たんたん♪
畳の上を軽くステップするような音が響く。
それに対するは
「ふなーお」
威嚇の鳴き声。
そこは八畳ほどある座敷だった。
主がきれい好きなのか、目立ったごみのないそこには、2つの白いもこもこしたかたまりが向き合っている。
たたたん、たん♪
後ろ足で畳をステップして威嚇を現すのは真っ白なウサギ。
2本の長い耳をピンと伸ばして、目の前の敵を赤い瞳で見据えている。
「ふなーっ!」
もう1つのこちらは真っ白な猫。
とがった耳をウサギに向け、牙をむいて威嚇の唸りを上げている。
その蒼い瞳には敵―――白ウサギだけが映っていた。
たたたんたん♪
「ふなーーぉ」
一触即発。
どれくらいの時間、相対していただろうか?
しんと静まり返った部屋にそれが起こった。
「ぽっぽーぽっぽー」
ハト時計。時が示すは午後7時。
それがきっかけだった。
2匹は駆け、交錯する。
すれ違う瞬間、キラリと互いの刃が光る。
ウサギの前歯と猫の牙だ。
クルリとお互い向き直る。
ウサギの左耳、同じく猫の左耳から赤い血が流れ始めた。
無論、これでは終わらない。
たたんたん♪
戦いの鼓動。
「ふなーーっ」
戦慄の波動。
2度目の交錯が始まろうとする、その瞬間だった。
ガラリ
ふすまが開いた。
ビクリと2匹は現れた気配に身を震わせる。
「こら、お前らまた喧嘩しやがって!」
男の声だ。
近づく彼の存在に2匹の戦意は消し飛び、ただ小さく縮こまるだけだった。
彼は年の頃にすると20に行くか行かないか,スーツのネクタイを緩めた若者だ。
「あー、怪我してるじゃないか」
彼は腰を下ろすとふるふると小さく震えるウサギを抱きかかえ、その耳を見る。
白い毛皮は僅かに赤く染みになっていた。
「ふなーぉ…」
「ん? あ、お前もかよ」
膝に擦り寄ってきた猫の耳もまた赤いシミが広がってきているのを見ると、彼はウサギを下ろして部屋のタンスから薬箱を取り出した。
「なんでお前たちは仲が悪いんだろうな?」
ウサギと猫の耳に軟膏を塗り、絆創膏を傷口に貼り付け終わると彼は、膝の上で今は仲良く甘えている2匹に呟いた。
「父さんも母さんもいい加減だよなぁ」
今は遠くで何をやっているか分からない両親を思い出す。
彼の父は冒険家だ。
いつも家にいないことを気遣ってか、妻である母に自分の代わりとして送りつけたのがこの猫である。
対して母はその道では有名なデザイナーだった。
同じくいつも家にいないことを夫である父に気遣って、自分の代わりとして送ってきたのがこのウサギだ。
そして互いに家にいないため、それを育てているのは子供である彼、ということになっている。
「お願いだから、仲良くしてくれよ?」
膝の上で気持ちよさそうに眠るウサギと、喉を鳴らす猫を部屋の隅にあった座布団の上に下ろし、彼は立ち上がる。
「…?」
「ふな?」
見上げる2匹。
「晩御飯買ってくる。絶対喧嘩するなよ?」
言葉が通じるとは思わないが、彼はとりあえずそう2匹に告げると玄関に向かった。
その後ろを2匹はちょこちょことついてまわる。
この家は一人で住むには広い日本式の木造2階建ての一戸建て。
庭もあり、一戸建ての中でも大きな部類に入るだろう。
彼が玄関に向かうと同時にインターホンが鳴った。
「はーい」
がらりと玄関の引き戸を開くとそこには黒い猫が目印の宅急便の宅配員が立っている。
その手には片手で持てるほどの小さな箱。
「すみません、お隣さんがお留守みたいなのでお荷物お預かりできませんか?」
「あ、はい。いいですよ」
青年は受取書にサインをして箱を受け取った。
箱には「割れ物注意」の張り紙がしてある。
「ではよろしくお願いします」
「ごくろうさん」
去っていく宅配員を見送り、彼は荷物を玄関に。
早速、箱の匂いを嗅ぐ2匹に笑みを浮かべながら、彼もまた家を出たのだった。
ねこうさうぉーず
「………」
「……ぅなーぉ」
青年を見送った2匹は再び目を合わせた。
戦意が芽生える。
いつの頃からだろう、2匹の仲が悪くなったのは。
この家に来た子供の頃は、形も似ていたこともあって仲が良かったと思う。
しかしだ、成長すると共に変わっていった。
そして大人になった今、互いに敵同士。
ウサギは猫が青年に甘えているのを見るのが許せなかった。彼は猫には渡せないと思っている。
猫はウサギが青年に抱かれるのが許せなかった。彼はウサギには決して渡せない、そう思っている。
つまりは、そういうことなのだ。
バッ!
2匹は身構える,箱を挟んで。
たたたんたん♪
「うなーぉ」
ギラリと光る互いの瞳。
そして!
ザッ!
交錯した,その拍子だった。
どちらの体がぶつかったのか、箱が玄関マットの上から僅かな段差のある玄関先に落ちていった。
その段差、およそ30cm。
がしゃん
そんな音が、箱の中から聞こえた。
2匹の動きが硬直する。
恐る恐る、落ちた先を見る2匹。
箱からはもやもやとした煙のようなものが2つ、湧き上がっていた。
その煙は煙とは思えぬ俊敏さを持って、2匹それぞれに襲い掛かった!
「「?!?!」」
互いに煙にまかれた2匹は四肢を伸ばして痙攣、その場に倒れる。
やがてその姿は徐々にありえない形に変質していったのだった―――
青年はから揚げ弁当の入った袋を手にしながら帰路についていた。
「あ、お隣さん」
途中、荷物を預かった隣の住人――占い師をしているらしい――の老いた後姿を見つけて声をかける。
「おや、こんばんわ。こんな時間までお仕事ですか?」
年の頃は80代位だろうか、好々爺に見える。
「いえ、晩御飯を買いにいっていただけですよ。それより荷物お預かりしてますよ」
「荷物?」
「はい」
そんな言葉を交わしている間にも2人は家に到着する。
そして青年の顔色が青く変わった。
「んな!」
「泥棒、ですかな?!」
玄関が蹴破られていた。昔ながらの引き戸の扉はまるでトラックが突っ込んだかのようにぐしゃぐしゃになっている。
慌てて駆ける青年、その後を老人も追う。
「な、なんだ、これは…」
玄関はひどい有様だった。靴箱はひしゃげて中身は飛び出し、玄関マットは引き裂かれている。
「一体…」
彼は奥へと足を運ぶ。
対する老いた隣人は玄関先でしゃがんで何かを手に取っていた。
律儀に靴を脱いで家の奥へ一人足を進めた青年は台所にたどり着く。
見慣れたそこは別段荒らされた様子はない。
と。
「!?」
背後に気配を感じ、振り返る。
暗闇のそこには一対の切れ長な瞳が輝いていた。
「誰だ!」
「おかえりなさい」
闇から形が現れたのは、まずは鈴を鳴らすような心地良い女性の声だった。
次に長い足と、タイトな白いスーツをまとった抜群のプロポーションを持った体。
そして紅を塗った赤い唇と整った鼻立ち。青い瞳が青年だけを見つめている。
美女、だ。とは言ってもグラビア雑誌などでお目にかかるような美女とは一線を画するような、どちらかというと人の目に触れにくい世界の美女だった。
彼女は長い黒髪を軽くかき上げ、粛々と青年に歩み寄る。
「私と契約していただけませんか?」
おもむろにそう言った。
「は?」
謎の美女は白い指先で青年の頬に触れる。
僅かな冷たさが青年に伝わった、慌てて彼はその手を振り払う。
「保険の勧誘は遠慮してます、ってか人ん家に勝手に入ってくるな、アレか、損害保険の勧誘員か?!」
「あ、いえ、あのー、そうじゃなくて」
女性は汗を一筋。
「分かりませんか? 私は…」
その言葉は途中で切れる。
なぜなら彼女はどこからか飛んできた白い塊に激突,廊下の向こうへと弾き飛ばされたからだ。
「んな?!」
薄闇の廊下の向こうでヤバめに倒れている美女に駆けようとする彼の手を引っ張って止めるものがある。
「お兄ちゃん、こっちよ!」
「?!」
もこもこした、こちらは真っ白なコートを羽織った少女が彼の右手を小さな両手で掴んでいる。
意外にも強い力に、彼は引っ張られるようにして隣のリビングルームへと引き込まれた。
「誰だ、君も??」
少女は彼の手を掴んだまま、見上げるようにして答える。
「ボクが分からないの?」
「…会ったことあったっけ?」
青年の記憶に彼女の顔はない。
歳の頃は15,6だろうか、先程の美女とは対照的な、スレンダーな体つきの少女だ。
愛らしい顔立ちにくりっとした大きな赤い瞳が…赤い瞳?
「お兄ちゃん、ボクと契約してくれない?」
「契約?」
「待ちなさいっ!」
鋭い声が飛ぶ,少女は彼の手を離し、その方向を睨んだ。
少女の体当たりに、鼻の頭を赤くした先程の美女だ。
「ご主人と契約するのは私よ、ガキんちょはどこぞの馬の骨と契約してらっしゃいな」
「ボクがお兄ちゃんと契約するんだもん! オバちゃんは色気でその辺のエロオヤジとでも契約したら?」
2人の視線に火花が散ったような気がした。
「あのー、どうでも良いけど誰です、アンタら?」
おずおずと問う青年。その言葉に2人の鋭い視線が同時に彼を貫いた。
「「分からないの?!」」
「と言われても」
叱咤に近い声色に、青年は数歩後ろに下がりつつ頷いた。
「分かりました、ゆっくり教えてさしあげます」
美女は優しく彼に微笑んで頷いた。
「教えてあげるよ、お兄ちゃん」
少女もまた楽しそうに笑ってそう言った。
「しかし」
「でも」
2人は互いに睨みあう,同時に気配も変わる。
「「こいつを殺したらね」」
声が重なり、2つの白い影が交錯した!
ドカッ!
重たい音がして、2人とも同じ方向に撥ね飛ぶ。
美女は障子を破き、少女はガラス戸を割った。
だが2人ともダメージはないようにすぐに立ち上がり、再び互いに襲い掛かる!!
「ちょっと! 人ん家で何やってんだ、お前らはっ、うわ!」
余波で飛んできたガラス片から身を避けながら彼はじりじりと後退した。
「やはり…」
しわがれた声に彼は振り返る。
そこには老いた隣人が割れた瓶を2つ手にして呆然と2人の戦いを見つめていた。
「やはり? あ、その瓶はもしかして?」
「はい、私宛の荷物です」
老人は呆気にとられながらも厳しい目で2人を見つめ続ける。
「…割れて、ますね」
「まずいことになりました」
老人の笑みのない言葉に青年は息を呑む。
「高価な物、なんですか?」
「いえ、そういうことではありません」
老人は首を横に振って、割れた2本の瓶を彼に見せる。
瓶の表面には墨のようなもので、梵字らしき記号が描かれていた。
「この中には魔術師ソロモンが使役のために呼び出したとされる古代の魔神が封じ込められていたのです」
「古代の魔神?」
青年の素っ頓狂な言葉にしかし老人は冷静な顔でコクリと頷く。
「ソロモンが呼び出した7体の魔神のうちの2体。この2体を封じるために現代の魔術師の半数の命が失われました」
「いや、魔術師ってんなもんいるのか? ってかいないだろ??」
「信じる信じないは別として、魔神が解放されたことは事実です」
神妙な面持ちで老人は告げる。
「そんな魔神を宅急便で送ってくるのはいかがなものか?」
「ちゃんとクール便だったんですが」
「わけわからんですね」
「それはともかく!」
老人は乱打戦を行う2人の女性を見つめながら、こう続けた。
「解放された魔神は手近な生命体に憑依した後に人間と契約し、その人間の命が尽きるまで従います」
「ふぅん。で、代償にそいつの魂を貰うとかそんな感じか?」
「なかなか鋭いですね。その通りです」
「なるほどなるほど」
青年は頷きつつ、次第に壮絶さを増していく2人の女性を指差し、
「あれが魔神、と?」
「多分そうでしょう。動きが人間の限界を超えていますから」
女性の蹴りが少女の腹に炸裂,吹き飛ぶ少女は背中から壁をぶち抜く。
しかし最初に女性を吹き飛ばした技だろう、間髪おかずに白い塊と化して女性を吹き飛ばし返す。
「で、どうすればこれ以上家を壊されずに済みますかね?」
「…どちらかと契約して片方を止めるしかないのではないでしょうか?」
「放っておくとどうなりますかね?」
青年の問いに老人は小さく唸り、
「街一つくらいは壊滅させるかもしれません」
「そこまでできるのかぁ?」
猜疑的な青年の言葉に答えるかのように、少女がこう叫ぶ!
「こうなったら本気でつぶしてあげるよ!!」
パン、彼女は両手を合わせて力む。
すると
ポン♪
少女の頭に長く白い耳が生えた。
お尻にはもこもこふわふわした丸いしっぽ。
ウサギだ。
美女はそれを見て鋭い目に光を生む。
「そっちがその気なら私も…」
ポポン♪
女性の耳にはネコ耳が生え、白く長いしっぽが揺れた。
たたんたん♪
少女はステップを踏んで威嚇体制。
「ふなーっ!」
女性もまた威嚇の声を上げる。
「あれは…」
青年は絶句。
女性と少女、その生えた耳には彼が先程ペットに手当てした絆創膏が貼ってあったからだ。
「もしかして…あの2人は…」
”分からないの?!”
先程の2人の言葉が彼の脳裏にリフレイン。
「そういうことかっ!」
彼は足を踏み出す、2人の元へ。
「ま、待ちなさい、危険だ!」
老人の声を無視し、彼は彼女達に向かって半ば駆けるようにして近づく。
「ウサウサぱーんち!」
少女のネーミングセンス0の技は神速の正拳突き。女性は上空へ飛びのくと、その拳は家の柱をたやすく打ち砕いた。
「喰らいなさい、ネコきーっく!」
上空からの女性の蹴りは、少女が素早く身をかわしたその場を床ごと深くえぐった。
振動に屋敷全体が揺れる。
みしっと嫌な音が家に響いた。
青年は力の限り、怒りを込めて次の破壊行動へ移ろうとしている2人にこう叫ぶ。
「喧嘩はやめろといつも言ってるだろうが! 捨てるぞ、このバカもんどもがっ!」
びりっ!
彼の声に空気が震えた。
まるで羅刹と化していた2人から殺気が霧散し、怯えの色が生まれる。
それがとどめだった。
がらがらがら………
「あーーーーー!!!」
彼の叫びはむなしく響き、屋敷は倒壊した。
「「ごめんなさい……」」
倒壊した屋敷を前に呆然とする青年の前でうなだれる2人。
遠巻きに近隣住人の皆さんが何事かと見守っている。
どさくさに紛れて隣人の占い師もそちらの輪に逃げてしまっているのは世渡りの巧さだろうか。
「もう喧嘩はしません」
ネコ耳の女性は、しゅんとうなだれてそう誓う。
「だから捨てないで、お兄ちゃん」
ウサ耳の少女が目に涙をためて訴えた。
そんな2人のすがるような願いに、青年は乾いた声で答える。
「家が全壊した今、オレ自身が捨てられた状況なんだが…」
小声で「こっちが泣きたい」と呟く青年に、2人は顔を見合わせる。
「直します!」
顔を上げてネコ耳女性。その顔には決意の色。
「だからお兄ちゃん、元気出して!」
笑みを浮かべて青年を見上げるウサ耳少女。
そして2人は頷き合い、互いに手を取った。
「「魔神の力の全てを以って命ずる,破壊されしモノよ、その形を取り戻せ!」」
重なる2つの声。
声は光となり、倒壊した屋敷を包む。
「「「おおおっ?!」」」
群集がざわめく。
次の瞬間には光は消え、元通りになった屋敷がそこにはあった。
まるで何事もなかったかのような、そんな寸分違わぬ元通りである。
取り囲んでいた群衆は、互いに「夢?」や「手品?」「なんかの番組ロケ?」などなど呟いている。
「なお…った…」
同じようにして呆気に取られる青年の足を、何かが触れる。
「?」
それは2つの小さな塊。
「ふなー」
「…」
ネコとウサギだ。
「契約せずに力を使い切ったために元の姿に戻ったようですな。もう安心ですよ」
後ろから覗き込むように言うのは隣の占い師。
「まったく」
青年は苦笑い、その場にしゃがんで2匹を抱き上げる。
「今度喧嘩したらホント、放り出すからな」
「…」
「ふなーぉ」
2匹は青年の腕の中、嬉しそうに頬を摺り寄せた。
「から揚げ弁当、冷えちゃったなぁ」
そんなぼやきを漏らしつつ、青年は2匹を抱いて家に戻ったのだった。
青年はまどろみの中、妙な重さに意識が覚醒し始めていた。
毎朝、飼い猫が布団の上から彼の胸に乗って前足でふにふにと押すのは日課だ。
朝飯をねだる行為なのだが、ゆっくり寝たい彼からすると困った行為ではある。
だが今日は違っていた。
妙に重いのだ。それも胸の上だけでなく、全身にのしかかっているような重さ。
「う…」
目を開く。
ぼんやりとした視界の先にはいつもの天井、ではなく。
目の覚めるような美女の顔だった。
眠る布団の上、うつ伏せに彼の上にのしかかり、組んだ両手の上にあごを置いて至近距離で彼を見つめている。
ネコの女性だ。
「おはようございます、ご主人」
「のわぁぁぁ?!?!」
「きゃ」
布団ごと彼女を跳ね飛ばして起き上がる。
立ち上がる彼の腰に、重いものがしがみついているのに気付いた。
「…朝? おはよう、お兄ちゃん」
眠そうに目をこすり、彼のパジャマを掴みつつ見上げるのはウサギの少女。
「?!?!?!」
「ご主人、何を驚いているんですか?」
おずおずとネコの女性が問いかける。
「な、なんで?! どうして? 元に戻ったんじゃ?!」
「一晩寝れば力も戻るから、この元の姿に戻るんだよー?」
こしこしと赤い目をこすって少女は答えた。
「そっちが元の姿なのか?! そうなのか?!」
頭を抱えて青年は唸る。
「そんなに驚かれなくても……ちょっと、いつまでご主人にしがみついてるのよっ!」
ぺし、ネコの女性はウサギの少女の頭を叩く。
「なによー、良いじゃない,いつものことだしっ!」
少女は青年の腰に改めてしがみついた。
「離れなさいっ!」
「やーだよー」
「うぉ、引っ張るなっ」
少女の首筋を女性が引っ張り、ぶんと小柄な彼女ごと振り回す。
すぽーん!
反動で青年は布団の上に再び寝転がった。
「暴れるな、バカっ」
起き上がり、怒る彼に、
「「あ」」
2人は視線を彼のある一点に合わせ、頬を赤く染める。
「ん?」
青年は気付く。
少女が彼のパジャマのズボンを手にしていることに。
どうやら転んだ拍子に脱がされたようだ。
彼は恐る恐る視線を自らの下半身に。
「?! ばかやろーーー!!!」
「「ごめんなさーい!!」」
昨夜と同じ声が、今日も響く。
彼に安息の日が訪れるのは、まだまだ当分先のようである。
おわり?