集合都市の外れ,『を−29〜35』番街。
山と詰まれたスクラップを背に、平屋の処理工場が一つある。
その高い煙突からは、いつも出ているはずの煙は視認出来なかった。
風で吹かれて消えているのではない。
その一角だけ、独特の雰囲気を纏っている。
寝 慎 震 疹 …
人の気配は、ない。
その一角を目指して、2つの動く影が現れた。
「ふぃぃ〜!」
「あらら、溜まってるなぁ」
山と詰まれたスクラップ,産業廃棄物から家庭ゴミに至るまでのそれらを見上げて、2人。
「2日だけでしょ,処理してなかったの? これって」
背の低い、まだ幼さが残るあどけない雰囲気を持った少女は、感嘆の表情のまま呟く。
歩を進める度にガチャリと、関節から音がすることから察するに、その身を義体化しているようだ。
「うん、怪異が出現したのが一昨日,で、これが来たのが昨日だからね」
隣に立つ、ポニーテールのエルフ女性が手にした書面を眺めながらそれに答えた。
少女が身に纏うのと同じ光沢を持つ、金属製の甲冑に身を包んだ彼女は、その腰に見事な装飾 を施した一振りの剣を提げている。
彼女が見つめる書面,それはタイプ字で次のように簡潔に綴られていた。
『を−29〜35』番街に出現した怪異『か−51』ヤタガラスを滅殺せよ。
七支柱・アガリアレプト
「という訳で」
「あたい達はここに来てるんね」
「そゆこと」
書面を投げ捨て、エルフ女性はスクラップの山を見上げる。
その山の頂上には、なにやら鳥の巣のようなものがあった。
「さっさとこの工場を復帰させないと、バビロンにゴミが溜まる一方だからね」
街区を区切る、金網のフェンスに手を掛けて彼女。
「で、どうするのさ,パステル」
「どうするって?」少女に振り返り、パステルは尋ね返す。
「怪異、いないじゃん」目を細め、彼女は答えた。
少女はゴミの山の上の巣を見つめる。彼女の指摘通り、ヤタガラスなどという怪異の影はない。
ただ、ゴミの山の背景と化した夕日が眩しいだけだ。
「…私的には帰りたいんだけどね」
「じゃ、いないし帰ろうよ」
「でもね化光,食べていくお金がもうないんだ。それにまだ今月は電気代も水道代も払ってないの」
「…生きていくために戦う、かぁ」がっくりと少女・化光は溜息一つ。
カシャ、キィン・・・
澄んだ音。
「もうそろそろ『帰ってくる』時間だよ」
腰の剣を抜いてパステル。夕日をその翳りのない刀身が乱反射させる。
Sword of Electra,『魔剣』と呼ばれる化光の苦手な存在だ。
「烏が鳴くから、か〜えろって?」化光は言葉を続けて微笑。
ピキィ
フェンスがパステルの軽い一振りで裂ける。
「そゆこと、ほら、来たみたい」フェンスをくぐり、こげ茶色の廃液が薄く広がるゴミの大地へ足を踏み出すエルフ。
同時に2人が大きな影に覆われた。
ワキ道
『ガーガーガーガーガー』
壊れたスピーカーのような鳴き声を降らせるは、全長10mはあろうかという巨大な鳥。
スクラップを寄り合わせて造形されるそれは、その嘴,くすんだ黒,爛々と燃えるような水銀灯の瞳から一応は烏を模した物だと、パステルは判別できた。
化光/知識力チェック/判別/・・・Failure!
「何あれ?」
パステルの後ろから同じくフェンスをくぐり、耳障りな警戒音を発する飛行物体を指差し、化光。
「あれが今回発生した怪異・ヤタガラスだろうな」
「ふぅん、あれがねぇ」
巣に留まり、翼を休めて2人を睨む機械仕掛けの烏。
その眼力に構うことなく、2人の鎮伏屋は敵を各々分析。
パシャリ
パステルは足を一歩踏みだす。
ブーツが廃液に濡れる。
「さて」
「どう攻める気さ、パステル?」目標に見上げた視線を逸らすことなく、化光は問い掛けた。
「そうだな、正面から正々堂々ってのは?」こちらも、視線を動かさずに答え。
「…何も考えてないの?」
「相手の能力が分からないしね」
「じゃ、まずは小手調べって事で」
「OK!」
カシャリ,パステルは魔剣を逆手に構え、スクラップの山を警戒中のヤタガラスに向かって疾駆!
それに続くように、化光のキャタピラのフル稼働音が続いた。
『クァァァァ!!』
ヤタガラスの咆哮,瞳に宿る警戒が殺意に変化する!
瞬…
パステルは一気にヤタガラスとの間合いを詰め、魔剣を一刀!
ヤタガラス/回避行動/舞い上がり/Sucsess!
ヤタガラス/防御付加/はばたき/A Little Sucsess!
「チィ!」パステルの剣は空を切り、ヤタガラスが上空で舞い起こす翼の突風に、その軽やかな動きを止める。
ヤタガラス/移動/急降下/Success!
「何やってるだわ! さっさとその場を離れな!」
化光/遠隔攻撃/機関銃/Success!
ヤタガラス/近接攻撃/ついばみ/Failure!
「はっ!」その場を飛び退くパステル,連続的な裂音が響く。
ゴゥン!
『ギシャァァ!!』
ヤタガラスの巨大なくちばしがホンの少し進路を変え、ゴミの山の一角に埋まり崩れる。
ヤタガラス/移動/舞い上がり/Success!
「あたたたた」頭にできたコブを押さえながら、パステルは化光の元まで下がる。
「やられた?」
「飛んできたケロリンの置物みたいなのがぶつかったんよ」
「そんくらいで済んで良かったじゃないのさ」
2人は上空で滞空する烏に対峙。
「空に逃げられちゃ…ね」
「マジックミサイル使えば良いんじゃない?」
「あんまり効かないよ」
言葉を区切り、3つは動く!
「魔法の矢×3,行きます! 1D6+1……お? 大成功!!」
パステルの周囲に、光り輝く3つの光が生まれた。
ヤタガラス/広範囲攻撃/火炎放射/Success!
化光/持ち替え/ロケットドリル/Success!
化光/遠隔攻撃/ロケットドリル発射/Success!
「魔法の矢,1,2,3! Go!!」
上空から炎の雨が、上空へ向かって一つの槍と3つの破壊の光が交錯する。
「「どわわわ!!」」
『ギュオォォォオッォ!!』
4つの牙が烏の体に食い込み、同時に2人の鎮伏屋の身を炎が焦がした!
「水の聖霊!!」
バシャァ,虚空から生まれた水をかぶり、パステルは身を振るわせる。
化光/メンテナンス/強制冷却/Success!
ヤタガラス/移動/着地/Failure!
ゴワシャ!
ヤタガラスの巨体が巣の中に落ちた。
「髪が焦げた」それを眺めながら、己の金色の髪を撫で付けてパステルはぼやく。
「運が良いやね」とこちらは全身を黒く焦がした化光。
「あたいは帰ったらしっかりメンテしないと」
「そね,ともかく、あの翼を何とかしないとね!」パステルは、未だゴミの中でもがくヤタガラスに向かって山を駆けあがった。
『ケェェ!!』
「たぁぁぁ!!」
パステルは大跳躍,魔剣を振り上げ、眼下の怪異に向かって振り下ろす!
ヤタガラス/迎え撃ち/ついばみ/A Little success!
「うっ!」パステルの右肩が弾け、赤いものが飛ぶ!
彼女は表情をしかめつつも、剣を叫びながら振り払った!
「ABADON!」
刀身がまるで蟷螂の鎌のように伸び、ヤタガラスの両の翼を根元から切り裂いた!!
『ギシャァァァ!!』
ヤタガラス/攻撃/暴れ一徹/Success!
スクラップの中、暴れまわるヤタガラス!
その大きな嘴が着地したパステルの体を打つ!
「………!」
「バカ! 無闇に突っ込むから!!」
化光/狙い撃ち/ロケットパンチ/Success!
化光/掴み/ロケットパンチ/Success!
化光/巻き返し/超高速/ロケットパンチ/Great success!
ロケットパンチに襟首を掴まれたパステルが、半ば飛ぶように化光の元へ引き寄せられた。
「生きてる?」
「…死にそ」
『ガハァァ!!』
その声に、2人は烏を見る。
山の上で、怪異は身を起こしていた。そして…
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
足元のスクラップが次々とヤタガラスの失われた翼の部分に引き寄せられる。
ニタリ、怪異は笑ったかに見えた。
「どどど…どうする??」
「ごめん,私、もう動けない…」引きつった笑いを浮かべるパステル。
その間にも、ヤタガラスの再生が続けられていく。
「ああ、もぅ! マジックミサイル,まだ使えるでしょ!」
「う、うん…」力なくエルフは答えた。
「最終兵器で再生できないくらいに吹き飛ばしてやるだわさ,10秒後にアイツの目の前に、ありったけの『魔法』をぶつけて!」
「? 分かった,やれるだけやってみる」納得しないまでも、パステルは頷く。
「じゃ、行くよ! 10」
キャタピラ全速力,ヤタガラスに向かって山を駆け上る化光!
「9 魔法の矢,装填準備」
「8」
化光/充填作業/動力炉メルトダウン開始/Count!
化光/接敵/Sucsess!
「7」
ヤタガラス/遠隔攻撃/火炎球/Success!
化光/接敵/Sucsess!
「6」
化光/接敵/Sucsess!
化光/回避予測/Failure!
化光/迎え撃ち/ロケットパンチ/Success!
化光/充填作業/動力炉メルトダウン/Count3!
「5」
化光の目の前でヤタガラスの口から吐き出された火炎球が破裂する!
爆炎の中から、しかしロケットパンチを失った化光が飛び出し,さらにヤタガラスとの距離を縮める。
「4 魔法の矢×20 1D6+1…何とか成功!!」
倒れ伏すパステルの周囲に光り輝く小さなエネルギー体が無数に浮かび上がった。
「3」
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
ヤタガラス/材料調達/高速再生/Success!
化光/接敵/Sucsess!
化光/充填作業/動力炉メルトダウン/Count2!
「2 魔法の矢 Go!!」
化光/接敵/Sucsess!
ヤタガラス/メンテナンス/最終調整/Success!
ヤタガラス/回避行動/舞い上がり/………
「1 させないだわさ!!」ヤタガラスまで手が届く距離,化光が叫ぶ!
「いけぇぇ!」パステルは生み出した破壊を予定通り、軌道に乗せる。
ヤタガラスに対し、威力は小さいが爆発だけは派手な魔法の矢が次々に炸裂!
ゴミと埃に視界がアウトする。
化光/最終接敵/Sucsess!
化光/充填作業/動力炉メルトダウン/Count1!
ヤタガラス/回避行動/舞い上がり/Great success!
ブワァ!
埃が翼を再生させたヤタガラスの羽ばたきによって霧散!
『クェェェ!!』
上空に舞い上がり、勝利を確信したように下を見下ろす。
その先には弱々しく身を起こし、見上げるパステルと、そして…
化光はいない。
「0,Check Mait!」
『!?!?!』
胸元からの声に、ヤタガラスは驚愕!
化光は不敵な笑みを浮かべて、ヤタガラスの胸のところにスクラップに混じってしがみついていた!
ヤタガラス/現状把握/Failure!
化光/最終発動/動力炉メルトダウン/Success!
「化光!!」上空の動きに、パステルは化光の行動にようやく気付く!
ちゅど〜ん
光、爆風。
パステルはその場に踏み止まりながらも、化光が光の中、上空のヤタガラスとともに爆裂四散するのを見た。
吹き付ける、焼けるような熱と爆風。雨のように降り注ぐスクラップに戻った部品群。
やがて、沈みかけた夕日が立ち尽くすパステルをただ一人照らす。
「バカ、死んじゃったらアンタのボケにツッコめないじゃない」呟き、空を見上げる。
夕日がただ眩しかった。
「泣いててもしょうがないわよね、化光、あなたの分まで生きるわ、私!」
夕日に向かって笑顔でキメ!
と、急に夕日が陰ったような気がした。
バチコ〜ン!
「ふぎゃ!」
パステルのこめかみに黒いパスケットボールのようなものがぶち当たる!
気を失いそうになるも、何とか堪えてそれを掴む。
「何を黄昏てるんだわさ!」
それが化光の声を放つ!
「うにゃ!!」
「酷い目にあったわ、まったく」
ケホっ、黒煙を一つ、吐き出して首だけ化光は言葉を吐く。
「…」
「? どしたの?」
「なんで…首だけで生きてるのぉぉ!!」
「アラレちゃんだって生きてるじゃないのさ」
「これは漫画かい!」
暮れの廃棄物処理場,2人のいつもの口論が再び始まった―――
なお、報酬金の大部分が必要経費として化光のボディパーツ代として消え、生活難に舞い戻ったのは余談である。
合掌!
終劇
これはレイニーさんへお贈りしたものです。