孤高の解呪

お題:『月姫』


 月の光を、薙ぐ。風にはためく修道服は所々僅かに裂けていた。
 風の音を耳に、私は街路を駆け抜ける。
 “敵総数・3――うち2が死したモノ、ですね”
 私を追う死を纏う気配は着実に距離を縮めてきている。
 “しかし、間に合います”
 仲間との指定場所まで後僅か。
 そこには私よりも腕の立つ狩人が二人、目標達が来るのを今かと待ち構えているはず。
 “でも、おとりと言うのはそんな役ですね”
 苦笑の中、一段と強くなった殺気から付かず離れず私は駆ける。
 夜の帳の下りた街――煉瓦造りのこの街並みは、19世紀のとある西欧の風景。
 月光に私の影が、石畳の道の上に長く伸びる。
 だけれども、影が同じ場所に在るのはホンの一瞬。
 私はついに指定である街角を視認,右への小道に入る!
 「?!」
 驚――そこには大量の血の跡が、2つ。
 「まさかっ!」
 私は今来た道を振り返る,迫り来る3つの影。
 次第に大きくなるその3つのうち、2つは見覚えるのある姿だった。
 「………主よ」
 私は自然と言葉が漏れる。
 私は引き返すことは出来ない,憎き彼らを葬ることこそが、自らの使命であるから。
 同時――進むことは出来ない。
 「私は貴方を信じません」
 私は存在すら許されないから。
 「信じませんから―――」
 両手を広げる,私の両手には五指の間にそれぞれ小剣が生まれる。
 祝福儀礼の施した小剣だ。どのような化物にも主の力には平等に屈服する。
 それが片手に四振り,計8。
 「――私は私の敗北の運命すら、信じません」
 眼鏡を軽く押し上げ、決意。
 私は襲い来るかつての仲間だったモノ,そして数ある元凶のうちの1つを滅ぼすために。
 自らの止まった時間を,決して進むことのあろうはずも無い運命の壁を。
 迎撃するっ!!


 ―――先輩、ねぇ、先輩」
 声に、私はまどろみの中、目を覚ます。
 「ほぇ? 志貴…くん?」
 「せ、先輩っ」
 目の前には引きつった顔の男性。
 「やだ、もぅ! 私の寝こみを襲おうとしてぇ」
 「……ここは学校の中庭です。こんなところで寝ないで下さい」
 「へ?」
 「それと」
 私は気づいた。反射的に彼の首筋に小剣を突きつけていることに。
 「あー……まぁ、志貴くんに少なからず邪心があったから、本能的にこー反応しただけであって……ねぇ?」
 「同意を求められても、なぁ…?」
 私達は苦笑する。
 止まっていた私の時間。
 それは確実に彼と供にあることで動き始めていた。
 「で、寝ている私にキスでもするつもりだったんですか?」
 「………さぁ?」
 とぼける志貴くんの表情は、私――シエルには、導きの灯火の様でした。