を浮かべて航は駆け込んできた彼女に視線を向けた。
「亞里亞ちゃんが……早口言葉を覚えたんだよっ!」
「そんなことなら命の危険はなさそうだし、いいんじゃないの?」
人間、慣れというものは恐ろしいものである。