それいけ発掘団!



 俺の手には千円札一枚。
 これが俺の全財産。
 残るは俺のこの体と、借金100万だけだ。
 それも借金の返済日はとうに過ぎ、今は追われる身である。
 なにか、そう、なにか。
 「簡単に金が儲かること、ないかなぁ」
 町外れの崩れかけのお社の前。
 その木造の階段に腰掛けた俺は、この世に生を受けて何万回目になるか分からないセリフを呟いた。
 「高飛びするにも、手持ちがこれだけじゃな」
 しみじみ見つめる右手の千円。
 その時だ!
 風が、吹いた。
 「あ……」
 俺の手の中から大事な大事な紙切れが離れ、そして宙を舞う。
 追いかける俺。
 舞う紙幣。
 手を伸ばす俺。
 賽銭箱へダイブする紙幣。
 社に似合わず、頑丈なそれにパンチを繰り出す俺。
 硬い音。
 「ぬぁぁぁぁ!」
 赤く腫れた手を抱え込む俺。
 無常にも俺の全財産は、見知らぬ神に奪われたのである!
 「返せ、返せぇぇぇ!!」
 賽銭箱に蹴りを入れる俺。しかしやたらと頑丈な箱はびくともしないし、中の金の音すらしない。
 こうなったら。
 「火をつけるしか」
 懐から取り出したるライターを右手に、俺は思わず笑みを浮かべた。
 「ちょ〜〜っと待ったぁぁ!!」
 声は頭上から。
 びくっと俺は見上げるとそこには、裃を着込んだ中年の冴えないおじさんの姿。
 しかしそれは半透明で、宙に浮いていて……
 「幽霊?!」
 「違う、神だ。ここの神だっ!」
 神? 神だと? ならば、ならばっ!
 「神なら助けてくれ、俺の、俺の全財産を返してくれ!!」
 「無理だ。ワシへの賽銭だ。それは出来ない」
 なんてケチな神だ。ならば実力行使しか……
 「分かってくれ、ワシも浄銭が久しくなく、ツライのだ」
 「知るか、俺はこれがないと死ぬ」
 「……では、こうしようではないか」
 神が提案したのは、一枚の古地図であった。
 おそらく数百年はたっていると思われる地図。
 それはこの社に代々保管されている宝の在り処を示した地図なのだそうだ。
 かつてこの辺りを治めていた大名の描いたそれは、長い年月を経てここに人の目にさらされることとなった。
 「しかしこれをわずか千円で、というわけには行かぬ」
 神は言う。
 「3割、いや2割をこの社へ寄進してくれ」
 「……分かった」
 大名の残した財宝か。これは期待できそうだ。
 地図を見れば、どうやらこの辺りらしい。
 掘り出すにしても機材が必要になりそうだが……。
 「見つけたぞ!」
 「!?」
 鋭い声は背後から。
 それは俺を追いかけてくる借金取りだ。アイ○ルの敏腕取り立て人である。
 「ヤバ…」
 「逃がすかっ!」
 ヤツは猛烈な勢いで俺の下半身にタックル,2人してもんどりうって倒れた。
 「しっかし耳そろえて返してもらうぞ!」
 「分かった、分かったから聞いてくれ」
 俺は彼の後ろで心配そうに眺めてくる神とともに、古地図を説明。
 そして借金返済+αを条件に……
 「よし、掘り出そうぢゃないか」
 ここに財宝発掘隊が結成されたのである―――

 
 ―――地下30mのところにそれはあった。
 古びた金属の箱。
 ここに至るまでに、発掘隊は大規模なものになっていた。
 土地の持ち主の強欲じじい。
 重機提供の競馬好き社長。
 似非学者に、土地神を名乗るモノなどなど。
 俺達は一致団結してここまで来た。
 ようやく辿りついたのだ。
 「開けるぞ」
 俺の言葉に、皆頷いた。
 重い金属の蓋を開けたそこには……そこには。
 一枚の古文書。
 「??」
 似非学者がそれを読み上げる。
 内容はこうだ。
 『よくぞこれを探し出した。この時点で君には宝がその手にあるはずだ。『仲間』という、大切な宝がな』
 顔も知らぬ大名の、キザな顔が夕焼け空に浮かんでいたような気がする。
 そこかしこで殴り合いの喧嘩が始まる中で、俺はとりあえず地図を持っていた神にすでに殴りかかっていたのだった。
 なお、この模様を記録したVTRが高く評価され、俺の借金ちょうどが消えるくらい儲かったので良しとする。

結果オーライッ!