朝も8時を回った頃。
 高校生であろう,学ランを着込んだ青年が自転車に跨って大きな門を飛び出した。
 「間に合いませんよ、若っ! オレのベンツでお送りします!!」
 慌てて後ろから駆け出してきたのは、黒スーツのごつい男。
 その男に向って青年は一喝!
 「俺の学校の時間は口出すんじゃねぇよ,いつも言ってんだろ!」
 「だ、だって…」
 「行ってきます!」
 そう叫びながら、青年は大邸宅の前から自転車で疾走しながら消えて行く。
 自転車は大通りを越え、小さな林を抜け、やがて通勤時間を過ぎてしまい、朝の平穏を一時的に取り戻した住宅地に。
 「あ、あと五分かっ」
 息を切らせながら彼は自転車を器用に操って一路、まだ見えぬ学校を目指す。
 キキキッ!
 と、彼は視界の隅に見知った制服を見つけて急ブレーキ。
 「…君は?」
 彼は荒い息で問う。
 道の端で自転車を止めて、チェーンをいじっている少女が一人。
 どうやら見たところ、チェーンが切れてしまっているようだ。これでは直しようがない。
 少女は止まった青年に視線を上げて、そして恥ずかしそうに長い黒髪の中に目を伏せた。
 「秋月さん、遅刻するぞ」
 同じクラスである2−Bの、美人なのだが存在感の極めて薄い彼女の名を思い出しながら、彼は当たり前のことを言う。
 「う、うん。私は大丈夫だから。陣内くん、早く行かないと遅刻しますよ」
 困ったような、そして寂しそうな彼女の表情は次の瞬間に驚きに変わる。
 「え?!」
 「直んねぇって、それは! ちゃんと捕まってろよ,飛ばすから」
 秋月という少女の手を掴んだ陣内は、そのまま彼女を自転車の後部に座らせ問答無用に漕ぎ出した。
 「そ、そんな急に……私、手も汚れてるし、うぐっ」
 「舌噛むから黙ってしがみついてろよ,気になるんだったらコイツ使ってな」
 ポケットから取り出したタオルを秋月に押し付ける。彼女は僅かに逡巡,それを掴む。
 腰に回された少女の細い腕に力が篭るのを確認すると、陣内は立ち漕ぎに移る!
 2人を乗せた自転車は先程よりも速度を上昇。
 遠く見え始めた学び舎に向って真っ直ぐに進んで行った。


結びの社の巫女


 「あ、あと1分だ,間に合うぞ!」
 陣内は息を切らせながら秋月の右手を掴み、廊下を駆ける。
 3階にある2人の教室まであと少し。
 だが、
 どすん!
 「「ぐっ」」
 「きゃ」
 階段に差しかかった2人は、前から降りて来た一つの影と衝突。
 いち早く起き上がった陣内は、倒れている若い男に「げ」と思わず呟いてしまう。
 「すみません、中西センセ」
 秋月の手を引っ張り起き上がらせながら、陣内は素直に頭を下げた。
 中西――白衣を纏ったやや神経質そうな男は、頭を横に振りながら2人に視線を移し、
 「…秋月?」
 「……」
 陣内は僅かに震えた秋月の手に気付く。
 「すんません、急いでるんで,じゃ!」
 陣内は秋月の手を掴んで階段を駆けあがって行く。
 背後に突き刺さる中西の、殺意すらこもった視線を感じながら。
 それを知ってか知らずか、彼は文句を言える体力すら尽きた秋月を引っ張りつつ教室に飛びこんだ。
 同時。
 キーンコーンカーンコーン♪
 始業の合図と、
 「今日は間に合ったな、陣内。それと…珍しい取り合わせだな」
 教卓に腰掛けた30前の女性――担任の尾崎は出欠名簿に2人のチェックをしながら微笑む。
 同時、居並ぶクラスメートから冷やかすような声。
 「陣内くん、手…」
 「あ、ごめん!」
 慌てて掴んだ手を放す陣内は、顔を赤く染めた秋月が首を横に振るのに首を傾げる。
 「まっくろ……」
 「げ」
 陣内の手は秋月と同じくチェーンの油で黒くなってしまっていた。
 「洗って来い、2人とも」
 尾崎は呆れたように告げたのだった。


 放課後――
 終業のチャイムと同時に教室は解放を祝う自由の空気に包まれる。
 「陣内、カラオケでも寄ってくか?」
 「マックでちょっと食べて行こうよ」
 自然と彼の周りにわらわら集まってきた男女に、陣内は「ごめん」と笑って謝り、目的の後ろ姿を探した。
 腰まである真っ直ぐな黒い髪は、ちょうど教室を出ていったところだ。
 彼は鞄を引っ掴み、その後ろ姿に追いつく。
 「送って行くよ、秋月さん」
 言って後ろから肩をポンと叩く。
 「?!」
 秋月はビクリと震え、反射的に彼の手を叩き落す。
 「あ…」
 振り返ると同時に彼と分かり、すまなそうに俯いた。
 「ご、ごめんなさい…」
 「いや、脅かしてゴメン。遠いだろ、送って行くよ」
 「え……だ、大丈夫です!」
 「自転車通学するくらいだから歩きだと辛いだろ、ほら」
 「あ…」
 陣内は朝と同じく強引に彼女の手を掴み、自転車置き場まで。
 そして自転車の後部に座らせると、ゆっくりと走り出した。
 おずおずと腰に回された秋月の腕を確認して、陣内はスピードを上げて行く。
 この時、彼は気付く由もなかった。
 学校をタンデムで出ていった2人を、化学室の窓から憎々しげに睨みつける一対の瞳を。
 子供がおもちゃを取られた時の憎悪をそのまま大きくしたようなソレを孕んだ男は、やがて化学室から姿を消した。


 お互い自転車を引きながら、遠く見え出した生やしに囲まれた小高い丘を見つめて雑談。
 「へぇ、秋月さんちはお寺なのかぁ」
 「いえ、神社です」
 やや柔らかくなった笑みを浮かべて、彼女は言う。
 丘の上には小さな社。彼女の家が管理する神社である。
 「何のご利益があるの?」
 「良縁です。もし良かったら遊びにきてくださいね。朝のお礼にとっておきのお守り差し上げます」
 「んじゃ、一旦家に帰って着替えてから早速遊びに寄らせてもらうよ」
 「あら、そうですか。私は社の方で家の手伝いをしてますんで、いつでも声をかけてください」
 「家の手伝いって、もしかして巫女さん?」
 「はい。祖父が昨年亡くなったので、私くらいしか管理できる者がいなくて……でもお客さん来ませんから、結構暇なんですけどね」
 口を押さえて小さく笑う秋月の横顔を、陣内は見つめる。
 その視線に気付き、彼女は首を傾げた。
 「秋月さんって可愛く笑うんだね。学校でもそうやって笑うと、男子は放っておかないと思うけどなぁ」
 しみじみ呟く陣内に、秋月は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
 「あ、それとももぅ、彼氏いるのか」
 「…私に人に好かれる資格は、ありませんから」
 おどけて言った陣内は、ボソリと呟いた彼女の言葉に硬直。
 「え、えと?」
 「あ、いいえ。何でもありません、何でも…」
 首を小さく横に振って、彼女は顔を上げる。
 丁度場所は神社のある丘の裏手,彼女の家の玄関前だ。
 「今日は本当にありがとうございました」
 ペコリ、頭を下げる彼女。
 「困った時はお互い様って言うじゃん。俺が困った時は頼むよ」
 「はい!」
 「じゃ、また後でね♪」
 陣内は秋月に見送られながら自転車に跨って、真っ直ぐに自宅に向って漕ぎ出した。


 秋月は陣内の後ろ姿を、見えなくなるまで見つめていた。
 ふと我に返る。
 「……何やってるんだろう、私」
 寂しげに呟く。ポケットから取り出した、チェーンの油で所々が黒くなってしまった白いタオルを胸に抱いて。
 玄関を開ける。
 「ただいま」
 幼い頃からの習慣で言ってしまう言葉。
 しかし、シンと静まり返った古い家屋からは返事どころか人の気配はない。
 いつもの事だった。
 そのまま自室へ。
 畳敷きの上に机と、ベットとタンス,そして壁に立てかけられた姿見が一枚あるだけの殺風景な部屋だ。
 姿見を見つめながら、彼女は陣内のタオルを机の上に。
 パサ、スルリ、パサリ……
 衣擦れの音と共に制服が畳の上に落ち、姿見には白い下着姿の彼女が映る。
 映る己を羨ましそうに見つめる秋月。
 「……鏡の中の貴女は、私とは正反対なのでしょうね。穢れもない、無垢な心と体なのでしょうね」
 彼女は両腕で己の肩を抱く。
 上質の絹のような日焼けのない白い肌に、僅かに赤い爪痕がついた。
 「私には人を好きになれる資格なんてない,ないの…」
 唇を噛み、秋月はうめく様に呟く。
 そのまましばらく。
 肩の力を抜いて、彼女は顔を上げる。僅かに瞳が赤い。
 ベットの脇に畳んでおいてあった、幼い頃より着慣れた巫女装束を身に纏って行く。
 「大丈夫,好きになりも、好かれもしないから……でも、お話するくらいなら、ね?」
 鏡の前、映る己にそう告げる。
 机の引出しを開けて、彼女は『それ』を手に取った。
 鏡の中の彼女のくいび唇に、淡い朱が引かれて行く。
 「ん,これくらいのおしゃれは、良いよね?」
 正反対の彼女は微笑んで頷き、部屋を出ていった。


 江戸の中期より続くと聞かされている社には、小さいながらも時を重ねる事によってだけ積み重ねられることが出来る威厳と重さがあった。
 隣接する社務所の掃除を終え、狭い社に洗い物を片手に上がった秋月はそれらを干して行く。
 実は黴臭そうに見えて、社の中は最も乾燥しており風通しが良い。
 何より外から見えないのでこういった洗濯物を干すのは絶好の場所と言えた。
 ……罰当たりという説もあるが、彼女の祖母も曽祖母もやっていたことなので許されているのかもしれない。
 秋月が最後の一枚,白いタオルを干し竿にかけようとしていた、その時だった。
 ガタン
 戸を開ける音,そして間髪置かずに。
 「ひっ!」
 秋月は短い悲鳴を上げてタオルを落とす。
 後ろから抱きしめられたのだ,右の耳元に荒い息が吹きかかる。
 「や、やめ……」
 秋月はもがくが、予想以上に強い力に身動きが取れない。
 彼女を後ろから抱く――男からは僅かな薬品臭。
 恐怖に秋月の体が大きく震えた。
 「今日は幸せそうだったじゃないか」
 生温い息が秋月の耳に触れる,同時、服の合わせから侵入した男の右手が乱暴に彼女の左のふくらみを下着の上からわし掴んだ。
 「違います、違います…たまたまだったんです,陣内さんと一緒だったのは」
 「ほぉ、たまたま幸せだったか,いつまでもアイツの後ろ姿を見送っていたなぁ」
 「うっ」
 男は右手に力を込める,丁度手の中に収まっていたふくらみは、指の間から漏れ出す様に歪に変形した。
 「アイツよりもお前の隅々を知っている俺には、あんな顔を見せた事なかったなぁ。妬けたよ」
 声は穏やかだが、濁った感情を含んで左手が動く。
 袴の帯を掴み、一気に結び目を解いた。
 「い、いや! 今日は、今日はやめてください!!」
 外には漏れない小さな声で叫んで秋月。
 「やめてください、だと?」
 乳房から右手を放し、強引に己の方を向かせる男。
 帯を掴んだ左手は放さない。
 秋月の目の前の男は白衣を纏う30前の男だった。
 普段は端整な顔立ちで女生徒に人気のある教師たる男だが、今は醜悪な笑みに満ちている。
 彼は左手を思いきり引っ張る!
 「きゃ!」
 袴がよじれて足許がすくわれ、秋月は社の木の床に倒れこんだ。
 「命令できる立場だと思うのか、秋月?」
 仰向けに倒れた秋月は、白い上衣がはだけ左胸の下着が覗き、赤い袴が膝までずり落ちていた。
 帯を放り捨て、呆然とする彼女を見下ろしながら彼は勝ち誇る様に問う。
 「人が…私宛てに今日は人が来るんです。だから…」
 「陣内か?」
 ビクリ、床の上で上体を起こした秋月は震える。
 「見せてやれば良いだろう? 普段のお前の姿を」
 「そ、そんな,それだけはっ!」
 「だが、俺は帰るつもりはないぞ」
 ニタリと笑う彼は続けた。
 「もっとも俺を満足させたなら帰ってやろうじゃないか」
 「え……」
 「ほら、時間がないんじゃないのか?」
 秋月は彼を見上げ、そして俯き、再び顔を上げて告げた。
 「分かりました、中西先生………」
 彼女の顔に映るは疲れ果てた無表情。
 秋月の細く白い指が僅かに震えながら、中西のスラックスに伸びる。
 膝立ちの姿勢で、彼女は両手で中西のチャックを下ろした。その様子を立ったままの態勢で満足げに見下ろす中西。
 秋月は下ろしたチャックの向こう側から、黒い中西自身を恐る恐る取り出した。
 白い十指に触れられたソレは、瞬動。
 「で、それをどうするんだ?」
 頭上からの声に秋月は目を瞑り、そして僅かに小さな口を開いて先端にキス。
 柔らかな彼女の唇の触感に、中西のソレに力がみなぎり始めた。
 秋月はキスを続ける。フレンチなそれから、やがて少しづつ深く。
 舌を少し出して、彼自身の先を舐める。
 「…はぁ」
 彼女は吐息,閉じられた両の瞳から流れ落ちる雫。
 彼女の唇は触れるだけのキスから、頬張る行為に移行する。
 唇に引かれた淡い朱が中西自身に移り、そして自ら舐め取って行く。
 中西は秋月の小さな中で大きく、堅くなって行く。
 やがて彼女の小さな口ではその半分も頬張れなくなる頃、
 「そんなことでは俺は満足できんぞ」
 唐突に中西が秋月の頭を掴み、自身の腰に押し付けた!
 「グ!!」
 秋月の瞳が苦痛に目一杯に開かれる。
 中西自身が彼女の喉まで到達していた,秋月はもがきながら彼の手を振り払う。
 「ゴホッ、ゴホゴホゴホッ!」
 床にうつ伏せになり、咳き込む彼女。
 「やはりまだお前では、上の口で俺を満足させるのは無理みたいだな」
 言い、彼女の膝まで落ちた袴を掴んで一気に引き脱がす。
 「うぁ!」
 両足を持ち上げられる形で、うつ伏せに改めて床に叩きつけられる秋月。
 中西は赤い袴をその場に落として、目の前に揺れる秋月の腰を見つめた。
 後ろから無造作に白い下着に手をかけ、袴の時と同じように力任せに引き脱がせる。
 「いやっ!」
 どすん,見かけによらない中西の膂力で再びうつ伏せに倒された秋月。引き脱がした彼女の下着が僅かに湿っているのを確認して、ニヤリと彼は邪に微笑む。
 秋月は両手で隠す間もなく、中西によって後ろから引き寄せられた。
 尻だけを持ち上げた格好で、秋月は秘所を彼の前に曝け出される。
 薄暗い社の中、その細かい造形は見えにくい。
 「中西先生……ごめんなさい、やめてください」
 咳と、しゃくりあげるような泣き声を伴って秋月は背後の中西に頼み込む。
 「やめろと、そう言うのか?」
 「ひっ!」
 中西の冷たい右の人差し指が、秋月の襞を拭う。
 「こんなに湿っているのに、やめるのか? ええ??」
 拭っていた人差し指は唐突に、秋月の膣に潜りこんだ!
 「ん……!」
 抵抗なく冷たい指を受け入れた彼女は、諦めた様に全身から力を抜いた。
 静かに両の瞳を閉じる秋月。
 その様子に中西はあることに気付く。
 「秋月,お前、陣内の事が好きなのだろう?」
 彼女の中に潜っていた中西の指を絞める力がビクリと強くなる。
 「とんでもない女だ。何故目を閉じてるかと思えば、俺を陣内の代わりにしてやがったのか!」
 「ち、違いますっ!」
 慌てて秋月は振り返り,しかし腰が彼に掴まれているので顔だけを後ろに。
 「分かった、やめてやる」
 彼の意外な言葉に、秋月に安堵の表情。
 「こっちはな!」
 直後、秋月の腹部を貫くような激痛が走る!
 「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 中西は一気に己自身で、秋月の後ろを差し貫いたのだ。
 「あああああぁぁぁぁぁ……」
 秋月は声にならない声を上げて、床をかきむしる。
 彼女の爪と白い太腿には、赤より紅い雫が流れ落ちていた。
 「良い具合にきついぞ、秋月ぃ」
 中西はサディスティックな笑みを顔一面に貼りつけ、自身を動かす。
 「う、うぐぁぁぁ!!」
 悲鳴を通り越した嗚咽が、秋月の喉を走った。
 中西自身の潤滑剤となっているのは秋月から漏れる血。
 一突きされるごとに、秋月は壊れた人形の様にビクンと一つ痙攣する。
 「た、助けて…」
 頬を涙で濡らし、秋月は落ちていたそれを強く握り絞めた。
 自転車の油で黒くなった為に白く洗い直したタオルは、今度は赤く染まって行く。
 彼女は絶望と苦痛の中、タオルに救いを求めていた。
 どうしようもない、行き場のない絶望という闇の中に突如乱入してきた光に。
 頼るのは、甘えるのは彼に迷惑,しかしこれ以上はもぅ、耐えられない。
 都合の良い話だと思う。だけれども…
 ”ダメ、私は彼の事が好きじゃ、ないの!”
 呆然とした意識を苦痛に何度も蘇らせながら、秋月は自らにそう言い聞かせた。
 陣内に好意を寄せたのは今に始まったことではない。
 穢れる1年前から、秋月は陣内を見つめ続けていた,だが、今はそれは否定しなくてはいけない事。
 中西が何度突き上げた頃だろうか?
 秋月にとっては無限にも近い長い時間だったようにも思えるし、実際には数分にも満たない短い時間だったような気もする。
 普段は滅多に人のいない境内から人の声が聞こえてきた。
 それは秋月にとって、最も会いたくて、最も会いたくない人。
 「秋月、どうやら間に合わなかった様だな」
 背後から突き上げてくる冷たい声。
 「せっかくだ、見せつけてやろうじゃないか,俺達の仲を」
 「い、いやぁぁ……」
 力一杯に秋月は否定し様ともがくが、すでに体力が尽きていた。
 後ろから突いている中西は、秋月の両腕を羽交い締める。
 それが何を意味しているのが気付いた時、秋月は本能的に悲鳴を上げていた―――


 静粛な境内だった。
 こじんまりとした社ながらも、綺麗に掃き清められているところに場としての神聖な雰囲気以上に、管理する者の心の持ち様が伝わってくる。
 ポロシャツにジーンズ姿の青年はキョロキョロと当たりを見渡す。
 市街地にありながら車の音は遠く、鳥の囀りが耳に目立つ。社を囲う木々が外界の音を吸収してしまっているのだろう。
 「あれ? いないな??」
 無人の社務所を覗いた彼は次の瞬間、聞いた。
 「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 紛れもない女性の悲鳴。
 「え?!」
 慌てて辺りを見まわす。
 「う、うぐぁぁぁ!!」
 今度はくぐもった声。声は木々の中を反響して何処からのものなのか、方向が分からない。
 社務所をもう一度覗く。人の気配はない。
 「秋月さん?!」
 叫ぶ,返事はない。
 だが、一瞬遅れて、
 「やめてぇぇぇ!!」
 叫びは社の中から。
 彼――陣内は社に駆け、賽銭箱を飛び越えて、力任せに観音開きの扉を引き開けた!
 「え……」
 目の前の光景に彼は硬直。
 理解が出来なかった、何故、このようなことになっているのかが。
 「見ないで……」
 力なく呟き、顔を背けるのは秋月その人。
 陣内の目の前には、紅と透明で濡れた秋月の秘所が剥き出しに晒されていた。
 後ろから、まるで幼児が用をたすような格好で男に抱えられている。上衣は乱れ、左胸の形の良い乳房が下着からこぼれていた。
 何より、彼女の後ろは男自身に深々と差し込まれている。
 「いらっしゃい、陣内くん。どうだい? 前が空いているよ」
 「うぐっ!」
 抱え上げた秋月を上下に揺らして、彼はニヤリと笑みを浮かべた。
 揺れるのに合わせて、秋月の秘所もリズム良くビクリと動く。
 呆然とした陣内は男に視線を移す。そして信じられないように呟いた。
 「中西センセ……アンタ」
 「これが秋月の本来の姿だよ、陣内くん。血を流して悲鳴を上げながらも、しっかりと濡れている。淫乱な女さ」
 「いやぁぁぁ…」
 陣内は顔を背ける秋月の、頬に流れる涙を見た。流れ行く先には朱がほとんど剥がれ落ちている唇。
 彼女の唇が声なく動いていた。
 ――助けて、と。
 それを理解する以前に、陣内は動いていた。
 秋月の後ろに隠れた中西の右目に人差し指を突き立てる!
 「ぐわっ!」
 「秋月さん!」
 中西が仰け反って羽交い締めた秋月を落とす、その前に陣内は秋月を抱き掬った。
 「陣内くん……ありがとう」
 彼の胸の中、秋月は疲れ果てた顔で眩しそうに陣内を見つめる。
 対する陣内は殺意のこもった目で右目を押さえる中西を睨みつけた。
 「教師ともあろう人が……アンタ、おしまいだよ」
 「ほぅ、このことを暴露するかね? そうなれば秋月もここにはいられなくなる」
 ニタリと微笑む中西から汚いものを見たかのように目を逸らせた。
 「アンタみたいな人のクズを始末するには色んな方法がある。だから」
 陣内は秋月の乱れた前髪を優しく払った。
 「大丈夫だよ、秋月さん。後は俺に任せてくれれば。つらかったね」
 「…うん」
 秋月は彼の手のぬくもりを頬に感じながら、そっと目を閉じる。
 陣内は秋月の息遣いが穏やかになったのを確認すると、再び中西に視線を戻した。
 すでに彼は着衣を整えている。
 「中西,覚悟は出来てるな?」
 その声に、中西は血相を変えて後ろに数歩下がった。陣内から走る殺意に、只ならぬモノを感じたからだ。
 先程までの陣内とは異なっている。
 強いて言うならば風格が、だ。
 「アンタには苦しみ抜いてもらう,ただで死ねるとは思わんことだ」
 「何を…ぬかす」
 再び後ろに下がりながら、中西は額に汗を浮かべて乾いた声で言った。
 「出来るものなら、やってみろ!」
 身を翻して社を立ち去る中西。
 陣内は特段追いかけるでもなく、眠りについた秋月を抱きかかえたまま起こさないように懐から携帯電話を取り出す。
 短縮ダイヤルは自宅。
 「…俺だ。ウチの高校の教師やってる中西って男を洗い上げろ。早急にな」
 通話先からは野太い声が返って来る。
 「それと…ここまで一人、女を寄越してくれ。違うよ、おばちゃんの方が良い」
 暮れ行く日の光を受けながら陣内は眩しそうに見つめ、そして彼の胸の中で眠る秋月に視線を戻した。
 と、彼女の姿を見て、慌てて彼女の手にしていたタオルを腰に巻いてやる。
 すると、はだけた胸が目の前に。
 「我慢ってのは……体に悪いな、こりゃ」彼女の上衣を直しながら、苦笑。
 「でもこれくらいは、許してくれよな」
 寝顔に優しく微笑み、僅かに残った紅に彼は唇を寄せた。


 陣内はベットの脇に腰掛けながら、眠る秋月を見つめていた。
 先程、彼女の世話をした組織の女性と、中西の自宅を洗い上げた黒スーツの男が去っていったところだ。
 ブルルルル……
 陣内の胸ポケットで携帯が音なく震える。
 「俺だ,首尾はどうだ?」
 電話の向こうからはゴツイ男の声が聞こえてくる。
 『若,中西って野郎はとんでもないヤツですわ。そこのお嬢ちゃんの他にも何人も脅してたみたいでさぁ』
 「そか,もっとも残酷な方法でけじめをつけさせろ」
 抑揚のない陣内の冷たい声に、電話口の向こうの男から唾を飲む音が聞こえてくる。
 彼は電話を切り、小さく溜息。
 中西の自宅からは秋月だけでなく、多数の女性の暴行を録画したテープが発見されていた。
 彼はその全てに焼却処分を下し、捕らえた中西にも処分を下し終えていた。
 陣内組――日本を代表する、裏の世界を握る組織である。その4代目として、若くして切り盛りするのが彼である。
 「ん…」
 ベットの中で秋月がうめく。
 悪い夢でも見ているのだろうか、額に皺が寄っていた。
 陣内は一瞬戸惑うも、彼女の額に手を触れる。
 暖かい温度が、冷たい彼の手に移行する。やがて彼女から苦痛の色は引いて行った。
 「両親も出稼ぎで、中西には弱みを握られて……それなのに良くここまで我慢できたものだよ。強いよ、君は」
 「そんなこと、ない」ゆっくりと秋月は目を開けて答えた。
 「おはよう、秋月さん」
 笑って彼は彼女の額から手を放そうとする,が、秋月が己の手を重ねた。
 「……私は、関係ない貴方を巻きこんでしまった。私自身で解決しなくてはいけないのに」
 上体だけを起こして秋月は呟く。
 彼女の世話をした女性が何かを勘違いしたのか、秋月は白いローブを一枚纏っているだけのようだった。
 「…何でだよ。一人で無理して、そして出来るものじゃないだろう?」
 見えそうになる彼女の胸から目を逸らせて陣内は言う。
 しかし秋月は彼の手を握り締めたまま首を横に振った。瞳から涙が溢れる。
 「せめて陣内くんには知られたくなかった……」
 「だからどうして?」
 やや憤りを感じて彼は問う。
 秋月は諦めた様に、彼に見つめて告白した。
 「私、陣内くんの事が好き。入学した時がらずっと好きでした」
 「へ?」
 「迷惑でしょう? こんな穢れた女に好かれるなんて」
 目を伏せて、秋月は呟く。
 「だから誰にも内緒にしたかった。私一人で解決できれば、誰もこのことを知らなければ、私が人を好きになることだけだったら許されると思ってた。だけど、もぅダメ」
 溜息一つ。
 「あんなにも穢れたことが、一番知られたくない貴方に知られてしまった。だから…」
 秋月の言葉はそこで遮られる。
 陣内は唇で、彼女を塞いだからだ。それは言葉を止めるだけの、触れるだけのキス。
 「陣内、くん?」
 「秋月さんの何処が穢れているんだよ、俺に見せてくれよ」
 「え…」
 真っ直ぐな彼の視線が彼女の濡れた瞳に突き刺さる。
 「見せてくれって、見えるものじゃ…」
 「穢れは唇かい?」
 「ん…」
 再び彼女の唇を奪う陣内。今度は触れるだけではない,彼女を唇から犯すような、深い深いキスだった。秋月の中に空気が尽きかけた頃、彼はようやく離れて次の個所を探す。
 「はぁ……やめ、て。陣内くん,ん!」
 左の耳を舐められて秋月は身をよじる,結果、彼の胸の中に転がりこむような形になった。
 「君が穢れているんだったら、俺がその上から穢しなおしてあげるよ」
 「そんな……だめっ、んぅ」
 抵抗らしい抵抗も出来ないまま、三度唇を奪われて、秋月からは余計な力が抜けて行く。
 「んんっ…はぅ」
 舌を舌でなぶられ、秋月は2,3度痙攣。
 陣内は彼女の唇を解放する。熱い吐息が小さな唇から漏れ、先程とは異なる涙が流れた。
 彼は頬に流れた純粋に透明な雫を、舌で舐め取る。
 「や、やだ」
 顔を真っ赤に染めて秋月。
 「どこが穢れてるんだろうな、まったく」
 彼女の長い黒髪を手で軽く梳きながら囁いた。秋月はそれが気持ち良さそうに目を細める。
 「迷惑かもしれないけれど……今でも好きです、陣内くん」
 嬉しそうに小声で告白,今度は彼女自らが彼に唇を寄せた。
 お互いを確認するかのような、長く深いキス。
 陣内の両手は同時に彼女の細い肩にかかり、大きめのローブを下ろして行く。
 白磁のような木目細かな白い肩,胸の張りのある双丘の先は仄かに淡い桃色。
 痩せ過ぎでも、ましてや太ってもいない彼女の腰のところまでローブは落ちて、パサリと衣擦れの音を立てた。
 お互い、唇を放す。濃い唾液の橋が出来て、落ちた。
 陣内は彼女の肢体を見つめる,どこかポゥっとしていた秋月ははっと我に返り、両手で胸を隠す。
 「そ、そんなに見つめないで下さい,恥ずかしい……」
 上目遣いに彼女は彼を見つめる。しかしその返答はなく、静かに彼女を見つめる陣内がいるだけだった。
 秋月は恐くなる。彼がではなく、自分がだ。
 「……陣内くん、もしかして私の体……変ですか?」
 いつしか厳しい顔になっている彼にすがる様に秋月は問うた。
 「秋月さん、もっとちゃんと見せて」
 「は、はいっ」
 彼女は両手で隠していた胸をおずおずと曝け出した。
 大きすぎずも小さくもない柔らかそうな双丘。
 淡い色のついた小さな先端は緊張の為であろう、ツンと上を向いている。
 陣内はまじまじと顔を近づけ、やがて右の胸を見つめて、
 「あの、どこがおかしいんでしょう……あん!」
 緊張感を漂わせた秋月は次の瞬間、そんな声を上げてベットに押し倒された。
 陣内は秋月の右胸を抱き付く様に頬張ったのだ。
 「や、騙しましたね!」
 彼の頭を除けようとする彼女だか、陣内の右腕一本で両腕を頭の上に押さえつけられてしまった。
 ちゅる
 わざとらしく音を立てて、彼女の右胸から口を放す陣内。
 唾液に濡れた彼女の右の丘の先端は、ほんの少しだけ左のそれよりも大きくなっている。
 「綺麗な胸だよ、秋月さん」
 まじまじと見つめながら彼は正直な感想。バンザイをさせられた格好の彼女は隠すことも出来ずに頬を今まで以上に真っ赤に染める。
 「だから隠さなくても良いよ、うん」
 「そ、そういうことじゃなくて……陣内くんのHっ!」
 顔を背ける秋月に、陣内は意地悪く笑った。
 「言うことに事欠いてHとくるかぁ、そうかぁ」
 やや邪悪なものを感じ取り、秋月は陣内に視線を戻す。
 「う、陣内くん、なんか恐いよ?」
 「そう? 期待にお答えしようと思っただけだけど?」
 「いえ、そんな変な期待はして…あ、あぅ」
 彼は再び秋月の胸に吸いついた。跡がつかないくらいに吸い、口の中で堅くなっている乳首を舐め、転がす。
 同時、空いている左手で彼女の左胸を揉みしだいていく。
 「や、恥ずかしいよぉ,そんなこと…はぅ!」
 首を嫌々と横に振るだけしか出来ない秋月の吐息は次第に荒いものに変わっていった。
 こり
 「はぁぅ!」
 びくん!
 秋月の体が大きく痙攣,声が漏れる。
 「や、噛まないで…」
 こり
 陣内は再び乳首を軽く噛む。同時、同じ痙攣が秋月を走った。
 彼の左手もまた彼女の桃色の先端を軽く抓っていた。抓ると同時に小さく震える秋月。
 それを何度繰り返した頃だろうか,秋月はすでに両腕は解放されているにも関わらず胸を曝け出していた。
 「そんなに、いじめ、ないで」荒い息を吐く秋月。
 そんな彼女に覆い被さるようにした陣内は、秋月の頬に優しく微笑み軽くキスをした。
 そのキスは首筋、胸の谷間、臍に下り、そして。
 「は……」
 秋月の荒い息が止まった。息と同時に身を捩じらせていた小さな動きも止まる。
 陣内は彼女のローブを割り、白く長い両足の付け根に顔を埋めていた。
 つ…
 「んんっ!」
 彼女の一番敏感な部分に、彼の唇が触れた。その衝撃に彼女は仰け反り、両足の太腿で彼の頭を思いきり挟む。
 彼の動きは止まらない、それどころか彼女を今まで以上に侵略して行く。
 敏感な場所を舐められた。
 口に含まれた。
 吸われた。
 彼女の最も深い所にも彼の唇は及んだ。
 襞を押し退けて暖かく柔らかな、淫らな舌が膣に入り込む。
 「はぅぁぁ!」
 彼の頭を両手で押さえこんで、長い髪を振り乱しながら嫌々をする秋月。
 だが彼女の力では陣内を今の位置から退かす事は出来ない。
 舐め取られ、濡らし、また舐め取られる。
 その繰り返し。
 「あぅ……ん,もぅ……」
 秋月の四肢から力が抜けた頃、彼女自身を放す陣内。
 火照った秋月の頬を両手で撫で、額で軽く彼女の額に触れた。
 「もぅ、の後に続くのは、何だい?」
 「……いじめっ子は、嫌いです」
 秋月はベットの上で力なく立ちあがり、乱れたローブを脱ぎ捨てた。
 陣内の前で差しこむ月明かりに冷たく照らされた彼女の肢体が映える。
 彼女の白い肌は熱に仄かに赤く、その姿だけで異性を翻弄する雰囲気を伴っていた。
 無論、陣内も例外ではない。
 ベットの上であぐらをかき、しばらくのその美しさに呆然としていた陣内は彼女に手を差し伸べる。
 「おいで」
 「うん」
 秋月は彼の膝の上に座り、そして強く抱きしめられた。
 「あ……陣内くん」
 「ん?」
 「一つお願いしても、良いですか?」
 陣内の耳元に熱い溜め息を纏わせながら、秋月は戸惑う様に問う。
 「良いよ、何かな?」
 「えと……強く、強く私を抱きしめてください。私がここにいることが分かるくらいに強く…」
 「分かった」
 陣内は秋月の華奢な体が壊れそうになるくらい、強く強く抱き締める。
 はぁ、と彼の耳に彼女の息がかかった。
 「ん、陣内くん,私、今、ここにいるんですね」
 耳元の囁きに無言で頷く陣内。
 「もぅ……今晩で私、死んじゃっても悔いはないです」
 「…何言ってるんだよっ」
 抱き締めたまま、彼女を押し倒す。
 腕を放す,陣内の目に映った秋月は笑っていた。
 頬を涙で濡らして笑っていた。
 「死んだりしませんよ。さっきの胸のお返しです」
 小さく舌を出す彼女に、彼は唇を寄せる。
 「俺が惚れちまっただけはあるよ、秋月さん」
 「へ?」
 陣内の言葉に素っ頓狂な声を上げる秋月。
 「? 何だよ、そりゃ??」
 「私の事、好きでいてくれるんですか?」
 「はぃ?」
 陣内は、しかし純粋に疑問符を浮かべる秋月に怒る事が出来なかった。
 「……好きでもない奴をこうして抱く訳ないだろう? 他の男は知らないけど、同情だけで抱ける訳がない。好きだから抱いているんだ」
 「あ……」
 秋月は胸の前で両手を組んで、言葉に詰まる。
 「言葉にしてくれると……嬉しいです」
 「…恥ずかしいからなぁ。でも今はいくらでも言ってあげるよ」
 陣内は微笑み、彼女の頭を軽く撫でる。
 「秋月さん、好きだよ」
 彼女は目を瞑り、彼の言葉を反芻する様に頷いた。
 そして涙で濡れた瞳で真っ直ぐに彼を見つめて両腕を広げる。
 「きて……陣内くん」
 秋月の言葉と姿に、すでに陣内自身は彼が驚くほどになっていた。
 「ああ。行くよ、秋月さん」
 仰向けの彼女の両足をそっと開き、その間に入る。
 彼の先端が彼女の襞に触れ、静かに彼女の膣へと埋まって行く。
 すでにこれ以上もないくらいに滑った彼女の中は、それほどの抵抗もなく彼を受け入れていった。
 「う…」
 下半身を包みこむ暖かさに、陣内は思わず声を漏らす。
 「あ…ふ」
 扇情的な声を漏らす秋月。陣内自身が半ばほどまで沈んだ時だ。
 「秋月さん、気持ち良すぎ……ヤバいくらいに」
 「ん、今日は大丈夫だから……」
 今までにない程の甘い声で彼女は言いながら、彼の首に両手を回す。
 「私を好きにして」
 耳元に囁かれた言葉と熱気に、陣内の中で何かが外れた。
 一気に彼自身を彼女の中に押し込む。
 「ふぁぁぁぁ!!」
 秋月から声が漏れた。
 魅入られたような虚ろな瞳で陣内だけを見つめている。
 その表情に触発された様に、陣内はゆっくりと前後に動く。
 「ん、ふぅ、はぁ」
 引き抜かれようとする彼を放さない様に、やってくる彼をさらに奥へ向かえ込む様に、まるで飲み込まれるような秋月の中に、陣内は完全に酔い始める。
 「秋月さん…」
 彼女の腰に腕を回し、彼自身を彼女の中に押し込んだまま起こした。
 陣内の上に座るような形になった秋月は、これ以上もない奥へ侵入してきた彼自身に思わず仰け反る。
 彼女の背に腕を回し、まるで逃がさない様にして陣内は下から秋月を突き上げた。
 「やぁぁぁ……くぅぅん!」
 彼は目の前に揺れる無防備な胸に顔を埋め、一段と堅くなった桃色の先端を先程よりも強く噛んだ。
 「ふぅぅ、んぁぁ!」
 秋月は身を反らせる,同時に彼自身を強く締めつけた。
 じゅ、じゅぷ、じゅじゅ
 程なくして2人の接合部から湿った音が聞こえてくる。
 「秋月さん,いやらしいよ」
 「やだ、変な事,うん、言わないで、はぅん!」
 下から休みなく貫かれ、途切れ途切れに声を漏らす秋月。
 と、背後に回された彼の手の片方が背中から下へ降りた。
 ビクリ、秋月は震える。
 「陣内…くん、そこは」
 彼の冷たい指が、彼女の後ろに触れた。途端、彼女の中の彼自身を強く締め上げる。
 「……触って、忘れられるくらいに」
 「いや、冗談だよ、秋月さ…」
 陣内の言葉は彼女のキスで塞がれる。キスの中、彼女の歯は小刻みに震えていた。
 彼は舌で彼女の口を犯す,震えがなくなるように。
 同時、下へと下がった右手の人差し指を愛液で濡らして、傷ついた小さな穴に触れる。
 つぷ
 ビクビクッ!
 秋月は震え上がる,彼女の膣は陣内を絞め、舌は自ら進んで彼の中へと入った。
 彼の人差し指は皮一枚を挟んで、己自身と会合する。
 「ふあぁぁん!」
 唾液を溢し、秋月は悲鳴を上げる。陣内の右手に温い、愛液とは異なる紅い液体がこぼれ始めた。
 きついくらいに陣内は強く締め上げられる。
 「きつっ」
 陣内の顔が僅かに歪む。
 「うっ……陣内、くん」
 彼を真っ直ぐに見つめる秋月に気付き、微笑み、
 「ああっ」
 人差し指を根元まで埋め、下から思いきり彼自身を突き上げた。
 秋月は大きく震えると、彼の後ろに回していた両腕を放して糸の切れた人形の様に力が抜けた。
 「秋月さん」
 人差し指をゆっくり引き抜く陣内。彼女の安堵の熱すぎる吐息が彼の耳に漏れた。
 陣内は彼女を元通り仰向けに寝かせる。
 「私は大丈夫だから……続けて」
 ぼぅっとした表情で秋月。陣内は深く、ゆっくりとした動きから次第に荒々しい、激しい動きに変わって行く。
 じゅ、じゅ、じゅじゅ!
 「はぁ、やん、うん!」
 容赦なく秋月の膣に、陣内自身が出入りする。淫らな音を立てながら、わざとそれを秋月に聞かせるかのように激しく出入りする。
 じゅぷ、ぬぷ、じゅん!
 「はわ、はぅ、あぅ!」
 赤く火照った秋月の胸を、両手で乱暴に掴む陣内。
 両の胸の桃色の突起を、ぎゅっと摘む様にして転がす。
 「ふぁぁ……また、またイクっ、はぁん」
 じゅ、じゅぷ、じゅ
 壊れそうなくらいに陣内は秋月の中に己自身をぶつける。
 まるで彼女に自分自身の存在を刻み付けるかのように。
 じゅ、じゅ、じゅぶ
 「くっ、もぅ…」
 「陣内くんっ、好き、好きっ!」
 彼の背に両手を回して、彼女は叫ぶ。
 一段と深く、陣内は秋月の奥に潜り込む。
 彼を包むぬくもりは、すでに熱くたぎっていた。
 そして強く締め付けるそこで、彼は全てをぶちまけた。
 「うっ」
 「はあぁぁぁぁ、熱い………くぅん」
 びくびくっと秋月の体が、彼を受け入れたまま痙攣する。
 そのまま陣内は、彼女の上に倒れる様に覆い被さった。
 「秋月さん」
 「ん?」
 彼女の火照った頬を撫でながら、陣内は唇を寄せながら告げる。
 「隅々まで俺は触ったから……もぅ君は俺で穢れてるよ。だから、さ」
 「うん……ありがとう、陣内くん」
 2人は微笑み合い、尽きることのないキスを交し合う。
 ベットの下、冷たい月明かりに洗ったばかりの一枚のタオルが照らされていた。


 穏やかな日差しのお昼時。
 「なぁ、陣内?」
 「ん?」
 陣内はクラスの男子達数人と弁当箱をつついていた。
 「秋月さんって、あんなに可愛かったか?」
 仲間が彼の視線の先にいる黒髪の女性を眺めて問う。
 「可愛かったよ」
 「そーかー,1年以上気付かんなんて、俺も目が鈍ったかな」
 陣内は彼と、同じ教室の別の場所で食事を取る女子のグループに視線を向けていた。
 そこには他の女子に混ざって元気に笑う秋月の姿。
 彼女は彼の視線に気付くと、誰にも気付かれないようなウィンク一つ。
 「ま、平和が一番、てか?」
 「そうだな」
 陣内の呟きに、誰ともなく仲間は呟く。
 空になった弁当箱をしまう陣内の鞄には良縁を約束する、とある神社のお守りが一つぶら下がっていた。

End...