1/?の純情な感情


 風…それは風の大神官であるウチそのもの…
 自由と秩序,博識…それはウチが求めるもの,風を尊ぶ者が求めて止まないもの…
 けれど…


Inexplicability


 そいつとの出会いは不可解でしたわ。
 ”…何で女装しとりまんの”
 ア−リマンの泉,そこでそいつと改めて知り合った訳どすぇ。
 もっともその直後にはシェーラの炎に焼かれとりましたが…。
 ウチももちろんしばきましたわ,本気じゃあらへんどす,もちろん。
 彼,異世界からやってきたという水原 誠はロシュタリア王族のファトラ王女と瓜二つやった。だからといって、女装までしてやる義理はないと思いましたわ。
 良く言えばお人好し,悪く言えば周りに流されやすいこの青年に、ウチは少なからず興味を覚えました。
 あくまで、彼の持つ異世界の知識と、先エルハザード文明の遺物を作動させることのできる特殊な能力にでおますが。


Analysis


 あれはバグロムの総帥なんていう酔狂なものになった誠の知り合い,そう、菜々美はんの兄貴がイフリータを目覚めさせた日の夜でおました。

  フォ…

 ロシュタリア城の最も高い塔,人気のない王族御用足しの飛空艇乗り場の桟橋で、ウチは風を感じておりました。
 風はウチを包み、遥か彼方,バグロムの居城の様子を伝えてくれます。
 ”…特に大きな変化はないようでおますな”
 「あれ? アフラ…さん?」 背後からの気配と声に、風が散った。
 「…誠はん? こんなトコに何か用でおますか?」 ウチは風との会話を邪魔されたいらだちを押さえて、突然の珍入者に振り返る。
 「ええ、暑くて眠れまへんのや。ここが一番涼しそうやと思って」 微笑む誠。確かにここが最も風が通るトコやけど。
 この広いロシュタリア城でそれを読み取ることができたんいうのは、偶然にしても少し驚きやったわ。
 「アフラさんはここで何してたんです? 何かしゃべっているように見えましたが…」 
 「ウチも涼んでいたんどす」 
 「そうですか」 誠はんは言い、桟橋に腰を下ろしましたわ。
 「…アフラさんは何故風の大神官になったんです?」 
 「おかしなことききますな」 そのまんま,でも幼い頃から修行ばかり,いや、サボってもいましたが、でも他にやっていたことなんてなかったどすし、それが日常やったわ。言い換えれば答えに詰まったんどす。
 「そうやね,この世界にきてから僕、菜々美ちゃんのように料理の才能もなければ、藤沢先生みたいに怪力がある訳でもない…なんか、今まで何をやってきたのか思いまして」 苦笑する誠はん。
 ”存在意義の提議どすな…”女装好きの変態かと頭の片隅ではまだ思うてましたが、しっかりと自分の今の悩みを持っていることに,そしてそれをウチに話してくれることに、妙やけど親近感を覚えたんどす。
 「すいません,ついグチっちゃって」 
 「誠はんは、この世界に来てやらなくてはいけないこと,見つけました?」 
 「僕は…取り合えず、元の世界に戻れるように,とおもっとったんだけど」 ふと思い出すように誠はん。
 「だけど?」 ウチは促す。
 「…いや、やっぱり、はよ戻りたいですわ。こんな女装もさっさと止めたいし」 
 「良く似合ってますぇ,それこそ誠はんしか持てない特別な能力やあらへんか」 ウチは茶化す。
 「アフラさんまで、止めてくださいよ,こんなん、クラスメートにでも見られたら末代までの恥や」 
 「見られるようになれば…良いどすなぁ」 
 「…ええ」 
 この後、誠はんの心には、シェーラでもなければ菜々美はんでもない,この時のウチ等の敵が居座り続けることになるんですわ。


Truth…


 「ちょっと,シェーラ! まこっちゃんから離れなさいよ」 
 「やい、菜々美! 誠から離れやがれ!」 
 「…苦しい,はなしてぇな,2人とも」 誠はんは悲鳴を上げる。
 ”またやっとるわ…”溜め息一つ。そしてちょっと釈然としない気持ちがウチの心に生まれた。
 シェーラに誠のところまで無理矢理引っ張って来られたと思ったら、いつもの通りの菜々美はんとの誠はんの取り合いが始まりましたわ。
 今日は昼飯に関して。
 しかし誠はんもはっきりさせんからいけんどす。ま、そんなことができるほど器用とは思えへんけど。
 ”あらあら、誠はん,顔が青くなっとりますぇ。そろそろですなぁ” そしていつもの頃あい,シェーラと菜々美はんの取っ組み合いになった時点で吹っ飛ばされて息切れしている誠はんに近づく。
 「いつものことやけど、怪我はあらへん?」 
 「いつものことやから、大丈夫や。2人とも、なんであんなに仲悪いんやろ」 困った顔をする。
 ”まったく…”
 「そんなこと、自分で考えなはれ。ま、とにかくあの2人は放っておいて、昼でも食べに行きましょ」 
 「あ、もうそんな時間ですか,そうですね」 
 ウチは誠はんを連れ出す。
 「ところで研究の方は順調どすか?」 
 「詰まってますわ。あ、そうそう,あとで見てもらいたい古文書があるんですが」 
 「いいどすぇ,ただ…」 
 「だた?」 
 「後ろの連中から昼飯の後も逃げおおせたらの話どすが」 ウチは親指を肩越しに後ろを指した。
 「「待て〜!」」 悪鬼の形相の二人が迫ってくる。
 「う、うぁ! に、逃げましょ,アフラさん」 誠はんはウチの右手を取って走り出す。
 「え? そんな引っ張らんといて…」 逃げんでも大丈夫さかい…誠はんがしばかれるわけでもなし,あ、いや、余波食らいますな。
 でもウチの手を掴んでいる誠はんの手は、見かけによらず強いでんな。やっぱり男の子やね。
 「逃げたわよ!」 
 「アフラ,てんめぇ!」 

  クスッ

 「アフラさん、何笑ってるんです!?」 振り向き、誠はん。
 「何でもあらへんどす。さ、本腰入れて逃げましょ」 ウチは誠はんの手を強く握り返す。何か、暖かな気持ちが胸に広がる。
 「ええ」 誠はんとウチは軽く微笑みを交わすと、さらに足早に駆け出した。


 ウチの心にあるこの奇妙な感情,本来なら、それが何か、知るべきなんやろが…時には分からないままにしておくこともあったって、構わんどすな?

 そやろ?


 Be Continued in Her Heart…