シャオリュンは守護月天という精霊です。
 なので不思議な力が使えるのです。
 とはいえ、目から怪光線が出るわけでも、握力が花山薫並みということでもありません。
 彼女は星神を使役できるのです。
 今回は彼女の用いる、そんなとある星神のお話。

守護月天しゃおりゅん
第5話


 「太助様。ちょっとよろしいですか?」
 帰宅した彼にシャオリュンはそう声をかけました。
 「どうしたの、シャオ?」
 「先日の遠足では、お弁当をお忘れになって大変でしたよね」
 「……うん、大変だったね」
 忘れた上に、かなり大変な事を発生したのだけれど、彼は黙ってそれを心の奥底に沈めます。
 「そこでですね、太助様にはこの子を携帯してもらおうと思います」
 そう言ってシャオリュンは手のひらに乗るほどの小さな女の子を押し出しました。
 小さなその子は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、チラリチラリと太助の顔を覗っています。
 「この子は?」
 「この子は星神の『離珠』。私と心がつながっていますので、何か御用がありましたらこの子に言っていただければすぐにでも飛んで行けますわ」
 「へぇ、便利だね」
 太助くんは手のひらを離珠の前の下ろします。
 小さな彼女は恐る恐るその上に乗ると、ちょこちょこと歩いて太助くんの肩に座りました。
 「離珠は声が出ないので、ちょっと意思疎通が大変だと思いますけど、大切にしてくださいね」
 「分かったよ、シャオ。よろしくな、離珠」
 コクリ、と離珠は恥ずかしさにぎこちなく頷いたのでした。
 「じゃ、私はちょっとお買い物に行って来ますので、お留守番お願いします」
 「うん」
 パタパタとスリッパを鳴らしながら、やがてシャオは買い物へと家を後にします。
 彼女の気配が完全に消えた、その時でした。
 「ふぃ〜〜デシ」
 大きなため息と共に、紫煙が肩のところから上がるのを太助くんは気づきました。
 「へ?」
 見れば、どうでしょう!
 彼の右の肩には、先程まで恥ずかしそうにしていた可愛らしい離珠の姿はありません。
 代わりに額にしわを寄せて不機嫌極まりない、タバコを手にしたヤンキーな女の子がいるではありませんか。
 「あ、あれ? 離珠、だよね??」
 恐る恐る問う太助に、彼女はギロリと視線を突き刺します。
 「あー? 離珠、だと。離珠『様』だろーが! このクズがっ、デシ」
 「え、えぇぇ?!?!」
 太助くんはシャオの言葉を思い出します。
 確か離珠はしゃべれないはず…では?
 「誰がしゃべれないと言ったデシか? 勝手に周りがそう思い込んでるだけデシ」
 「じゃ、シャオも?」
 「乙女心を傷つけちゃダメデシ」
 どの辺が傷つける事になるのだろうか? だとか乙女心?とか色々ツッコミ所が太助くんの脳裏に浮かびましたが、気合と根性でねじ伏せたようです。
 「まぁ、ともあれ」
 離珠は太助の額をぺちぺちと叩き、胸を張ってこう言いました。
 「今日からオマエは離珠の手下その1デシ」
 「なんでオレが」
 「口答えするんデシか?」
 ギロリと太助くんをその肩から睨む離珠。でも全然迫力がありません。
 「ここはちょっと離珠の力を見せつけなきゃいけないデシね。くらえ、離珠ぱーんち!」
 ぺち
 「離珠キーック」
 ぺち
 「離珠ヘディングっ!」
 ぺち
 ぷにぷにと太助の頬に離珠の力いっぱいの攻撃が炸裂します。
 なすがままに攻撃を受けた太助くんは……うん、全然効いていませんね。
 それどころか、どこかホッとしているような感じさえあります。
 『なんか、マトモな星神って感じがするよなー』
 これまで登場したスポーツの鬼やコソドロ細目を思い出しながら太助くんはしみじみ思っています。
 「はぁはぁ、離珠の恐ろしさ、思い知ったデシか?」
 肩で息をしている小さな星神を彼は一瞥。
 ひょいと、その細い足を摘み上げます。
 「ななな、なにするデシ?!」
 頭を下にした離珠を目の前に、太助くんはニヤリと邪悪な笑みを浮かべました。
 「乱暴はヤメルでしっ! ふぁ、どこ突ついているデシかっ?!」
 片足をぶら下げながら離珠の頭をつんつん突つく太助くん。
 「さて、その大口をどうやって閉じてやろうか」
 と言った、その時です。
 「ただいま戻りました。あ……」
 「え?」
 買い物から戻ったシャオは、離珠を摘み上げる太助を見て硬直します。
 「太助様……一体離珠に何をされているので?」
 「え、えと、これは。いてっ!」
 離珠を摘む指に痛みを覚え、思わず手を離してしまいます。
 どうやら離珠が太助くんの指を噛んだらしいですね。
 くるりと宙で一回転。離珠は床に着地すると、声なく泣きながらシャオの手の中に飛び込みます。
 「どうしたの、何があったの、離珠?」
 口をパクパクさせて何かを伝える離珠。
 その声は太助くんには伝わりませんが、なんとなく何を言っているのか分かるような気がしました。
 『アリスゲームの開催だ、とか言って離珠の服を一枚一枚剥がしていったんデシ
 「え……太助様がそんなことを」
 「いや、シャオ。誤解だ、何を聞いているのか分からないけど、それは間違いなく誤解だよ!」
 『そして生まれたままの姿になった離珠を、離珠を……うわぁぁぁん!』
 「たーすーけーさーまーッ!!」
 「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
 「天たか(以下略)。来々、軍南門!」
 シャオリュンの要求に応じ、彼女の背後に何かが立ちました。
 まるで大魔人のようなそれは、巨大な巨大な鎧武者です。
 「誤解だ、違うんだ、全部間違いなく離珠の嘘なん…」
 ズシン
 ぷち
 太助くんの言葉は途中で途切れました。
 後には、大きな足跡の中で車に轢かれたヒキガエルのような太助くんがいたとかいなかったとか。

守護月天しゃおりゅん
第5話 アリスゲーム 了


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