ここは首都プロンテラの郊外。
休日は憩いの場として親しまれている北の森林に近い田舎町。
そんな閑静な街に私の仕事場兼自宅があ……
ちゅど〜〜ん!
…時々爆発音が聞こえたりするけれど、閑静な街な……
どんどんどん
「ちょっと! アンタんトコの姉さんがまたやってくれたよっ!」
けたたましく叩かれる玄関の戸。
伴う、近所のおばちゃんの苦情。
「あー」
私は青い薬液の入った試験管を棚に縦置き、空いた手で目じりをこする。
「現実逃避は出来ないものね」
自分でも大きな溜息が出たのが分かる。
重い足取りで私は玄関の戸を開き、太めのおばちゃんが指差す方向を見つめた。
森の中、たなびく白い煙が一すじ。
「毎度毎度、姉がご迷惑をおかけします」
「分かってたら、何とかならないものかしらね」
「良く言い聞かせてはいるのですが……その……」
ぺこぺこ頭を下げつつ、私はおばちゃんから逃げて煙の方向へ小走りに急いだ。
明るい昼下がりの森の中、やがて見えてくるのは焦げた地面と小規模なクレーター。
その中心にはボロボロなマントをまとい、魔女のようなとんがり帽子をかぶった女性が一人。
「姉さん! いつも言ってるでしょ、ご近所に迷惑かけないって!!」
自分自身そっくりな容貌を持つ姉に、私はあらん限りの苛立ちを込めて叫んだ。
そう、彼女は私の双子の姉。
魔法都市ゲフェンにて魔法術士(ウィザード)の称号を受けた、正真正銘の魔女である。
対する私は、天空都市ジュノーで錬金術士(アルケミスト)の学位を収め、ここプロンテラで細々と薬師として生活していたのだが。
一年前、私の仕事場兼自宅に冒険者をしていた姉が押しかけてきてから日々こんな感じである。
『新魔法の開発』と言いながら環境破壊にいそしんでいるとしか思えない。
私は姉に近づき、下からその表情を伺い見た。
案の定「燃え尽きて」いる。
何らかの魔法実験で魔法力を全て使いこんだ上に、意志力すらも注ぎ込んだ結果だろう。
「まったく」
私は懐から取り出した試験管の一つの封を切り、姉の口に突っ込んだ。
中に入った青い液体は、浅い呼吸の姉に呑みこまれ……
「っは! あら?」
彼女はキョロキョロと辺りを見まわし、その拍子で帽子が地面に落ちる。
頭上からの太陽に光に、まぶしそうに目を細めた姉は私の姿を見て、
「おはよう」
「おはようじゃ、ないっ!」
ビシッと私は焦げた地面を指差し、
「こーゆーことはやめてって、いつも言ってるでしょ! ご近所迷惑なの」
「んー、おかしいわねぇ。こんなはずじゃないのに」
「聞いてよっ」
焦げた地面を見渡しながら、首をひねる姉は帽子を拾いつつ私に「ねぇ?」と同意を求めてくる。
「本当なら、この辺一体焼け野原になってるはずなのに…」
「なおさら悪いわっ!」
「今回の実験はね、火の属性を持つファイヤーボルトと水の属性を持つアイスボルトを同時に発動したらどうなるかっていうものなの」
いつものことながら人の話を聞かない&マイペースな姉である。
「そんなことできるわけないでしょ」
「えー、だってドラゴ○クエストのへっぽこ魔術師ポップですらできたんだよー、メド○ーアって感じで」
「それマンガだから。それ以前にゲーム違うし」
「似たようなものじゃない」
「似てない似てない」
「でも出来ても良いと思うんだけどなー、ここをこうして」
「え……」
呪文詠唱に入る姉。止めても…間に合わないっ!
「右手にファイヤーボルト、左手にアイスボルトっ!」
姉の魔法完成とともに、全てが光に包まれた。
それは。
この世界(仕様)にはありえない技(バグ)。
なにか根本的に変な音がして――――世界(サーバー)が止まった。
「オチは垢バンってことで?」
「やーめーてーー!!!」