鳥の詩
晴れた日。
青一色の空の下、背の低い草の覆う河川敷。
川岸では3人の子供達が小石を積み重ねて遊んでいる。
それを見下ろせる土手に、2人の男と1人の女がいた。
3人とも中年近くの年齢であると見て取れる。
2人の男のうち、やや頭髪が気になる方の男が、空を見上げた。
つられて残る2人も見上げる。
晴れ渡った雲一つない、青一色のキャンパスだったそこにはしかし、一つの線が描かれようとしている。
白い一直線だ。
飛行機雲である。
「俺たちは」
初めに空を見上げた男が呟いた。
「結局、どこまであのヒコーキ雲に近づけたんだろうな」
「そうだなぁ」
隣の男がその言葉の後を継ぐ。
「君は正直に走り続けたんだよな、オリンピックマラソンの金メダルじゃ、まだ届かないのか?」
問われ、彼は首を横に振った。
「そういうお前はエースパイロットになった。どうだ、あの頃の俺たちが目指したところに届いたのか?」
質問をそのまま返され、男は苦笑。
「あ、ヒコーキ雲だっ!」
そんな声は川岸から。
3人の子供達が届くはずがない飛行機雲に向かって駆け出していた。
東から西へと伸びる、まっすぐな雲はすでに、その根元は風に散らされて薄くなっていた。
けれど未だ西の空の高い位置にある先端は、空を分断するかのようにとがった姿を生み出し続けている。
「走ると転ぶわよ」
残る一人の女性が彼らに声をかける。
それが拍子だったかのように、3人の子供達のうち1人が転んだ。
2人の少年と1人の少女。
転んだのは少女だ。
「あらら」
それを土手から見下ろす、苦笑いの男2人。
だが母親である女は心配した風もなく、ただ黙って見つめている。
少女は泣くこともなく、少年達は彼女を起き上がらせて再び走り出した。
「ほぅ」
「なるほど」
2人の男達は感嘆の息を漏らす。そして女に振り返った。
「昔の俺たちとは違うな」
「君はよく泣いていたっけ」
そんな男達の視線と言葉に、女は小さく笑いこう応えた。
「これが私の近づき方よ。きっとあの子達は、私たちよりもずっと近づけるはず」
再び3人は空を見上げる。
視界に入るは西へと伸びる飛行機雲。
しかし3人が見ているのは、子供たちが見ている飛行機雲とは違う。
彼らの目に映るのは、すでに消えてしまった飛行機雲。
幼い日に見た、きっと走れば追いつけると思っていた、夕焼けの彼方へと消え行くヒコーキ雲だった―――
おわり