新説・北風と太陽
天空のさらに上空。
人の感知できない、神と精霊の住まう場所。
そこから2人の妙齢の女性が下を見下ろしていた。
「ねぇ、フーコ。暇ね」
「相変わらずね、アツコ」
フーコと呼ばれた北風の精霊は、気のない言葉を放つ太陽の精霊をぼんやりと眺める。
「何かないものかしら?」
「そうねぇ」
フーコは下を見る。
と。
人気のない、午後の住宅街。
電柱の下に、ロングコートを羽織った中年の男が一人立っている。
「そうだ、ねぇアツコ。アタシ達のどちらがあの男のコートを脱がせられるか、勝負しない?」
「んー? どっかで聞いたような話ねぇ」
太陽の精霊アツコは地上のさえない中年を一瞥。
「ま、暇だし。やってみましょうか」
案外ノリ気だ。
「じゃ、アタシからね」
まずは北風の精霊フーコ。
強風を男に叩きつけた。
「?! 何だこの風は??」
男は風にコートを剥ぎ取られないよう、襟を立ててますますきつくコートを体に寄せる。
「ちぇ」
「駄目じゃない。次は私の番よ」
風が止み、太陽の強烈な日差しが男に照りつけた。
「…暑い」
男が掴むコートの襟から力が抜ける。
だが。
「なんでこのくそ暑いのにコートを脱がないのかしら??」
男は頑として暑苦しい丈の長いコートを脱がなかった。
「あらあら、太陽の力もこんなものなのね」
さらりといったフーコの言葉がアツコに本気を出させることとなる。
「このっ、これでも食らえ!!」
地上に真夏以上の暑い日ざしが降り注ぐ。
コートの男の足元がふらりと揺らいだ。
「お?」
男がコートのボタンをはずし始める。
「あらら」
残念そうにフーコ。
やがてボタンをすべてはずす男。
「よっしゃ!」
ガッツポーズのアツコ。
しかし。
「あっついなー!」
ばさりとコートを脱ぐ中年男。コートの下は裸。
裸体。
ヌード。一糸まとわぬ姿。
これ、すなわち。
露出狂。
上空から見たくもないおっさんのイチモツをしっかりと見届けてしまった2人の乙女は、
「「いやぁぁぁぁぁ!!!」」
叫びは力の暴走となり、強烈な日差しと強風が地上に降り注いだ。
それはすべてを焼き尽くす熱波となる。
「あちっ、なんだなんだ、コリャ?! あちちちち!!」
というわけで、今年も猛暑となりましたとさ。
おわり