暖かな日差しを受けた王宮のテラス,突き抜けるような青い空に、そこから見渡せるロシュタリアの城下町。天空に浮かぶ神の目は猛威を振るったあの時以来、以前と変わらず風景に溶け込んでいる。
そこで一人の美少女が優しい気な瞳でその景色を眺めながら、ハーブティが注がれたカップを傾けていた。それはまるで絵画のような風景…。
「ピカソ…ですか?」カッ,足音が響き、彼女に声を掛ける。
「は? ぴかそとな?」芯のある声で、彼女はその方向へゆっくりを視線を移す。
「いえ,何でもありませぬ。ルーン陛下がお探しになっておりました」
「姉上が…そうか、御苦労だったな,ロンズ」カップをテラスの手摺に置き、侍従長の脇を通り過ぎるファトラ。擦れ違いざまに、彼女はロンズに呟くように言い残した。
「今夜、丑の刻,中庭で待っておるぞ」
「…はっ」 瞬間、二人の間に空間が軋むような戦慄が走った。
大切なモノは、何ですか?
題名は「悠久幻想曲」のCMより頂きました。内容は相変わらずふざけてますが…。
ファトラのあまり見せない一面を出したかったのですが…難しいですねぇ。
その夜…。
神の目に隠れた月が姿を見せる。ちょっとした広場となっている中庭が次第に月明かりに照らされていった。
「来たな」 愛用の武器である棒を手にしたロンズはキッと前を見据える。
ゆっくりと、しかし悠然と、動きやすい服装を身に付けたファトラが侍女のアレーレを引き連れて現れた。
「ファトラ様…」アレーレは呟くが、主の視線は目の前の中年に注がれている。
「ほぅ、その御覚悟、本物のようですな」 戦士の光を宿すファトラの瞳の輝きを見取り、ロンズは不敵に微笑む。
「フッ、当たり前田のクラッカーじゃ!」
・
・
・
「はっ! 私は一体ここで何を?」我に返るロンズ。
「すまぬ、許せ。古かったな,つい『コン○イラ』を思い出してしまったのだ」
「ファトラ様は言いたいことは言ってしまう性格ですものね」額に汗かき、アレーレ。しかし場は元のテンションに戻り、彼女はファトラから離れた。
「では、御覚悟よろしいか?」ロンズは棒を構える。悲しき脇役にすぎぬ彼だが、侍従長の役職は伊達ではない,その構えには一分の隙もなかった。そもそも法術抜きで肉弾戦のみの戦いならば、彼に勝てるのは藤沢くらいではなかろうか?
「応ぅ! いざ尋常に」
「「勝負!!」」
二人の声がハモると同時に、ロンズの棒がファトラに向かって一閃した!
時は少々溯る…
「あれ〜れ〜」 最愛の相棒の悲鳴を背中に彼女は足を止めることはできなかった。そう、狙いは自分自身なのだ。
「まぁちやがれぇぇぇ! ファトラぁぁぁ!」 鬼のような形相で追ってくる炎の大神官シェーラ・シェーラ。時折繰り出される炎の矢を、気配でかわしながら数分後、彼女は何とか魔の手から逃れることができた。
「ったく、シェーラの奴め。あんなに照れんでもよかろうに…」 アレーレに手当てを施しながらファトラは呟く。彼女がシェーラに何をしたのかは、推して知るべし。魔の手はファトラの方だったようだ。
「やっぱりシェーラお姉様には手を出しちゃいけない様な気がするんですけど」
「いつになく弱気じゃのぅ、アレーレ。狙った獲物は逃がさない,それがわらわのモットーじゃ」
「でも…このまま続けたらいくらファトラ様でも怪我をなさってしまいます。ファトラ様の珠のお肌に傷か付いてしまうなんて、アレーレには耐えられませんわ!」
「…ならばわらわが強くなれば良いのじゃな」何を思ったか、不敵に微笑むファトラ。
「え?」
「わらわが強くなれば、アレーレ,お主にも怪我を負わせずに済む。簡単なことではないか」
「強くなるって…一体どうやって?」 それ以前に、短絡的なシェーラと言えども、大神官の攻撃から毎回無傷で生還するファトラは十分強いとは思うが…。
「ふっ! 決まっておろう,わらわよりも強い奴に会いに行く!」スト2か? ファトラ…。
「…分かりましたわ,ファトラ様の御覚悟。もう、誰にも止められませんのね…」止めろよ、アレーレ。
「ファトラ様は『影のロシュタリアはなれ技』,略して『影技』というものをご存知ですか?」またパクリだ。
「なんじゃ,それは?」 アレーレの突然出した単語に首を傾げるファトラ。
「古代より伝わる封印された格闘術です。もう口伝でしか残されてはいないとのことです」しっかり口伝で伝わっているではないか?!
「なんでも「我が影技にかなうものなし」って自己暗示をかけて眠る力を引き出すという・・・」
「では、なにか? やっぱりガ○=バンとか×レ=ラグとかが登場するのか?」
「まさかぁ,今、その最強と呼ばれた格闘術の断片を知るのは…」
「知るのは?」 アレーレの次の言葉に、ファトラは驚きと、強い者と戦う喜びに目を大きく見開いた。
ロンズの一閃は空を切る! 棒を振った体勢のまま、ロンズは彼女を見上げた。
繰り出した棒の上にファトラは乗っていた。ファトラにしても、体術のみを比較するならロシュタリアの三本指に必ずランクインすることだろう。
その棒の上かか、ノーモーションジャンプ,必殺の蹴りを繰り出した。
「クッ!」かわすロンズ,しかしその頬からは掠ったのか、赤い線が生まれている。
「お強いですな,ファトラ様。このイー・アル・カンフーのワンと呼ばれたこの私の攻撃をいともたやすく、かわすとは…」古いぞ、ロンズ。それにワンは一番弱いんでは…?
「世辞は良い,見せてみろ、お主の本当の強さを!!」
2分後…
三角飛びによって必殺の蹴り(知ってる人いるかなぁ)を叩き込んだファトラが、つらいながらも勝利する。
「…私の負けです、ファトラ…様。しかし…『影技』を…伝えた私の…師匠を…倒せます…かな?」地に伏したロンズは息も絶え絶えに呟いた。
「師匠…だと?」アレーレからタオルを受け取り、汗を拭うファトラ。その手にはロンズから奪った棒があった。そう、伝説の棒は彼女を主人を認めたのだ(おい!)。
「そう、『影技』を…極めた…男、その名は…ストレルバウ…」そこまで言ってロンズは生き絶えた(嘘だって!)。
「ストレルバウ…嘘じゃろ…」
「ファトラ様…」彼女の驚きは、しかし静かに冷たい光を放つ月へと吸い込まれて行くようだった。
翌早朝…
「ストレルバウよ」 ファトラはアレーレを伴い、王立学術顧問の元へと赴いた(老人は朝が早いのだ)。
「これはこれはファトラ姫,こんな明け方に…」そこで彼は絶句する。彼女の手にした棒,それはまさしく彼が教え子に免許皆伝の証として渡したものだったのだ。
「これが何を意味するか…分かっておるな,ストレルバウ」 棒を彼に投げ渡すファトラ。それをストレルバウは片手で受け取り、そして放り投げる。
「私が古代の通信教育をようやく解読して会得した『影技』の名にかけて、ファトラ様,貴方の力、見せてもらいます!」呆気なく明かされる最強武術の原点!
博士は叫び、何処からともなく酒瓶を取り出した! それをぐいと一飲み,
「酔えば酔うほど強くなる! 我が酔拳に勝てるかな?!」バー×ャ○ァイターの某キャラさながらに、華麗な舞を披露するストレルバウ。
「フッ、行くぞ!」
3分後…
「うえぇぇぇ〜、飲みすぎたわい」もどした所をファトラの無常な踵落しが襲ったのだった,合掌。
「ファトラ様…『影技』を…完璧にマスターした…そう、ワシよりもずっと…ずっと強い者が…おりますぞ…」荒い息で老人は言葉を紡ぐ。
「その者を…倒して…初めてあなたは…ロシュタリア一の武道家を…越えたことになる…」
「誰じゃ,それは?」
「ワシが現代に…呼び起こしたこの古代戦闘術を…完璧に…マスターした完全なる…伝承者…,その名は…」
「駄目ですぅ!」 叫ぶアレーレ。
しかしストレルバウの告げたその名は、ファトラの耳に確かに届いたのである。
「知っておったのか…アレーレ?」その問いに彼女は小さく頷く。そう、彼女は全て知っていたのだ。何故なら彼女もまた、かつてこの技の教授を受けたのだから(皆知ってるんじゃないのか?)。
「そうか…しかしわらわは…」
「ファトラ様…」 ファトラはアレーレに背を向けた。
「わらわはロシュタリア一を賭けて戦わねばならぬのだ!」もはや本来の目的から大きく逸脱し、彼女は一人、その場を後にした。そう,このロシュタリアで最も強い者に会うために。
そして国家元首たるルーン=ヴェーナスの私室に彼女は足を踏み入れた。
「あら、ファトラ? どうしたの?」
「あ、姉上…」
「ん?」微笑みながら首を傾げるルーン。お気に入りのホワイトドラゴンのぬいぐるみを抱いている。
「…」俯くファトラ。その苦悶の表情はしかしルーンの位置からは見えない。
不意にファトラは頬に暖かい感触を感じた。ふと顔をあげると彼女に手を添えたルーンが心配気に彼女を見つめている。
ルーンの深い蒼い瞳を見つめ、ファトラは意を決したようにこう言った。
「姉上、今日のお昼ご飯は何でしょうな?」
「まぁ、そんなことで悩んでいたの?」 そんなことで悩むのはルーン,あなたくらいでは?
「今日はねぇ………」
これは、ある暖かな日の光が差し込む日のことだった…。
〜 FIN 〜
元 : ぐあぁぁぁ〜、ふざけてる所があんまりないぃぃ!
ストレルバウ : ワシが酔拳の使い手とは…ところで苦しそうじゃな、おぬし。
元 : ええ、笑える所が少ないんで。
ストレルバウ : 今までも笑える所があったか?
元 : うげっ! パタン
ストレルバウ : 止めを刺してしまったかのぅ。
元 : ふぅ、復活!
ストレルバウ : にゅお! 早いの!
元 : まぁ、慣れてますから,寒いのは。取りあえずこれを書くに当たって、
ファトラというキャラクターを改めて解析し直しました。私の見解と
しては「手段の為に目的を選ばない」とか、「優しさを見せることが
恥ずかしい」だとかですか。
ストレルバウ : 前半はウルドか? 「美女好き」ってのはないのかの?
元 : それはファトラの趣味でしょう? それにそれを題材にしたらこのHP
は18禁になってしまいますがな。
ストレルバウ : (それはそれでうれしいぞ)
元 : (このジジイ、大体何考えてるかわかるなぁ)