俺のお宝



 まっすぐに伸びる石造りの通路。
 目の前には王党派の騎士達が行く手を阻む。
 背後、追っ手は世界的な麻薬密売組織の放った殺し屋達。
 「まいったな」
 思わず呟いた言葉に、
 「ほぅ、侍たる貴様の口からそんな弱音が聞けるとはな」
 背中を合わせたそいつから、鼻で笑った返答が来た。
 「勘違いするなよ」
 俺はヤツに答える、この国で俺の背中を任せられるそいつに、だ。
 「後ろのヤツらはどうやら、お前に譲ってやらなきゃならないことが残念でならないんだよ」
 「言ってくれるわ」
 互いにそれぞれの前を見据え、顔を合わせることなく笑う。
 俺は手にした愛刀を握り直し、
 「いくぜ、救国の騎士さんよ!」
 「あぁ、お節介な侍よ。終わったらゆっくりと酒を酌み交わそう!」
 そして前と後ろ、互いに正反対の方向へと刃を振るいながら駆け出したのだ―――


 ―――春の訪れを告げる風がこの丘に吹き抜ける。
 「行くのか、侍よ」
 「ここにはすでに、俺の仕事はなさそうだからな、救国の騎士よ」
 すっかり旅支度を整え、答える俺にヤツは腰に下げた剣を差し出してきた。
 「持っていけ」
 「何のつもりだ? お前の魂なのだろう??」
 「貴様にこの魂を預けると言っているのだ。この国を救った貴様にな」
 ヤツの目を見つめ、俺はそれを受け取る。
 代わりに。
 「これを使え」
 俺は愛刀を手渡した。
 「俺の魂もまた、お前と共にあることとしよう」
 「貴様…」
 「あばよ」
 そうして俺はこの国を去ったのだった―――


 「有名人のお宝紹介?」
 「そう、冒険家の貴方なら、色んなもの持ってるでしょ? その中でも一番大切なものを出してよ」
 マネージャーの言葉に、俺は「ふむ」と悩む。
 「一番大切なもの、あるでしょう?」
 「ああ、まぁな」
 「大手TV局からの依頼なの。しっかりしたものを出してよね」
 「しっかりしたものか」
 「鑑定金額も提示されるんだから、会社の面汚しにもならないものね」
 「はぁ」
 生返事。
 とりあえず景徳鎮の大皿でも持っていくとしようか。
 いらないと言うのに無理矢理押し付けられたものだが、本物なのだから恥にはならないだろう、うん。
 え? 一番大切なものを持っていかないのかって??
 あのな、大切なものは、おいそれと人目に出すものじゃないし、鑑定金額なんてのも出すもんじゃないんだよ。
 そもそも、金に換わるものかってんだ。
 間違ってるかぃ?

お宝に価値は付けられぬ