よっ! オイラは虎賁。
今日はオイラ達星神がオフの時――まぁ、支天輪の中にいる時を紹介しようと思う。
知っての通り支天輪の中は静寂な夜空に喩えられてもおかしくない、果てしない闇。
そこに星神達が星座という形を取って、いつでも月天様のお力になれるように待機
しているんだ。
でもいつもの様にお呼びがかかるわけじゃない。
戦国の世なら戦闘力の高い北斗七星達や、防御力の高い塁壁陣なんかが頻繁に出動
するんだけれど、今みたいな平和な世の中じゃ、あいつ等の出番は無いだろうな。
オイラにしたって毎日スポーツを教えてやるなんて事も無い。
だからと言ってだ。
出番が無いからって、この夜空の中でじっとしているほどオイラ達もバカじゃない。
支天輪を通して外の様子を覗っていたりするんだ。
暇なオイラ達の今の暇つぶしはと言うと―――


「太助殿の英語の小テストは64点ですな」
「よっしゃーー!!」
”太助しゃまを買かぶっていたでしーー!!”
支天輪の外を覗いていた八穀からの報告に、オイラはガッツポーズ。
対する離珠は”あぅー”と唸りながら頭を抱えている。
そう、最近は暇な時、こんな賭けをやっているんだ。
月天様にはナイショだぞ。
そして賭けに勝った方は……
「さて、負け犬の離珠へのバツゲームは、これだー!」
勝者のオイラが右手を振りかざす。
それを合図に前もって打ち合わせておいた女御の2人がうろたえる離珠を囲んだ。
しかしそれは一瞬。
同じサイズの離珠の服は2人の手にかかってあっという間に違うものに変わって
いた。
ひらひらのついた白いカチューシャ、そして白いエプロンドレス。
「メイドとして半日、星神のみんなにお仕えするのだー!」
「「おおーーー!!」」
”むー! くやしいでし、くやしいでしーー!!”
メイド服の裾を強く両手で握り締め、離珠は星神達を睨んだのだった。
なお半時間ほど過ぎた頃、ドジばかりするメイド離珠にみんなが頭を下げて
バツゲームを中断してくれるよう頼み込んだのは余談だっ!





よっ! オイラは虎賁。
先日、月天様に賭けを禁止されちまった。
なんでもメイドを演じていた離珠のやつが危うく月天様の秘密とやらを太助に
バラしてしまう所だったそうだ。
どんな秘密なのか、オイラとしても気になるところだが。
まぁ、そんな訳で賭けが禁止されてからは別の遊びをしている。
「はい、カットー!」
八穀の声が響いた。
オイラはホッと一息、腰の刀の帯を締めなおす。
最近は星神のみんなと映画を撮っているんだ。
八穀のやつが時代劇にハマっちまって、とうとう作る方になっちまった。
そんな訳で監督に八穀、衣装に女御、舞台装置は羽林軍、その他は俳優として
撮影中なのである。
「はい、次は取り立て屋の虎賁がおじいさんの一人娘である離珠を襲うシーン」
普段はクールな八穀はノリノリだ。
「まぁ、頑張るかぁ」
オイラは次のシーンの相方である離珠を見る。
出番と呼ばれ、パタパタと走ってくる。
”走りにくいでしーー!”
「そんなに慌てるなって」
慣れない着物に足がもつれ、転びそうに……あ、転ぶ!
「危ないっ」
”けふっ!”
どふ!
離珠はオイラの胸に飛び込む様にして倒れ、オイラは上に離珠・下に舞台セット
に挟まれて危うく本当の意味で星になるところだった。
”生きてるでしか?”
「頼むから無理するな、周りが迷惑だ」
”むー!”
カンカン!
八穀の鳴らすカチンコの音にオイラ達は我に返る。
「では虎賁が離珠を襲うシーン、スタート!」
カチン!
「おうおうおう、オメェが銀二の娘かぁ?」
着物を着流したオイラはガニ股で怯える離珠に迫る。
えっと。
襲うって言っても、どうやれば良いんだ?
あまり深く考えていなかった問いへの答えは、昨日の夜見ていたTVドラマの
1シーンを思い出すことで解決した。
オイラは離珠の着物の帯びをぎゅっと掴み、
”な、何をするでしか?!”
「ほーら、まわれまわれまわれーー!」
コマを回す様に腰帯を引っ張った。
コマ回しならオイラに任せてくれ!
”あ〜れ〜〜〜〜”
ぐるぐると回る離珠は思った以上に高速回転だった。
調子に乗りすぎてしまったらしい。
目を回した彼女はそのまま舞台セットに頭からツッコむ。
べき! どか、ぐしゃ!!
「「あちゃー!」」
鈍い音を立てて破壊された舞台セットに一同、頭を抱えたのは言うまでもない。





よー、オイラは虎賁。
なんかね、気持良く眠っていたオイラを叩き起こしたバカが目の前にいるんだ。
パリっとした制服らしきものに身を包んだそのバカ女は、指揮棒片手に高笑い
(?)をあげている。
その格好は……ああ、なんかショッカーとかを率いていそうな女幹部みたいな
感じ?
「……何やってんだ、離珠?」
寝込みを襲った離珠は指揮棒を振り上げてこう言い放ったんだ。
”さぁ、コイツを改造でし! やぁっておしまいっ!”
「「イーっ!!」」
「ゲゲッーーー!?」
離珠の背後から姿を現したのは、何故か全身タイツの羽林軍達。
「や、やめろーーー!!」
「「イーッ!!」」
”ホーッホッホッホ、でし!”
こうして離珠率いる羽林軍達に捕まったオイラは、悪の組織で改造人間となる
手術を受けさせられることになるのだった――――

「へぇ、今度の映画は面白いじゃないか」
「そ、そうかぁ??」
”えっへん、ほめられたでし!”
ビデオを回す太助の感想に、何度も見たオイラはやっぱり首を傾げ、離珠は
ガッツポーズ。
ほんとにここは平和な世界だと、しみじみ思うある夏の日だった。



これはdaic氏の同人CDに投稿したものです。
製品は各話ごとに離珠のかわいいCGが添付されております。