消印:8.4. 不二出張郵政所受け


真武沙叉 殿


拝啓

 盛夏の候。毎日うだるような暑さが続いております。
 連日の青空に一雨願う心しきりでございます。
 沙叉殿はこの暑さの中、お変わりありませんでしょうか?
 こちらは相変わらずの毎日を過ごしております。
 ときに、ここ不二の山中では、聞きしに勝る多くの怪異が跋扈しており、
 己が非力を改めて感じさせられる所存。
 次にお会いする時までに貴殿の知る梅夜よりも強くなれる様、精進を
 続けたいと思っております。
 簡単ではありますが、取り敢えず御一報まで。
 時節がらどうぞ御身お大切になさってください。

                                敬具

                             修羅道梅夜.







消印:8.20. 中央郵便局受け


梅夜へ

 こんにちわ、手紙見ました。
 こういうのって書いたことないからどう書けば良いのか、ちょっと迷うね。
 梅夜の修行,すごく大変そうだね。無理をしないで、怪我なく帰って来て。
 あの時は私、見送りの駅までずっと「付いて行きたい」って言い張ってた
 けど、やっぱり足引っ張っちゃうね。
 こうして考え直すと待っていて良かったと思う。
 こちらの生活だけど、いつも通りにしようと頑張ってるよ。
 昨日ね、化光と魔法雑貨のお店に行ったんだ。
 でね、そのお店の主人がメフィストヘレスっておじさんで、すごく変わって
 るんだよ。それになんか初めて会った気がしない、不思議な感じがするんだ。
 今度、梅夜が戻ってきたら紹介するね。
 あ、そうだ、不二の近くに関ヶ原の草原があるよね。
 化光から聞いたんだけど、パステルが関ヶ原草原の実家に帰ってるんだって。
 どうせなら帰り道、寄ってエルフの村を案内してもらったらどうかな?
 私、エルフ特製の破魔のかんざしが欲しいなぁ。
 何はともあれ、修行,頑張って下さい。私も、寂しいけど頑張るからね。
 また手紙下さい。

                               叉沙より.






消印:9.2. エルフの里簡易郵便局受け


Dear 化光 倉雲

 パステルです。そちらは如何でしょう?
 ここ関が原のエルフの村は都会とは違って風通しが良いので涼しいです。
 今,そちらはようやく猛暑が落ち着いてきたと言うところでしょうか?
 涼しいのは良いのですがこの間、村長が大掛かりな魔法を使った影響で
 異界から滅法強い怪異が多数召還されてしまいました。
 村人全員で不二の樹海に追いやったので、森に踏み込まない限り襲われる
 ことはありませんが、改めて魔法の恐さを知った次第です。
 それはともかく、こうして手紙を出したのはそろそろそちらに戻ろうと
 思ったから。
 というのは昨日、梅夜がいきなり私の家に「村を案内しろ」ってやって
 きたんです。
 びっくりしたわ、何でも不二で修行してたそうですね。
 そうするとあの怪異とも一戦を交えてきたのでしょうか?
 相変わらずバカがつくほどこの人は強いみたい。
 そんな梅夜ですが、今日は叉沙の為にかんざしのお土産を買うそうで、
 私の頭を使って一日中悩んでました。まったく叉沙には甘い奴ですね。
 あ、もちろん化光にも、みやげ買わせるから安心して。
 叉沙にも梅夜連れて帰ると伝えておいてください。
 では、近々会える日を心待ちにして…

              Devotedly , ボーイズ・L・パステルナーク

 P.S.

  おそらく、化光がこの手紙を読んでいる頃、私達はすぐ近くまで
  来ていると思います。




 ……」

 沙叉は化光の持ってきた手紙から目を離す。

 ギィ…

 「おかえり!」扉の開く音に、化光は笑顔で振り返る。

 「たっだいま〜」長身のエルフの娘,そして大柄な鎧武者が扉を潜ってやって帰ってきた。

 沙叉は笑顔で、エルフ娘の後ろの彼を迎えた。

 「おかえり」

 「ただいま…」

 そう応えた鎧武者の手には、優しく輝く一本のかんざしが握られていた…



これはレイニー氏の1999夏コミにて発行した同人誌に投稿したものです。
一部改変してあります。