ネタに乾き溺れる



 天井を見上げる。
 いつもの天井だ。特に目立って、変わったものが見えるわけでもない。
 窓の外を眺める。
 いつもの風景だ。こちらも特に目立って、変わったものが見えるはずもない。
 一人部屋の中、耳に聞こえてくるのは電源を入れっぱなしにしたラジオの音だ。
 何かの音楽番組なのか、どこかで聞いたことのある曲調が聞こえてくる。
 「うーん」
 彼は一人、パソコンのモニターの前で唸っている。
 モニターに開かれているのはテキストエディター。
 しかし特に何か書かれているわけでもない。
 「うーん、何も沸かないなぁ。ん?」
 彼は一人愚痴るがふと、耳に飛び込んできたフレーズに、何か心の中のもやもやしたものが形作られるのを感じる。
 聞こえてきたフレーズは「必殺仕事人」のアレだ。なんとも変わった曲を流す番組ではある。
 不意に彼の両手が動いた。
 キーボードを一心に叩き始める。



タイトル:Plastic Muders
ジャンル:ハードボイルド/アサシンアクション?
 
Act.1
 殺害される刑事。
 その数時間後に血の涙を流す同僚刑事――キューゴ=イシハラ
 2010年の新聞紙が血に赤く染まっていた。
 
 事務所ビル前に佇む黒い皮製ロングコートの女――サオリ=シンジョウ
 小脇に抱えた2010年の新聞を手にしたまま入る。
 警備員に呼びとめられるが、新聞に隠した短銃にて殺害。
 
 侵入者ありとビルの主・組織のトップへ連絡が行く。
 しかし、そんなことより組織の金を持って逃げた女の捜索を続けろと一笑に付す。
 
 殺害を続けながらビルの中を真っ直ぐ進む女。
 回想――
 携帯電話からかかってくる女の声。
 その組織を潰せと。そしてその金額は…
 
 侵入者の予想以上の進攻に、トップは雇っている殺し屋を向わせる。
 エレベーターを下りたところで頬に一筋の傷を受ける殺し屋の女。
 前に佇むのは不精髭の青年。神経質そうな雰囲気をまとう。
 「その白い肌に赤が良く似合いそうだ」
 
 ビルの中からの銃声に気付く刑事。
 警察本部に応援求める同僚。しかし彼は制止を聞かずに自ら単身乗り込む。
 
 ビルの中、交戦する男と女。用心棒と殺し屋。
 男の得物は極細ワイヤー。
 女の銃は効かない。通路に張り巡らされたワイヤーを用いる男の、素早い攻撃に対処しきれない。
 「相性が悪い上に、術式計算が間に合わないか」
 舌打ちしつつ、呟く女・サオリ。
 そして瞬時に女から男――エドに変化する。彼となった彼女が右手を振ると、白銀色の大剣が出現。
 殺し屋の青年の表情に変化。
 「まさか、な」
 
 刑事は唖然。
 ビルの中は生きている者はない。
 急ぎ足で歩を進める。
 
 男となった殺し屋は迫るワイヤーを両手で持った剣で叩き落す。
 剣を持ったまま両手を放すと、それぞれの手に長剣が。
 双剣で青年に向って駆ける暗殺者に、用心棒のワイヤー使いは叫ぶ。
 「貴様は……もしや!?」
 迫るワイヤー。
 殺し屋は右手の剣で全て叩き落し、左手の剣を投げつける。
 左手の人差し指を立てて振り上げると、剣は真っ直ぐに青年へ。
 ワイヤーで叩き落そうとする青年。
 男は五指を広げる、同時に剣は五本の短剣に分かれる。
 全てが青年に突き刺さるが致命傷にはならず。
 叫ぶ青年に暗殺者はワイヤーで浅い傷を受けながら懐に飛びんだ。
 そして右胸に残る一本を突き刺す。
 「散!」
 同時に破裂する男の胸。
 用心棒の青年は空ろな目で最期の言葉を呟く。
 「公認犯罪者……」
 
 ビルの中を行く刑事の携帯が鳴る。
 「退き返せ、上からのお達しだ」
 「そいつは『公認』の殺しだ!」
 「政府公認の犯罪者かよっ?!」
 喚く電話を無視してエレベーターに。
 
 トップの部屋へ進む男。
 「片付いたか? 貴様は?!」
 戻ってきたと思っていたワイヤー使いではないことを悟るトップは驚愕。
 瞬時に元の女に戻る暗殺者。
 驚きに震える目と声でトップは彼女の名を呟く。
 「プラスティック マーダーズか」
 「契約を履行する」
 有無言わさずにトップの額に穴が開く。
 机の上には追っていた女の写真と盗まれた金の額などが残る。
 懐から携帯電話を取り出す女。
 「終わったわ」
 「ご苦労様。さすがに早いわね」
 「組織の金を盗んだの?」
 「それが私の仕事。それともなぁに? 私の生き方に文句でもあるの?」
 「いいや。私は金さえ貰えればそれで良いのさ」
 電話を切り、女は背を向けて通路を戻る
 そして刑事と出会う。
 「礼を、言う」
 頭を下げる刑事。
 「ご勝手に」
 詰めかけるパトカーを背に、夜の街に消え行く女。
 フェイド・アウト。
 
 
Act.2
 「ワシは命を狙われておる。あの政府公認の犯罪者にじゃ」
 「お任せ下さい、ご老公。如何なるモノであれ、私が倒してご覧に入れましょう」
 車椅子に座る和服姿の老人に、スーツ姿の女が答える。
 年の頃は20代半ば。彼女は自信をもってこう答える。
 「私、連想奏曲者が」
 
 小さな町工場。
 刑事は荒らされたばかりのその場所を見て、頭を掻く。
 足下に落ちている写真立てには中年の男と女、そして少女の姿。
 楽しそうな三人の姿だ。
 「ちっ、どうしてこの世はこんなにも腐っちまってるんだ」
 血痕がそこかしこに残る工場跡を睨みながら呟く。
 遠くから近づきつつあるサイレンの音。
 
 豪華な日本風の邸宅に喧騒が満ちる。
 組織の長の館に押し入るのは双剣の男。
 放つ短剣は静かに命の火を一つづつ消し去る。
 障子を切り開ける男。
 上から降ってくる影に蹴りを受けるが剣の腹で受けとめた。
 それはスーツの女。間髪入れずにショートレンジでの攻撃、すなわち格闘術。
 男は器用に捌き、腹に拳の一撃。
 上体を倒した女の後ろに同じ女がっ!?
 「双子?(ツイン)」
 不意を突いた蹴りを胸に受けつつ、飛び退いたその後ろには
 「いいえ、三つ子(トリプル)よ」
 踵落としを受ける男。たまらず伏せそうになるが持ちこたえた。
 「あら、良い男じゃない」
 「気を抜くんじゃないわよ!」
 隙のない3つ子の包囲がじりじりと詰まって行く。
 男は舌打ち、剣を消す。
 「??」
 「まったく、足癖の悪い子達だこと」
 髪が伸び、女性化。
 
 等しく与えてやろう、死を。
 
 「先を急ぐの。じっくり遊んであげたいところだけど、ね。術式計算開始―――」
 秘術発動。
 それは耳元で囁きかけられる安息の言葉。すぐそばにある死の誘い。
 音もなく倒れ伏す三人に目もくれずに女は先へと進む。
 
 刑事は病院の一室に。
 そこには青い顔をした写真の少女の姿が。
 「すまない、俺の動きが遅かったばかりに」
 首を横に振る少女。
 「仕方ありません、借金をしていたのは事実なんですから」
 「しかし」
 「大丈夫です。カタキはちゃんと頼みましたもの」
 「?」
 「私を拾い上げてくれたあの人に」
 
 女は車椅子の老人と対峙する。
 老人は銃を構えていた。
 「誰に頼まれた?」
 「分からないの?」
 「恨みを買う商売だからのぅ」
 「なら、教えて上げるわ。貴方の大事な一人息子からよ」
 「なっ?!」
 老人は驚愕。
 そしてうなだれ、その後に大笑い。
 「滑稽だ。ワシは結局、何も信じるものを持てなかった」
 「そんなこと、知らないわ」
 老人は自ら銃をこめかみに当て、引き金を引いた。
 
 とあるビルの一室。
 金の詰まったアタッシュケースを受け取る女。
 その手を青年が優しく包む。
 「契約は履行されたわ」
 「どうだ? 俺と組まないか?」
 「無理ね」
 「何故だい?」
 「貴方は死ぬからよ」
 ざわめく一室。
 「なんだと?」
 女の銃が青年の額に。
 部下は動けない。術式計算が完成されていた。
 「一体……誰の差し金だ? そうか、ジジィが、ジジィが死に際に依頼しやがったな」
 首を横に振る。
 「じゃ、誰だ?! 分かった、倍出そう!」
 「私は一度受けた依頼は必ず履行する」
 銃声が響いた。
 
 事務所前にパトカーが一台。
 刑事が顔を出す。
 「参考までに聞くが、幾らで依頼されたんだ」
 「同じ額で駅まで送ってくれるかしら?」
 懐から取り出したのは10$紙幣。
 「ああ、ちょっと足りないがな」
 微笑む刑事。
 パトカーは街の中へと消えて行く。
 
 
Act.3
 研究所。
 2002年の新聞の上に乗ったコーヒーカップが強く叩いた老人の衝撃で揺れた。
 「冒涜だ、神の怒りを買うぞ!」
 「最先端にいるアンタが今時、神なんぞ信じてるのかい?」
 白い髭を蓄えた老人にニタリと微笑む中年の白衣の男。
 「僕の最高傑作だ」
 彼の仰ぐ目の前には、培養液に浸かる若い女の姿があった。
 
 都心で豪奢なマンションの一室。
 ダブルベットに2人の女が眠っていた。
 一人は長い黒神の女。
 そして一人は金色の髪の女だ。
 黒い方はカーテンの隙間から漏れる日の光に目を細めて起き上がる。
 そして隣の娘を見つめ、
 「おはようございます、お姉様」
 「誰だ、お前は」
 「酷い、忘れちゃったんですか?!」
 フタバは行き釣りの女を覚えない。
 
 長女――イチノ=オクスターは冷静且つ計算高い。
 次女――フタバはこの通り、色気というか女らしい。
 三女――ミツキは真面目だが、ややドジな面も。
 3人はアエロー(疾風)、オキュペテ(速く飛ぶ者)、ケライノ(黒い雲) の渾名がある。
 特殊能力を持つ合成人間達だ。
 
 培養漕が中から弾けて割れ飛ぶ。
 這い出す女。
 彼女はずっと思っていた。
 
 私は何故生まれてきたのだろう?
 この世の中はこんなにも辛く、息をするのも苦しいくらいなのに。
 私は苦しむ為に生まれてきたのだろうか?
 
 私は何故生きているのだろう?
 ただ苦しみしかないのならば、生き絶えてしまえば良いのに。
 私は絶望を噛み締める為に、生き続けているのだろうか?
 
 苦しみ惑うこの命の意義は唯一つ。
 生まれいづる前から組みこまれた使命は唯一つ。
 もし私が神にこの命を絶てと命じられたならば、
 私は神の喉笛を噛み切る事だろう。
 私は、私を生かし続ける為に生き続けている。
 
 生きることが私の意義。
 それこそ生命たるモノの定義。
 だから私は、苦しみの中に生き続ける。
 何があろうと、ただただ生き続ける。
 私はこの大地に立つ、命あるモノなのだから。
 
 「燼殺しろっ!」
 白衣の男の指示に、アエロー、オキュペテ、ケライノの3人の能力者が一気に距離をつめる。
 しかしすでに術式計算が完成されていた。
 「ぜ、全滅、だと……」
 吐き出すように呟く彼はそして息絶えた。
 立っているのはただ一人。
 培養層の中にいた、生きる為に行き続ける女だけだ。
 「私はこうして、政府公認の犯罪者となった」
 
 
Act.4
 「僕がお前を倒して政府公認の犯罪者になってやる」
 同じ研究所で生まれていた能力者の彼は、彼女にそう叫んだ。
 
 「エドさん、それってどういうことですか?」
 彼は問うた隣人に得意げにこう答える。
 「絵に魂を込めるってことがある、それのデジカメ版さ」
 「?」
 「そして写真に撮られて加工されると、その通りになる」
 隣人の写った写真を破る。
 同様に、その隣人も破れるようにして裂けれて死んだ。
 
 「写らなければ良い」
 そして彼は死を囁かれた。
 
 
Act.5
 「うわぁぁぁ!!!」
 影は何度も、何度もナイフを突きたてる。
 すでに肉塊と化した『それ』に何度も何度も。
 
 現れたのは目つきの悪い若い男だ。
 「あ……こんにちわ」
 「こんにちわ」
 行儀は良いようだ。
 
 能力者「knock'in the door」
 相手が「はい」と答えた場合のみ、扉が開かれる。
 開かれた場合、その日はこの能力は使えなくなる。
 日を跨げば、能力は復活する。
 
 「さがせ! ぶち殺すんだ!!」
 893が叫ぶ。
 
 能力者「Time passed 3 minutes」
 3分後の未来を見ることが出来る。
 代償として3分後に、能力者は3分間の昏睡状態に陥る。
 
 「あら、こんにちわ」
 「ああ」
 「おでかけですか?」
 「ああ」
 孤児院を経営する若い女性。
 「あ、エド」
 「……」
 「待ってください」
 「何か用か?」
 「お願いです、彼を、彼を助けてください」
 
 「まだなのか?」
 「担当が死にましたので」
 「ではコイツに任せるとしよう」
 
 能力者「Soul Taker」
 残留思念を死者の魂と認識して自らの経験とすることができる。
 代償として、死者の無念を叶えなければならない。
 
 「死ねっ!」
 「?! 貴様?!」
 倒れる男。そして現れる男。
 「……」
 「ぐっ」
 「やはり身内か」
 
 「そこまで、だ」
 「アンタは」
 「なんで、貴様は」
 「依頼があってな、ソイツを守るように」
 
 「ぐふっ」
 「俺も殺すか?」
 「俺は大切なヤツラを守るために殺す。そしてこれからも殺し続けるだろう」
 「ああ、それは生きるために正しい事だ」
 「アンタ……」
 
 「アニキ!」
 「俺はお前の血縁者ではない」
 
 狂気は伝染する。
 聞いてくれよ / 唄ってやろう、狂喜の歌を!!
 
 「ああ、腐っていたのは俺自身か」
 夜空を見上げ、呟く。
 広がりしは透き通った星空。
 一点の曇りなき、瞬く星々。
 純粋に透き通った、大自然の姿だ。
 「この世は、かくも美しいものなの、か」
 一人生き残った彼・エドは生きる為以外にも生きる理由を探し始める。


 「ふむ、しかしどことなくありがちだな。というか、Act5が勢い過ぎて訳分からん。シティハンターかよ、ボツ」
 さくっと全てが消える。
 マウスのその動きのまま、彼はブラウザを立ち上げた。
 『人気ネット作家、脱税で逮捕』
 そんな記事が出てくる。なんとなく記事に目を這わせると「まおゆう」とかそんなフレーズが飛び込んできた。
 「あー、そんなアニメもあったよなぁ。魔王か、魔王、マオウ、まおう?」
 そこで視線が止まる。
 そして一転、再び彼の両手がキーボードの上を高速に跳ねていった。


 
タイトル:魔王復活
ジャンル:異世界
 
 復活した魔王。
 廃墟にて目覚める。周囲は荒野だ。
 右腕である妃の悪女を召喚するも、応じず。
 それだけでなく配下である悪魔も使い魔すら応じない。
 憤りながらも恐怖を世界に振りまく為、近くに気配を感じた集落へ。
 
 そこは朽ちた村。
 物陰から複数の視線を感じる。
 「ふぉ?!」
 彼は、魔王たる彼はなんと落とし穴に落ちた!?
 襲い来るは年端も行かない子供達。
 それも魔族であり、己の眷属。
 削った木の棒やレンガで殴打されるも、魔王は巨大で圧倒的な魔力を噴出しながら振り払う。
 しかし恐れない子供達。
 魔王は二の腕に痛みを感じる。
 噛まれた痕。
 「喰う、つもりか?」
 子供達の目には恐れはなく、獲物を狙う目。
 リーダー格の子供の首を掴みながら、魔王は見る。
 少年の視線の奥には絶望が広がっていることを。
 不意に背中を突かれる
 鉄の槍で魔王の背を突くのは少し年長の少女。
 だが年長とはいえ、どう見ても子供。しかしその腹が膨らんでいた。
 身ごもっている。
 少年を離す魔王。
 苦しみだす少女、
 それに少年達は魔王を無視して駆け寄る。
 「生まれる!?」
 魔王をよそ目に騒ぎ出す子供達。
 月が出る頃、生まれる子供。
 純粋な魔族ではない。半分人間。
 子供に問う魔王。
 彼らは無表情に告げる。今の世界を、この魔界の現状を。
 「人間達にこの村は大人の男は殺され、女は連れて行かれ、子供は遊びで殺された。少女は戯れに犯された」と。
 「魔王なんてどうでも良い。遅すぎる、なにが王だ。お前なんか怖くない、この世界は恐れる暇もなく絶望に満たされている」
 狂っている。
 誰がこんな世界にした? これはここだけなのか??
 魔王は苦悩する。
 
 魔王は村の外に。
 大ミミズを見つけ、容易く狩る。
 回顧する。
 封印される以前、子供だった時分。
 「大ミミズなんてまずいもの、余に食わす気か!」
 卓をひっくり返したあの頃。
 あの頃、自分を取り巻いていた者達はどうしただろう?
 回顧は一つの破裂音で遮断される。
 「俺等の獲物を何勝手に狩ってくれちゃってるの?」
 馬に乗った2人の男達。人間だ。
 その後ろには魔族の下っ端であるコボルト達もいる。
 「獲物を横取りされちゃ適わんな」
 「死刑で決定でしょ」
 男達は筒を魔王に向ける。連続する破裂音。
 銃。
 「む」
 右肩と左足に被弾する魔王 苦痛に顔が歪む。
 「お前達!」
 コボルトに命令。
 「そこの人間どもを八つ裂きにしろ!」
 無表情のコボルトたち。
 「魔王の命令だぞ!」
 「「何言ってんだ、このおっさん」」
 人間達は続けて銃を連射。傷口を増やす魔王。
 人間ではなく、命令を聞かないコボルトを睨む魔王。
 それにコボルトリーダーが一言。
 「アンタが俺達に何をしてくれるんだ?」
 激怒する魔王。
 傷口が完全回復、さすがに威風に怖気づく人間達。
 「なんだ、コイツ」
 「お前ら、いけ!」
 コボルト達が魔王に襲い掛かる。
 噛まれ、動きを押さえつけられる魔王。
 振りほどく力は十分にあるが、使い魔風情に襲われたことに驚愕。
 「よし、そのままだ!」
 人間の一人がガトリング砲を向ける。
 コボルトごと射撃される。
 肉を根こそぎ持っていかれ、さすがにやばい状況の魔王。
 驚きは一緒に撃たれているのに噛んだ口を離さないコボルトたちに向けられる。
 「ふざけるな!」
 シールド展開。銃弾の雨が止む。
 恐れおののく人間2人。
 血だらけ&コボルトに噛まれたまま近づいてくる魔王に恐れをなして逃げ出す。
 が、背後から魔王の不可視の一撃で首を跳ね飛ばされる。
 息絶えるコボルトたち。
 その死の直前、コボルトリーダーは魔王を見上げて言う。
 「失うものがないから、恐れなんてない。むしろ死ねて嬉しい。今は生きているだけで拷問な世の中だ」
 「昔は良かったなぁ。あの恐怖の時代が懐かしい」
 一人叫ぶ魔王が残される。
 行き場のない怒りと、全てに対する疑問と、向けられない恐怖に対して。
 
 叫びのオーラは世界の中心で感知される。
 支配者は「放っておけ」と彼女に告げるが、
 「気になるか?」と問う。
 「過去の話ですわ」
 首輪をして鎖でつながれた女性はそっけない。
 「今はこの身の心も、貴方様のもの」
 「では何故泣いている?」
 「……」
 電撃が入る。倒れ伏す魔族の女性。
 「何が出来る、何が変わる。ほおっておけ」
 
 大ミミズの肉を一部持ち帰る魔王。
 喜ぶ子供達。
 人間達から奪った荷物を戦利品として、魔法は言う。
 「近くの町へ行く」
 「案内するぜ」
 リーダー格の子供。
 「この世界に慣れてないだろ。それに」
 子供は笑う。
 「アンタくらいの強さの奴らなんて、ごろごろしてるぜ」
 
 街に潜入。
 活気に驚く魔王。
 「すべて金で買える」
 「金?」
 「そう、金だ」
 魔族の子に目立たないようにたしなめられる魔王。
 そして一番活気のあるところへ足を運ぶ。
 そこは奴隷市場。
 そこでは奴隷となった魔族たちが売買されている。
 魔族だけでなく、堕ちた人間や、天使ですら。
 「天使??」
 怒りに暴れようとする魔王を抑える子供。
 そこに一人の魔族の少女が壇上に出る。
 「多少使い込まれておりますが、まだまだ若い魔族の女だ」
 セリが始まる。
 「どうした?」
 「姉ちゃん」
 「なに?」
 震える拳。
 抑えるものが収まらない。
 壇上に駆け出す少年、怒号の市場。
 そこに爆発。
 魔王だ。
 警備の兵士を次々と倒し、魔法で開錠。
 銃で撃たれ続けるが、放たれた食人鬼や魔獣がバーサーク。
 人買商人たちを次々と殺しつつ、街は市場を中心に喧騒に満たされる。
 放たれる治安部隊。
 逃げ出す魔王。
 彼はスラム街に潜伏。地下の下水に逃げ込む。
 そこにはみすぼらしい生活を送る魔族たち。
 魔王を見て、改めて魔王と認識。
 「私を魔王と認めるのか?」
 小さな微笑だけの魔族の老人。
 「ワシらはもはや何も求めぬ。しかしワシはかつての恩で匿おう」
 「当時、逃がしてくれた恩でな」
 「愉快痛快だ、匿おうじゃないか」
 しかしどの魔族の目にも絶望が居座っている。
 気付けば少年と少女、何故か天使の少女と小さな妖精もついてきている。
 「今は魔界、天界共に人間達によって支配されている」
 「そんなに強いのか」
 首を横に振る老人。
 「これじゃよ」
 しわがれた枝のような手の中に、鈍い光の貨幣が一つ。
 金だ。地獄の沙汰も金次第でまかり通る。
 その束縛には神すらも逆らえない、一種の契約。
 「老人、恩とは」
 「お主の妃。あの人は金に支配されたこの世界で、ワシら魔族を生きながらえさせる為に全私財を投入した」
 「全私財? 城もか?」
 「自身の身体すらもじゃ」
 老人の告白に、怒りに震える魔王。
 「今、この世界は恐怖の先にある絶望に至っている」
 「恐怖を感じるには、希望がなくてはいけない」
 「余が希望となろう。貴様らに、世界中に恐怖を味あわせるために!」
 しかし人間は強い。
 銃を初め、魔力に頼らぬ技術がある。
 魔王も認める。ガトリング砲で死にかけた。
 「まずは金、か」
 
 フードをかぶった魔王。
 下町の酒場にて情報収集。
 そこに荒くれの天使の一団登場。
 魔王の酒をひっくり返す。
 「ああ、すまんすまん……って?!」
 リーダー各はかつての天使の特攻隊長。
 「魔王じゃないか、いつ復活したんだ?」
 「やるか?」
 「怖い顔するなよ、なるほど、奴隷市場を襲ったのはアンタか」
 「……」
 「感謝するぜ、すっきりした。酒をおごらせてくれ」
 「貴様はかつての天使だな!」
 「そうだ、懐かしいな。何度もアンタに挑んでは撃退されていた。あの頃に戻りたいよ」
 「天使長は?」
 「あの方は副長に「買われた」さ」
 「……」
 「この街にいるってコトはアンタも魔龍の討伐隊に参加するのか?」
 「??」
 「金銀財宝を溜め込んでいる太古からの大魔龍さ。なんども討伐隊が撃退されたが、魔力遮断結界を導入だ」
 「今回こそはオダブツだろうぜ」
 「乗らないか?」
 「面白そうだ」
 魔王は天使と手を組んだ。
 
 魔龍討伐参加。
 正規兵と傭兵数千人が1匹の魔龍を襲う。
 結界に徐々に劣勢となる魔龍。
 そこで魔王の合図で4つの結界装置が破壊される。
 魔王、天使、妖精、少年。
 力を取り戻す魔龍。
 正規兵を襲う魔王。
 天使の特攻隊長も参加。
 そして撃退。
 魔龍は魔王の前に降り立った。
 「お待ちしておりました。申し訳ございません。しかしもう魔龍族はワシ一人です」
 「まずは街を奪う。奪って、この世界を変える希望という名の絶望となろう」
 魔龍と魔王とで急襲。
 同時にスラム蜂起。
 街の領主を倒す。人間達の住民は久々の恐怖。
 恐怖の力を受け、魔力を蓄える魔王。
 魔龍の軍資金を元に魔王軍再編。
 魔王領の樹立を宣言。
 「この世界を恐怖で埋め尽くす為に、余はお前達に希望を与えよう。生きる希望を!」
 「恐怖する為に絶望を廃せ。その為にも我が力となれ!!」
 
 遠く天界の神の住まう座。
 「ほぅ、そんなことが」
 「不協和音の一つに過ぎない」
 「週一回の連載マンガのようなものだ。どう動くか楽しみだ」
 かつての勇者とその仲間達はニヤニヤとその後の展開を見つめていた。
 
 魔龍はナイススタイルな眼鏡美女に。軍師となる。
 天使愚連隊は将軍に。
 魔族の一般兵達が揃っていく。
 クセモノぞろいの人間傭兵。
 強欲な魔族商人。
 怪しい人間商人。
 謎の多い天使の少女とトラブルメーカーな妖精。
 笑顔を見せるようになった少年と、魔王を慕う少女。
 やがて戦いは都市対都市となる。
 

 「これは長編化しそうで期待が膨らみまくりんぐ?!」
 とか呟くと同時、一瞬でエディタをクリアにした。
 「いやいや、一般受けしないよなぁ。なんだよ、この暗い展開は。いっそジャンルを変えて現代物にしてみるか」



タイトル:オタぼく フジョわた
ジャンル:現代モノ
 
 オタクという称号などまだ得ていないと自認するピザな高校生。
 アニメ研に所属。部長は2年の暗い女の子・ユイ。
 この子は3姉妹で、長女のメイは生徒会長。
 ユイは次女で、主人公のクラスメイトで三女のルイがいる。
 ユイは貴腐人。主人公の最も尊敬する人。過去になんかあったらしい。
 同じく同級生でルックスの良い男子生徒とは長年の仲。
 彼もアニメ研だが、ルックスゆえに人気がある。
 彼狙いでクラスメイトのルイとの接点が出来始めるが……。
 ルックスの良い幼なじみの話が基本にあり、主人公はサブ的な割合。
 卑怯で小ずるい。でも最後に覚悟を決めて……でも手柄は幼なじみ、とか。
 一応、ルイは最後に彼を認めるが、やっぱりキモイというオチ。
 ユイは基本ノータッチ。というか自分の世界だけ守ってる。
 メイは実は幼なじみと付き合っているとかいうオチも良いか??
 ピザで根暗な主人公が、最後にはやっぱり根暗でニヤニヤするようなお話。
 でもユイに褒められて喜ぶ、とかそんな流れ。
 

 キーボード上の手が止まる。
 「一昔前なら書けたな。今、客観的にこのオタク文化を書くのは自分自身が耐えられないなぁ」
 ため息。
 「それになんで主人公がこんなに邪悪なんだろう。むしろこの三姉妹を上手く使うのはどうか?」



タイトル:だーれだ?
ジャンル:現代モノ/グラフィックの使い回しができる絵師の作業が楽なエロゲー
 
 主人公は大学の新入生。
 そこでかつての幼馴染みである女の子に再会する。
 その子、いや、その子達とは家族ぐるみで付き合っていた。
 しかしある日のレジャー帰り、主人公を含めて事故に巻き込まれる。
 亡くなったのは彼女の両親と、姉妹。
 助かったのは主人公と、姉妹のうちの一人。
 姉妹は三姉妹だった。名をメイ・ユイ・ルイ。
 活発なメイ、思慮深いユイ、優しく気ままなルイ。
 事故後に生き残った一人と再会することなく、里子に出されてしまう。
 そんな生き残りの一人と大学で再会する主人公。
 だが生き残ったのが3人の内、誰なのか?
 
 ルートは3つ。
 三人攻略後に真のルートが出現。
 再会した彼女は事故後、3人の誰でもなかった。
 1つの体に3つの魂。
 そもそも1つの魂が3つに分れていた。
 元に戻った魂は自らをレイと呼んでいた。
 主人公と再会したことから、かつての分かたれた魂に戻ることを望む気持ちも持つレイ。
 主人公はかつての3人の誰かを求めるのか?
 それとも、事故を乗り越えた上で成り立つレイを認めるのか?
 
 ポイントとしては、3つのルートを見た後にレイの存在を知ること得る裏事情。
 「あのシーンの裏ではこんなことが?」「演技かよ」等。
 ぬるい→ホラーなテイスト感を出したい。


 外を見ると、晴れ渡った空に白い雲が漂っているのが見えた。
 「いやいや、絵師いないだろ。てかゲームは作るのが疲れるんだよなぁ、ルートが多いし」
 窓を開ける。
 温い風が頬を撫でた。
 「やはり、ちょっと視点を変えてみようか。俯瞰的というか」



タイトル:神様ゲーム
ジャンル:SLGちっくな異世界モノ
 
 属性の異なる対立する2つの国。
 そこで和平を目指す者たち。
 しかしそれぞれの国を守護する2人の神々はそれを拒む。
 人となって和平を阻害する――もっとも和平に協力的だった者であり主人公に近い人物となって。
 果たして神の手をかいくぐって和平に持ち込めるだろうか?
 
 交渉の他に両国間のパワーユニットとしては魔法少女系を用いたい。
 撲殺系、暗殺系(スナイパー)系、等。
 撲殺系だと杖の代わりにトールハンマー(デバイス)とか。
 
 
 「ぬぅ、ガイシュツだわ、ガイシュツ!(既出と言いたい模様)。なんでどこかで見たテイストになるんだろう」
 意味もなく机上のライトをオンオフしながら、彼は頭を抱える。
 「むしろベタな展開を狙おうか」


 
タイトル:キツネの嫁入り
ジャンル:ケモミミ
 
 引っ込み思案な一つ年下の幼なじみと付かず離れず、まったりとすごす主人公の青年。
 そこに、無理矢理結婚させられそうなところを逃げてきたキツネの娘(獣)がやってくる。
 怪我をしているところを主人公に拾われる。
 傷を癒す中、キツネは過去の出会いを青年に思い出す。
 青年は幼い頃に誘拐された経験がある。
 そして犯人の下から逃げ出して、山で行方不明になった。
 やがて降り始める雪。
 豪雪の中でキツネの親子に救われる。キツネの子の友達となる主人公。
 しかし春になり、人間の世界に戻す為に記憶を消されて解放された。
 その時の少年だったことを思い出すキツネの娘。
 驚きで人間の姿になってしまう。
 一方で消されたままの記憶の主人公。しかし目の前に現れたキツネの娘に一目惚れしてしまう。
 そこに現れる幼なじみ。生じる確執。
 そしてキツネの娘を取り戻しに来るキツネの婚約者。
 種族を超えた愛は存在できるのか?
 
 
 「ありきたりだなぁ、もっと捻りに捻って、一回転させたらどうだろう?」


 
タイトル:その子は男の娘
ジャンル:なんだこれ?
 
 転校してきたその日に交差点でぶつかった女の子に一目ぼれした剣道部の主人公の少年。
 仄かなライムの香りを残して消えた彼女とは、クラスで出会うが。
 男です。
 なんだかんだで連れションへ。
 「OH、キングオブキングス!!」
 おかげでメガネの委員長も、剣道部のお姉さんキャラも、スクープ好きなショートカットの女の子も霞んでしまう。
 女子服なのは昨日の夕立で制服が乾かなくて、姉に借りた。
 そんな理由だが彼には許される。
 「可愛いは正義なので」
 主人公の心の叫びはクラス男子に共感を呼び、そして女子に反感を買った。
 剣道部女子の先輩からの呼び出し。
 強すぎる。かわいがり3時間に粘る。
 手も足も出なかったが、最後に思わず突きを出してしまう。
 高校生では禁止だが、ちょっと認められる??
 その女子の先輩は、彼の恋した男の娘の姉だった。
 取られる面。
 現れた姉の素顔は、
 「ラオウ様?!」
 でもどこかで嗅いだライムの香り。
 
 
 「なんか、もう死んでしまえば良いのに」
 死んだ魚のような目をして彼は呟く。
 「もっと心が綺麗な、そう、初心に返ったらどうだろうか?」


 
タイトル:夏祭り
ジャンル:青春モノ
 
 神社の夏祭り。
 夏休み、花火ごっこ。
 しかし過去にぼや騒ぎ。
 神主は冬に亡くなった。
 夏休みの終わりの夏祭りはない。
 主人公は中学2年生、勉強ができない。
 幼い頃、夏祭りで迷子。ちょっと年上の女の子に手を引っ張ってもらう思い出。
 
 夜に友達と境内で花火。
 再度ぼやを出す。友達逃げる。
 突然の夕立、火の灯る神社。
 般若の面をかぶった神が出現。
 
 過去の約束を思い出す。
 過去にもぼやを起した主人公の少年。
 なんでも1つ、神主の言うことを訊くと約束した。
 約束は結局、神主が死んで果たせぬまま。
 そして神の願い。
 神の願いは、死に際の神主の願いと同じ。
 夏祭りの復活。
 しかししぶる主人公。
 交換条件に頭を良くしてもらう(後払い)で約束した。
 疎遠になりがちだった幼馴染みの少女の協力を得ながら次の行動を起す。
 
 ・神輿の準備と後援会へのお願い
 ・青年会へのお願いと人数集め
 ・疎遠気味の幼なじみと再接近
 ・ライバル校との抗争と助力
 
 手が足りないので助力を神社に請う少年。
 神がお面をとり、少女となって協力。
 自らを亡くなった神主の孫と呼べと言う。
 実際に本当なので、神ではないと気付いていないのは主人公のみ。
 
 ・市役所への申請
 ・的屋で地元暴力団(?)との話し合い
 ・神社連との交渉
 
 段取りが何とかつき、祭り開催にたどり着く。
 しかし開催翌日を迎え、台風接近。
 暴風雨の中、神社に走り、彼は叫ぶ。
 「ここまでやったんだ、天気くらい何とかしてくれ!」
 神社の中、般若の面が浮かび上がる。
 「やれやれ、最近の子供は口の利き方を知らぬ」
 天に投げつけられる矛。大雨の中に消えていく。
 途端、天上の一点を中心として一気に空が晴れ上がる。
 満点の星々が少年を照らす。
 「せいぜい明日は楽しませてくれよ」
 言い残して般若の面はカラリと落ちた。
 翌日、台風は温帯低気圧に完全に変わった。
 
 お祭開始!
 お神輿わっしょい。
 祝詞とか。
 一連が終わってほっと一息の主人公。
 幼なじみや同級生、神主の孫と一緒に夜店周り。
 そこで幼馴染みに片想いするライバル校男子にいちゃもんつけられる。
 殴り合い。
 色々トラブルから、神様を名乗る孫娘に手を引っ張られて抜け出す主人公。
 そして過去にぼやを起したことを改めて思い出し、一緒に消火してくれた彼女の名前を思い出す。
 話しかける前に視界が広がり、花火。
 名前を呟く。分かってた?
 何が?
 過去の記憶
 ああ、そっか。
 そう、彼女は神様じゃない。
 ごめんね。
 いいや、約束だし。その前に。
 え?
 ありがとう。過去に言えなかった言葉、そして。
 そして?
 改めて、よろしく。
 握手する少年と、ちょっと年上の少女。
 
 そして少年の願いを叶える。頭を良くして欲しいという願い。
 学期の明け、図書館でマンツーマン。
 ……と言うわけでもない。幼馴染みも参加。
 「いやいや、もっとこう、クイッとステータスアップみたいなのはできないの?」
 「私は神様じゃありません」
 
 「ところで天気を変えたのは何?」
 「なにそれ?」
 「それこそ神の成せる業、じゃないの?」
 そんな、夏休み最後の日。
 
 
 「ほぅ、何とか形になりそうだが」
 モニターを前に彼は目を細める。
 「こちらの心が腐ってるから、眩しすぎるわー!」
 叫んでファイルを消したのでした。


ま ぁ そ れ が 楽 し い の だ が ネ