〜　ネコミミの怪　〜


「ネコミミとは、いったいどんな効果があるものなのでしょう？」
葉月の頭の上にちょこんと乗っているネコの耳の形をした飾りを眺めつつ、
そう問うたのは彼女と対照的な髪の色と体型を持つエルフリーデだった。
問いに答えるのは、萌えの伝道師たる御堂竜平である。
「ふむ、良い質問じゃ」
一口、お茶をずずっとすすると彼は続ける。
「ネコミミの魅力は日本人だけでなく、かのフレンチハウスの巨匠『Dimi
tori from Paris』ですら魅了しうるほど強力なものじゃ」
「なるほど、あのアクセサリーにはなにか『魔』的な魅了の念が込められて
いるのですねっ！」
「あー、いやー、そういうわけじゃ」
エルフリーデの興奮した様子に、隣で耳を傾けていた耕平は口を挟む、が。
「ルナお嬢さまがあんなに愛らしく見えてしまうのはそのためだったのです
ねぇ」
ややトゲがあるようなないような、そんな一言を聞きつけた葉月が、エルフ
リーデに迫る。
「ちょっと！　だったらアンタがコレ、つけてみなさいよ！」
「私が、ですか？」
葉月からネコミミを手渡され、一瞬躊躇したもののエルフリーデはそれを己
の頭に装着した。
「むむっ！」
唸る竜平。
「へぇ」
感嘆の息を吐く耕平。
「……」
葉月は無言だ。
「いかがですか？」
エルフリーデは耕平に問う。
「ネコっぽく、可愛くなりました？」
耕平は竜平に視線を送り、そして「むー」と唸る葉月をちらりと見て、
「というよりも…」
「チーター、という感じじゃのう」
「あ、そうそう！」
頷き合う耕平と竜平。それをエルフリーデは難しい顔で首を傾げる。
「うーん、それは誉められているんだかどうなのか…」
そこへ葉月が割り込んできた。
「ねぇねぇ、アタシはアタシは？」
２人はつい、躊躇いなくそろって答えてしまう。
「「野良猫」」
「キー！」
バリバリッ！
「「ギャーーーー！！」」
葉月のひっかきは、攻撃力だけはライオン並みだったそうな。

　　　　　　　　　　　〜　衣装の怪　〜


耕平は、葉月を着せ替え人形化させて遊んでいる裕美に溜息一つ。
もっとも葉月にしても楽しんでいるようなので文句はないのだが。
今はちょうど、メイド服姿の葉月がくるくる回っているところだった。
それを眺めながら耕平は問う。
「お古って言うけどさ」
「んー？」
「こんなの、お前着てたのか？」
「……」
幼なじみである安西裕美が、ちょうど葉月くらいの歳の頃を思い出し
つつ、彼は首を傾げる。
「オレ、見たことないんだけど」
「……」
「いつ、着てたんだよ」
素朴な問いに、裕美はぼそりとこう答えた。
「……指名率が上がるのよ」
「ちょっと、オイ！」
「葉月ちゃん、今度こっちねー」
「おい、裕美！　お前、中学生はバイト禁止だったろ！！」
いや、論点はそこじゃねぇよ。
っつーか、なんのバイトだよ。
心の中でそう、ハイジはツッコんでいたといふ。