すもも危機一髪??
「再起動しました」
すももが視覚デバイスを稼動−−目を開くと、そこにはご主人様ではなくて、見知らぬムサいおっさんのアップがあったのです。
「うわぁー、すももぉ〜〜!!」
「お、おちつけ、新保…」
2人の青年が人通りの少ないアスファルト道路の端に崩れるように座り込んだ。
共に肩で息をしている。冬の冷気の中、吐く息は共に白い。
そんな2人に少し遅れて軽やかな足取りで追いついてきたのは一人の少女。
いや、その変わった耳の形状は女性型のパソコンである。
彼女は地面でへばる2人を見つめ、
「ち?」
同じように冷たいアスファルトの上に腰を下ろした。
「真似しなくて良い」
青年の一人がそんな彼女に一言。
3人が追っていた男はすでに視界から消えている。
追いかけるのは、自転車に乗った覆面の中年男。
正確に言うなれば、その自転車の前カゴに載せられたスポーツバッグ。
すなわち、新保と呼ばれた青年の荷物である。
「くそっ、ひったくりめ! 金は良いからすももを返しやがれーーー!!」
彼は憎らしいほどの青空に向って、そう叫びを上げたのだった。
「たった1000円かよ」
すももの隣にあったご主人様のお財布を勝手に覗き込みながら、おっさんは愚痴を言ってます。
そのおっさんはつぃと、すももを訝しげに見つめました。
目がどんよりとしてて恐いのです……
そ、そんなことよりご主人様の姿は??
すももは周りを見渡しました。
薄暗い工場? 廃工場のようです。
ご主人様の姿はありません。
高速を自負するこのすもものCPUは状況を推測します。
まずは再起動する前のことを思い出して見ましょう。
「おつかれ、すもも」
「あぃ!」
すももはご主人様の笑顔に見送られて、いつものスポーツバッグの中に戻りました。
そんなすももに、ご主人様と同年代の人間−−友達と言うそうです−−が手を振ってます。
それを真似してか、隣のパソコンもすももに笑顔の表情を浮かべて手を振っていました。
…はて、すももに愛嬌を売って、何の意味があるんでしょう?
プログラムに根本的なミスがあるような気がします。
何よりすももは何故か、あのパソコンが苦手な様な気がするので、無視してスポーツバックのいつもの位置に戻りました。
その時です!
「あ!」
ご主人様の短い叫びと。
がん!
すももの頭部が何か堅い物にバッグの布地越しにぶつかったのは同時でした。
そこで…
すももは一旦、フリーズしました。
さすがはご主人様、このすもものフレームをセラミックカーボン製にしてくれただけのことはあります。
通常ではあの衝撃だと、CPUに致命的な障害が発生してもおかしくありません。
ソ●マップで30Kながらも、良い買い物ですよ、ご主人様!
……と、そんな話題ではありませんね。
ここまでの資料で、すももはこの状況を適確に分析します!
D●S/Vパ×ダイスで20KだったセレロンCPUの威力、ここで発揮なのです!!
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−−−−−−−
−−−−
廃工場に、このあやしいおっさんと来れば………
ご主人様?! 誘拐されちゃったんですね!?
ここはこの、すももの腕の見せ所です!
必ずや、ご主人様を魔の手から救い出してみせるのです!!!
「なぁ、新保。お前のノートパソコンに盗難防止装置でも付いてないのか?」
とぼとぼと歩く青年×2+ヒヨコの様に後に続くパソコン一台。
「そんなの付いてねぇよ。IR通信とモデム機能が付いてはいるけど…」
そこまで言って、新保は後ろのパソコンに振り返る。
「お前のちぃみたいに、自分で考えて動けるほどマシンパワーないしなぁ」
「もしかして、ってのがあるんじゃねぇか?」
「実はすももは結構……バカなんだよなー」
額に手を付く新保。
と、その時、
「ち?」
空を見上げるちぃ。
「秀樹」
「どうした、ちぃ?」
「こっち」
言うと彼女は、青年の手をおもむろに取って歩き出す。
「こ、こら、ちょっと待てって!!」
ちぃの見かけに合わない怪力に引きずられる秀樹を、新保もまた追った。
すももはおっさんを睨みます!
「?? なんだ、コイツ?」
今です,すももキィック!
「あぃ!」
ぺし
「踊る人形か??」
あ、足を掴まないで下さい! あ〜〜〜
「パソコン…か? 高く売れるかな?」
すももはおっさんに右足を掴まれて釣り上げられてしまいました。
離せ離せぇ〜!
ぽかぽか
「分解してパーツ屋に売れば、足も付かんだろう」
そんな危険なことを呟いてニヤリと黄色い歯を見せてます。
そんなの、ヤです。
はっ!
も、もしかしてご主人様……すでに分解されて売られてしまったのでわ?!
コイツ、とんでもない悪人です。
許せません,こうなったらすももの必殺奥義です! 敵討ちなのです!!
「目からび〜む!」
しゅびびぃぃ〜〜!
すももの目から紅いレーザーがおっさんの額に直撃です!
「? なんか暖ったかいな?」
そのまま足を掴まれたすももはおっさんに振られて、あっさりとIR通信ビームが後ろの口を開いた天井−−青空へと消えて行きました。
ああっ、やっぱり赤外線じゃ倒せませんか!!
強敵です、すももには敵いません。
万事休すです、ご主人様。
すもももすぐに傍に行くです〜〜。
でもでもっ!
このすももはタダでは死にません!!
最終決戦兵器である自爆ボタン、ONです!!
−−−−−−−−
−−−−−
−−−
そんな機能はありませんでしたぁぁ!!
はぅ、このまますももはご主人様共々分解されて売られてしまうのですね………
その時です!
「いたぞ!」
「あそこだ!!」
??
あれ?? ご主人様に他一人+変なパソコン!?
生きておられたんですね!
「チッ!」
おっさんは乱暴にすももをご主人様のスポーツバッグに放り込んで逃げ出そうとします。
……って、これってすももが誘拐されているんですか? もしかして??
ということは、ご主人様がすももの白馬の王子様だったんですね!
………自分でもツッコミ様がないことをメモリに置いておくのはやめましょう。
すももはバッグの中からお気に入りの地図描きようの鉛筆を両手に。
「えぃ!」
おっさんのバッグを掴む手を目掛けて突き刺します!!
「痛ッ!」
叫びと同時に浮遊感です。
がん!
本日2度目のフリーズでした。
「再起動しました」
「すももーー!」
むぎゅ!
すももはご主人様の胸の中にいます。
どうやらあの変なおっさんからに解体されすに済んだ様なのです。
ほっと一息ですねぇ。
「ほら、すもも。ちぃちゃんにお礼言っておけよ」
「??」
どうしてでしょう?
「お前のIR通信を察知してくれたんだぞ」
………ああ、あのおっさんの額を狙って外した時ですか。
でも空に向けて放ったのはホンの一瞬だったんですけど…すごいマシンパワーですね。
すももが簡単にハングアップするだけあるのです。
ともあれ、ご主人様の命令です。
お礼を言っておくことにしましょう。
「うぃ!」
「ち」
ニッコリと微笑む大型のパソコンである彼女に、このすももの表情が何故か笑顔になっていたのは…
きっと彼女が普通と違う、変なパソコンだからなんでしょうね。
おわり
これはdaicさんにお贈りしたものです。
氏のHPの方にはCGが添付されておりますよ♪