学園の世界 エルハザード
再会の時

Written by 堂乱


 私の名はイフリータ。
 エルハザード、最強の鬼神だった。

 今はもう、そんな言葉に何の意味もないが…。
 誠が、私に新しいものをくれた。

 それは自由。

 それは思い出。


 それは本当の私…。



 一万年の眠り。
 殆どの力を消耗し、そして、私はつい先ほど誠を。私を知らない、しかし、私にとっては一万年もの間、想い焦がれた相手をエルハザードに送った。
 誠にとっては、最初の出会いであり……。
 私にとっては、最後の別れの時……。
 その時を終え、私は、全ての力を失おうとしていた。



 そして…私はもはや力を失おうとしている自分の体を、最後の力を振り絞って、その場を、一万年もの長い間、私の揺り籠だった場所を去るために、動き始めた。



 (ここが…高校……)
 私が、自分の揺り籠を出て、最初に見た物はコンクリートの階段。
 その階段を上った先に、誠の記憶で見た高校の廊下が伸びていた。
 (誠の記憶では…確か、向こうだったな……)
 誠がくれた、私の思い出の中にある廊下と同じ場所を、進んでいく。
 そして進んで行くと、思い出と同じ場所が私の視界に入る。
 一つのドア。
 私と、誠が共にいた教室へ入る為のドア。
 私は、そのドアを開けた。

 そこに広がっていた風景は、私の思い出には無い風景。
 無人の教室だった。
 私が、誠から貰った思い出には、常に教室には誰かがいた。
 時間を考えると、無人なのは仕方がない事なのだろう。
 しかし…まるで知らない場所のようだった。

 私は、一瞬の逡巡の後、教室内に入っていった。
 …昔は、逡巡なんて行動は、私に無縁の物だったが…。全ては、誠が、誠がくれた思い出が私を育てているのだな。
 そして、静かに歩みを進める私。
 私の足が止まった所は、思い出にある誠の机。
 思い出では、その隣が私の机だった。
(ふふ…。誠はいつも眠たそうにしていたな……)
 私は、誠の机に触れながら、思い出の中の誠を思い出していた。


 それから、私は様々な場所を歩き回った。

 玄関。
 遅刻寸前で走りこんで来た私達。

 体育館。
 入学式の日、退屈な校長の話を聞いていたな。

 屋上。
 誠と一緒になって見た町並み……。

 私は、最後にグラウンドのフェンスに寄りかかっていた。
 闇の色だった空。
 私が見ている方角から、徐々に、色をつけ始めている。
 朝。
 山陰から、徐々に朝日が顔を出す。
 私は、その風景を見ていた。

 私に残された時間は、後どれくらいだろう…?
 後、何日…いや、何時間……。
 もしかしたら、もう、一時間も無いのかもしれない。
 私は、その太陽から顔を背け、俯いた。




 イフリータは、その光景にただ見入っていた。
 見間違いかと思った。
 幻かと思った。



 波。
 光の波。
 光が作り出す、幻想的な光景。
 その中心に……『彼』がいた。
 白い服を着て。
 最後に見た時よりも成長していたが。
 間違いなく、イフリータが心からただ一人愛した者。
 『水原誠』がいた。



 イフリータは、不意に理解した。
 誠の、最後の言葉。
 『いつか、必ず迎えに行くから、それまで待ってて』
 もう、会える事は無いと思い込んでいたイフリータ。
 しかし、イフリータがその生涯、ただ一人愛した人は、約束を守って、再び自分の前に姿を現したのだという事を……。
 その人が、自分を迎えに来てくれたのだという事を……。


 いつしか、イフリータは走っていた。
 その、愛する人に向かって。
 今、イフリータが感じている事は、ただ一つ。
 喜び。
 再び、再開の時を得る事が出来た喜び。


 イフリータが、走りながら手を伸ばす。
 誠も、手を伸ばしてくる。
 そして、二人の手がしっかりと結ばれる。
 いつしか、伝説の鬼神の目には涙が浮かんでいた。
 喜びの涙。
 初めての涙だった。


 抱き合う、恋人たち。
 それを見ていたのは、朝日だけだった。
 まるで、その恋人たちを祝福するかのように……。



 ここで、エルハザードの一つの物語は幕を閉じる事となる…。
 しかし、二人の物語は、始まったばかりだった。


→ Next , Under Construction... 




あとがき

 おそらく、始めましての人が多いと思います。堂乱といいます。
 普段、ナデシコの二次創作を書いているのですが、さて、次のを書こうかという時に、気分転換にエルハを見て、あっさり陥落(笑)。
 面白いほどまっしぐらに、転がり落ちてしまいました。
 それから、ナデシコを書いても中々キーボードが進まない。
 思考はエルハの元に行くばかり。
 この状態でナデシコを書けといわれても書けないという事実が分かりました。
 それなら、自分の心の為にも、ナデシコの為にもエルハを書いて気分をすっきりさせようという考えに落ち着きました。
 と、言うわけでこれです。

 ところで、この話は一話完結のシリーズとする予定です。
 ですが、今回だけ、後に続く話です。
 やはり、OVA版エルハで、その後を書く以上、OVAの最後を書かないといけないでしょう。
 それが今回。
 次が本編(なのか?) です。

 実はこの話、エルハと銘打っていますが、実はエルハだけではありません。
 学園ものとして、登場させたい他のアニメ、ゲームのキャラクターが次々とでてくる予定です。
 筆頭は、Kanon、ONE、Airでしょう。
 勿論、エルハの人たちも出てくるでしょう。
 ちょっとした気分転換の時にでも読んでもらえたら…と思っています。

 それでは、ここまで読んでくださった皆様。
 次は、学園に行こう!です。

2000.09.21. エルハに気が行って、Airが出来ない。オールクリアの日はいつになるのだろうか…? と考える日々を送る堂乱。


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