羽田に至るエトセトラ
2人の上司から声がかかったのは、彼が北海道へ出張する前日のことだった。
「田中君、明日の北海道はもちろん飛行機だよね?」
「はい、係長。9時30分の羽田発に乗ろうと思いまして」
彼が答えると、隣に座っていた男がこう切り出した。
「なるほど、すると羽田空港までは東京モノレールだね」
「課長代理補佐、それは違いますよ」
田中がそれに答えるよりも早く、係長がそれに反論する。
「普通は京急でしょう? なぜ東京モノレールなんぞに乗るなんて発想が出るんです?」
「係長、君はちょっとおかしいね」
課長代理補佐の額がピクピクと痙攣しているのを田中は見逃さない。
「東京モノレールは羽田空港へ直結するために作られた路線だよ。それをないがしろにするつもりかね?」
東京モノレールは浜松町から発車し、約23分で終点羽田空港へ至る。
車両タイプは開業当初の100、200、300、350、1000形車両を経て、現在は2000形車両だ。
2000形車両では、天井を高くし車内は窓を大きく、明るく落ち着いた色調の座席を採用。
乗り心地のよいバケットタイプをとっている。
視界を大きく確保した側窓は、パノラミックな眺望を楽しむことができるのだ。
また従来車両に比べてエアコンディショナーのパワーアップを図り、優れた冷暖房能力を発揮した。
さらに付随車の導入が可能となり、車両の軽量化と相俟って、1000形車に対し10%の輸送力がアップしているという特徴も有している。
「ないがしろもなにも、課長代理補佐。時間とコストを考えるのならば、京急以外に考えられないでしょうが」
京急の羽田空港駅は1998年11月に開業して以来、都心や横浜方面からの新しいアクセスとして開通された。
京浜急行は品川から羽田空港まで快特でおよそ14分。品川−羽田空港直通運転は日中10分間隔で、快特と急行を交互に運転している。
都営浅草線、京成線ともに直通運転しており、品川、新橋、東銀座、日本橋方面には最適だ。
また横浜方面からの直通の電車も乗り入れており、特定利用者に愛用されている。
車両は平成10年2月より登場した2100系。
2000形の後継車としてさらに居住性、乗り心地を向上させた車両だ。
室内は2扉オールクロスシートで扉間は転換式シート。出入口扉上部に車内案内表示器を採用し、連結間にも外ホロを設置しホームからの転落防止など安全面にも配慮している。
主電動機は交流モーターを使用したVVVF制御方式で省エネルギー、省メンテナンスを図った。
VVVFインバータ装置、主電動機、空気圧縮機やクロスシートなどに海外製品を採用し車両性能の向上および居住性の向上を図りつつ、コストの低減をも実現したエコロジカルな設計である。
「はん! 派手派手な赤い車両なんぞ、乗っただけで目が痛くなりそうだ」
課長代理補佐は舌を鳴らして反論する。
「け、京急たんをバカにするなっ!東京モノレールこそ、あんな凹凸の少ない箱みたいな車両、乗る気にもなりませんね」
「貴様っ、モノちゃんのつるぺたを理解できんのかっ?!」
「課長代理補佐ぁぁぁ!」
「係長ぉぉぉ!」
一触即発。2人の中年は睨み合う。
やがて2人の視線は、同時に田中に向いた。
「「さぁ、どっちに乗るつもりだ?」」
迫る2人に田中はややたじろぎながらも、こう答える。
「カノジョに車で送ってもらいますから」
実はバスもそれなりに充実していたりする。
たとえば新宿だったならば、羽田空港線が走っており、およそ50分で羽田空港へ行くことができる。
ただ交通渋滞だけは予想し得ないので、時間に余裕を持って乗るべきであろう。
「そうか…」
「カノジョに、か」
課長代理補佐と係長はお互い慈しみ合うように、肩を叩き合いながら去っていく。
その背中は寂しさに翳っていたのは言うまでもない。
おわり
これはdaic氏の同人CD『Flat Stream #6』に寄稿した物です。
製品には氏の萌えイラストも同封されております。