戦場にて



 とある戦場記者が、内戦状態にある小国の傭兵団を取材した。
 取材テーマは『何故貴方がたは戦うのか?』。
 まだ若い記者は、中年の冴えない傭兵にマイクを傾けた。
 「何故って? 何でだろうな、いつの間にかこの職になっていたっていうか……平和? そうだな、来りゃいいもんだな」
 面倒くさそうに、それでいてぼーっとしたふうに答える傭兵。
 記者は次に戦車の上で煙草をふかす白人傭兵に問うた。
 「正義のためさ。俺は俺の正義を信じている。世の中を平和にしたいって、お前もそう思うだろう?」
 大きなあごを撫でながら、彼は自信たっぷりにそう言った。
 記者はそれには答えず、次の傭兵に。
 「金になるからさ。普通に働いてたんじゃ、こんなに稼げねぇよ」
 明確な答えに満足しながら、今度はナイフを研ぐ切れ目の男に問う。
 「恨みさ。俺の一族はこの戦争で死んじまった。だからやりかえすのさ」
 これもまた記者としては分かりやすく良い答えだった。
 意気揚々と彼は次の傭兵に問う。
 「くだらない質問だな。楽しいからさ、人を殺すのは。俺の銃弾で人が死ぬんだぜ、こんな快感はねぇよ」
 傭兵の目に狂気を感じつつ、記者は息を呑みながら次の傭兵の許に。
 「ここが、そう、ここが俺の居場所だからさ。俺の力を求める仲間達がいる、だから俺はここにいるのさ」
 歴戦の勇者といった感じの男は、この傭兵団の中隊長だった。
 彼の隣で武器の手入れをするターバンを巻いた男もまた質問に答えてくれた。
 「神が望んでいるのだ。異教徒をこの地から駆逐せよと」
 さも当然と言った風に彼は言う。
 記者にはその気持ちは良く分からなかった。次に彼は自分の住む国の人間を見つけて問う。
 「充実感、じゃないかな。死を身近に感じることで、俺は生きているんだって実感するんだ」
 戦争のない記者の国から来た戦士の言葉に、なんとなく分かったような分からないような感想を持つ。
 最後に記者は、まだ若い少年兵にマイクを向けた。
 「質問の意味が、分からない」
 少年兵は素直に首を傾げる。
 「俺は銃で人を殺す。ナイフで人を殺す。地雷で人を殺す。それは日常だ」
 人を殺すことが日常とは、穏やかではない。
 まだ若い少年がこんな暮らしをしていて良いのか?
 「そうだな、俺たちは殺したり殺されたりする。俺も今日か明日か、いつかは分からないけれどきっとさっき殺した敵と同じように、この大地でくたばるんだろう」
 特に感情をこめることなく、淡々と少年は記者に答える。
 「これが俺達の世界だ。別になんとも思わないんだけれど……アンタの世界は違うのかい?」
 少年の問いに、記者はいかに己の住む国は争いごとがないか、死ぬことなどないかを語った。
 「そうか、アンタの住んでいる世界は俺のこのい世界とは違うみたいだけれど」
 少年は乾いた笑みを浮かべて続ける。
 「しかし、ホントウに違うのか? 基本的には、ただ死ににくいってだけで俺の世界と同じじゃないのか?」
 記者は「違う」と答える。
 「違う、か。そう言えるアンタは幸せなんだろうな。きっと他の大部分は生きているのか死んでいるのか分からないまま生きてるんじゃないのか?」
 少年の言葉の意味が、若い記者には分からない。分からなかった。
 「結局のところ、俺はどの世界で生きようが同じだと思うんだけどな」
 一人、少年はそう結論付けて銃を取る。
 それが彼の日常だ。

おわり