休日の楽しみ方
「てめぇ!」
「やるか!」
二人の屈強な詰襟学生服の男がひしめく、狭い畳敷きの散らかった小部屋。
部屋全体から男らしい,いや、それを通り越して男臭さの充満した場所,男部屋と言うに相応しい。
まるで夏の柔道場の匂いの立ち込めるその独身寮で、二人は互いに凄まじい闘気を発しながら睨み合っていた。
そんな張り詰めるような一触即発の緊張の中、テレビからの音が唯一の音源だった。
「好きとか嫌いとか〜♪」
何やらアニメチックな映像がTV画面に映っている。それに合わせるかのように女性ボーカルのあまり巧いとは言えない歌が流れていた。
「富樫、お前が詩織派たぁ、見損なったぜ!」
眼鏡をかけた男の片割れが叫ぶように言い放つ。その表情は信じていたものが裏切られ、それが地に這いつくばる虫けらのようなものに変化した時のそれに酷似していた。
「何言ってやがる,田沢。貴様が紐緒派とはなぁ、これでお前との友情は決裂だ!」
返すは部屋の中なのに学生帽を被った男。やはり彼の眼鏡男を睨みつける瞳は汚物を見るもののような光が宿っている。
「フン! 当然だぜ」
「上等だ」
まさに拳が振り上げられんとした,その時!!
「何騒いでやがる?」
「「鬼ヒゲ教官!!」」
玄関である唯一の扉が開き、竹刀を持ったヒゲを生やす中年が疑惑の目で二人を見た。
と、その教官と呼ばれた彼の視線は二人の学生の向こうにあるTVへと向く。
「お前等…何やってやがる??」拳を怒りに振るわせ、彼は震える声で呟くようにした尋ねた。
「田沢の奴が死檻様をバカにするんですよ!」
「富樫が女王様を軽蔑しやがって!」
「テメェら…男の中の男を目指す男塾塾生が『ときメモ』で、ときめいてるんじゃねぇぇ!!」
鬼ヒゲの怒り炸裂! さすがに二人の学生はお互い一歩後ろに下がる。
「ギャルゲーなんぞやりおって! 男らしさのカケラすら捨てやがったのか?! そんな貴様等などときめいて死んでしまえ!!」
「だって…」
「なぁ?」
困った様に顔を見合わせる富樫と田丸。
「「おもしろいから良いじゃないですか」」
「よかないわ! ボケぇぇ!!」
鬼ヒゲ,竹刀でTVをバコバコ叩く。
「ジェ、ジェイの奴だって似たようなゲームやってますぜ!」
慌ててPSを懐に抱き、田丸は大声でまくし立てた。
「ふん! 奴は男の中の男、お前らのように鮒抜けてないわ」
「じゃ,じゃぁ、奴の部屋に行ってみましょうぜ」富樫が鬼ヒゲの背を押しながら部屋を出る。
「もしもお前等の言う事がホラだったら…そうだな、さっきの喧嘩の決着を撲針愚でつけてもらおうか?」
「「…分かりました」」
しかし、そう言う鬼ヒゲに二人の男は自信を持って答えたのである。
「大神さん! さくらは…」
何やら、あかほりチックな部屋の中、鬼ヒゲは呆然とTV画面の前に佇む外人を見つめていた。
「…J」
「これは日本の大正時代を知る為の勉強だ」
しかしJと呼ばれた、やはり屈強な筋肉を体にまとう男は無表情に毅然として、中年に答える。
「くそっ! サタンめ!!」TVからは沖縄の熊殺しっぽい女性の声が聞こえてきた。
「…ちっ,あかほりさとるめ! 俺は大正時代を味わいたいのに」Jは舌打ち。
「Jよ、やはりお前、軟弱なサクラファンじゃないのか?」疑惑の視線を投げつける鬼ヒゲに、Jは無言のまま首を横に振る。
と、鬼ヒゲを押しのける様にして田丸が前に出た。
「J、お前がサララファンでないというのなら…」
懐から一枚のポスターを取り出し、床に広げる!!
「これを踏めるか!?」
「こ、これは!!」
Jは床に広がった光景に、恐れ慄く!!
ジャンポールの着ぐるみを来たアイリスが、この上もなく可愛らしく描かれているそのポスター。
幻のアイリスポスター,lain対抗バージョンである!! マニアの間では数十万の値で取り交わされている逸品!
”知ってるぜ、J。お前が実はロリコンだということを…”
田丸は眉一つ動かすことなく、床を見つめるJに向かってほくそ笑む。
「ふん…こんなもの、この俺が踏めないとでも思ったのか?」
Jは田丸,鬼ヒゲ,富樫の順に視線を移し、そして右足を上げる。
上げて…
上げ…
下ろせない!!
「…グゥゥ!! 田沢、このポスター、俺に譲ってくれ!!」
「きぃさまぁぁ!! ジェェェイィィィ!!」
鬼ヒゲの怒りの竹刀がJの脛を打っていた―――
「オレだけじゃない,桃太郎の奴もゲームはやっているぞ…」
Jはゆっくりと告白する。
「バカな,奴は男塾一号生筆頭、お前等のようにギャルゲーに男の魂を売り渡してはいないわ!!」
「なら、見に行って見ようぜ」
富樫の言葉に鬼ヒゲは頷き、四人は剣 桃太郎の部屋までやってくる。
扉をそっと開け、四人は隙間から中を覗く。
するとどうであろう,剣は薄笑いを浮かべながらデスクトップパソコンに向かっているではないか!
それもそのパソコンのフォルムは間違いない…
「98だ!!」
「あのHゲーの宝庫!(偏見)」
踏み込む四人!
「剣!」
「ん?」
叫び寄る鬼ヒゲに、剣はゆっくりと振り返る。
と、モニターに映るのは…
「「マインスイーパー?!」」
それも1024×768解像度でフル画面表示だったりする…
『こいつにはやはり勝てん,っていうか勝ちたくないな』と、Jは後に述べている。
「どうした? 雁首揃えて?」
「いや、何でもない」
喜んで良いのやら,鬼ヒゲは困った顔で曖昧に答えた。
と、剣は田丸の姿を捉えて思い出した様に言った。
「田沢。なんか校長が呼んでたぞ。お前、ゲームとか詳しいだろ? それを教えたら、なんでも光栄のゲームで教えて欲しいところがあるんだと」
「光栄のゲーム?」田丸は首を傾げる。
「三国志や信長,ジンギスカンか! さすがは校長じゃい,世界は校長の手の内だな!」鬼ヒゲは 一人、納得して頷く。
「シミュレーションで分からないって…隠れキャラとかいないんだがな」
「ともかく行ってやれよ,校長室にいるってよ」
剣の言葉に、四人は校長室へと向かう。
「おお、来たな。これなのだが…」
出迎える校長以前に、その後のTV画面を見つめて四人は硬直していた。
ありえない、そう、あってはいけない光景だったのだ。
「「「アンジェリーク?!」」」
「ルヴァの攻略はどうしたらいいんだ?」
真剣に田丸に尋ねる校長、それをJはジト目で鬼ヒゲに判断を仰いだ。
「教官、これは良いのか??」
無言…
やがて、ゆっくりと鬼ヒゲの口が動き出す。
「…それはOK!」
鬼ヒゲ教官,親指グッ!
「「ラブリー眼帯?!」」
「わしが男塾塾長・江田島平八である!」
これはまあくつう氏のHPにお贈りしたものです。
一部修正してあります。