Let's play the party......

 ロシュタリア城の中庭にひっそりと佇む小さな石造りの小屋,誠の研究所であるそこから笑い声が響いていた。
 時は夜の帳が下りる頃,普段は雑多で狭い研究室のリビングには円卓が設けられ、七面鳥のローストやケーキが所狭しと並べられている。
 「結構広いじゃねぇか,ここ」鳥の足にかぶりつきながら、赤毛の少女,シェーラは感心したように研究室を見渡す。
 「もともと広いのよ,ただ、まこっちゃんが雑多にしていたから狭く見えていたの」
 「ほんま,掃除くらいせな、あきまへんぇ」
 「はぁ、すいません」二人の女性にキツイ視線で睨まれ、ただただ小さくなる青年がいた。
 水原 誠,この小さな研究所の主ではあるが、メンバーの中で一番態度が小さかったりする。それは今に限ったことではないが、今日は特にそうだ。
 「イフリータがいたら、ウチが掃除するなんて事はおへんで。きっと嫁はんに苦労かける男やわ,誠はんは」掃除担当のクジを運悪く引いてしまったアフラはここぞとばかりに冷やかす。
 「な、何言うてるんですか!!」
 何故か顔を赤くして否定する誠に、一同はどっと笑った。



 今日はロシュタリアでは,いや、エルハザードでは特別な日。
 聖夜と呼ばれる、冬の王をもてなす祭りの夜だ。
 冬の王とは季節を擬人化したもの、赤いコートを着てトナカイに乗ってくるという。
 また、厳格なる冬の王は時として、もてなしてくれた者に対し、贈り物をする。
 と、いう行事を聞かされた誠と菜々美は思い当たるものがあったのは言うまでもない。
 「まこっちゃん,クリスマスにそっくりね」
 「不思議なこともあるもんやなぁ…」
 しかしロシュタリアは地理的条件から、年中温暖な部類に属するので冬といっても多少肌寒さを感じるだけで雪は降ったりはしない。
 ともあれ、そんな訳で聖夜のお祭りは街のあちらこちら,家族ぐるみでも開かれている。そして誠の研究室には自然と馴染みの顔が集まっていた。
 料理を持ってきた菜々美,酒を持ってきたシェーラにアフラ、クァウールの三神官,遊びにきた藤沢夫妻,そして酒を飲みにきたイシエル…
 もっとも本当のところは、研究に閉じ籠もりがちな誠の気を少しでも紛らわしてやろうという個々の心遣いが共通にしてあったのではあるが。



 「ねぇ,クァウール? 冬の王から贈り物ってもらったことある?」果実酒のせいか,仄かに頬を赤く染めた菜々美が、フライドポテトを摘むクァウールに面白半分に尋ねた。
 「はい,あれは六歳の頃でしたか…枕許にその時の私が一番欲しがっていたものが置いてありましたわ」微笑み、彼女は菜々美に答える。
 「アタイもあるぜ,孤児院にいた頃だけどよ」
 シェーラもまた、話に加わる。
 「ふぅん」”寝ている所を親か,孤児院の院長辺りが彼女たちの枕許置いたのね,どこの世界でも子供の夢は守るものね”
 「ウチもどすわ。まぁ、今思えば子供の頃は単純どしたなぁ」
 「アフラ…夢もへったくれもないわね」ミーズの冷たい響き。
 「ったく近ごろの若いもんは」こちらは藤沢。言ってから若くないと遠回しに言われた相方に凍るような目付きで睨まれたが。
 「で、何を貰ったの? クァウール?」
 「石灯籠ですわ」
 「「「……はい?」」」およそこの場に出ることのないはずの単語。
 「ですから石灯籠…」
 「シェ,シェーラは何を貰ったの?」
 「ア、アタイはお菓子さ,嬉しかったなぁ。あの頃はよぅ」
 無理矢理に話を終わりにする2人。
 その時である。
 バタン
 研究所の扉が開き、2人の女性が姿を現した。
 「遊びにきてやったぞ」
 「こんばんわ」
 やってきたのは極上の微笑みを持参したルーンと酒瓶を手にしたファトラだ。
 「王女様,こんな狭いところに…えらいすいません」慌てて出迎える誠。
 「そんなことありませんわ,こちらこそ勝手に押しかけてすみませんね」
 互いに頭を下げ合う、腰の低い2人だった。
 対するその妹はシェーラに向かって手にした酒瓶を投げつける。
 「ん? こりゃぁ…」
 「おお,こいつは!!」
 「いいの? ファトラさん?」
 シェーラの後ろから酒瓶を覗き込んだ、飲んだくれ2人はラベルを見て彼女に尋ねる。
 「お前達にはこれくらいではないと酔えんであろう?」
 「一級の火炎酒の蒸留たぁな。こんな貴重なの,初めて飲むぜ」
 藤沢はシェーラからボトルを受け取り、まじまじと見つめる。
 火炎酒とはその名の示す通りに、口に入れたら火の出るほどキツイ酒でありアルコール度数も相当のもの。
 それをさらに蒸留して度数を高めた、ある意味ほとんどアルコ−ルのみではないか? という代物だ。
 だがそれ故に飲む者は皆無であり、流通量が少ないので価格的にはバカが付くほど高い。
 「センセ,早く早く」
 「次,アタイな!」
 「こらこら、わらわの分も残しておけよ!」
 こういう肝臓が強すぎる者達がいるのも、価格が上がる一端ではあるようだ。
 「ところでアレーレにパルナスは?」部屋を見渡し、菜々美がふと漏らす。
 「アレーレには買い出しを頼んでおいた。酒が明らかに少ないのでな」ファトラは言って、すでに空になった火炎酒のビンを振る。
 「パルナスには使いを頼んでいますの。少し遅くなりますがここには来るように言ってありますので」と、こちらはクァウール。
 「そっか」菜々美はしかし、もう一つを思い出す。
 「まこっちゃん,ストレルバウ博士も呼んでって言ったわよね」
 「博士はどうしても外せない実験の準備があるそうや,菜々美ちゃんにもよろしゅういっといてくれ言ってたわ」
 「ふぅん…」
 「誠様,ちゃんと食べてますか?」フライドポテトの入った器を差し出しながら、クァウールが尋ねる。
 「え、ええ」
 「誠,飲んでおるか?」がっしと誠にヘッドロックをかけながら横からファトラ。
 「は、はぁ」相変わらず気のない返事である。
 「ちょっと,ファトラさん! まこっちゃんに絡まないでよ!」
 よくよく見るとファトラの頬がほんのりと赤い。アルコールが回っているらしい。
 だがイシエル同様、今まで彼女が酒で酔っているのを見た者のは皆無だ。
 と、菜々美は場が急に静かになったのを感じた。
 不安を感じて菜々美は後ろを振り返る。
 シェーラが壁に向かって淡々と語っている。
 藤沢はミーズの膝枕で爆睡。
 イシエルはルーンと全く噛み合わない会話を交わしていた。
 ”…鉄の胃をもったこの人達が…酔ってる?!”
 「誠,お主も酒くらいのめんようではイフリータの尻に敷かれるぞ」
 視線を戻すと誠がファトラに相変わらず捕まっている。さらに密着度が上がっていることに菜々美はカチンと来ている。
 「ファトラさん,酔ってません?」
 ファトラの胸を首筋に感じる誠は顔を赤くしながら言った。
 「わらわが酔っておるだとぉ?」
 ずい,ファトラは誠の顔を自分のそれと、ほぼくっつくかくっつかないかのところまで引き寄せ…
 「わらわのこの目が酔っている様に見えるか?」じっと誠の瞳を見つめる。
 その黒い瞳には明らかに慌てた感じの誠自身がはっきりと映っていた。そしてその瞳は確実に…座っていた。
 ”酔うとる酔うとる…”
 思いとは逆に首をフルフルと横に振る誠。
 「ふむ、分かれば宜しい」
 ようやく解放された。
 と、赤い液体の満たされた杯が誠に手渡される。
 「果実酒くらいは飲んでみよ。少しくらい羽目を外さんと気分転換にはならぬぞ。待人への旅路はまだまだ続くのだ,今からその調子では進むものも進まぬ」
 まったく,とでも言いたそうに彼女は言う。
 その言葉の裏の本当の気持ちに、誠はようやく気付き微笑んで杯を握り締めた。
 「…そうですね,ありがとうございます,ファトラさん」
 「! フン,そういうところが堅苦しいのじゃ,お主は」赤い顔は酒のせいばかりではない様だ。
 「ちょっと,まこっちゃん…」制止しようと菜々美は手を出そうとするがクァウールに優しく止められる。
 カチン,2人は軽く杯を重ね、口へ。
 「!?」大きく一口飲み干した誠は硬直。
 「?」対するファトラは首を傾げている。
 「…こっちが果実酒だったようじゃな」赤い液体の入ったグラスを置いてファトラ。彼女は硬直している誠の手から、色がより濃い赤い液体の入った杯を取る。
 「わらわとの間接キスじゃ,ありがたく思えよ」邪悪な笑みを残してファトラはルーンの元へと去り…
 バタン
 「ま、誠様?」
 「ちょっと,まこっちゃん!!」
 高濃度の火炎酒を飲み干した誠は2人の少女が駆け寄る中、青を通り越して白い顔で目を開けたまま、その場に倒れ伏していた。


Christmas Party



 深夜。
 研究所の2階にあたる誠の私室に蠢く陰があった。
 「う〜ん」
 ベットに眠るは誠当人。あれから手の負えない饗宴となり、ほとんどの者は城の客室に各々泊まることに至っている。
 キツいアルコールのショックで倒れた誠は、菜々美とクァウールによって、なんとかベットに安置されたのであった。
 その誠に向かって歩み寄る陰。
 窓から漏れる月明かりに、陰の姿が一瞬さらされる。
 赤いコートを着ている老人だ。
 彼は己のてのひらを開く。
 そこには一粒の錠剤。
 「パーティはこれからじゃよ,誠殿」月明かりに照らされる老人の瞳には邪悪極まりない光が灯っていた。
 そう、冬の王の姿をした彼はストレルバウであった。
 彼は誠の口の中にその錠剤を放りこむと、クルリと背を向けて研究所をまるで軽業師のように出ていった。
 そして今度は別の獲物を狙って音もなく駆ける!
 彼の行く先には…・・



 朝。
 「頭痛ぁ〜〜〜」誠はベットの上で目を覚ました。
 妙に体がだるく、思考がはっきりとしない。
 ポリポリ,頭を掻いた。
 指に絡む髪が妙に長いような気がする。
 ”散髪にもいかんとなぁ”
 着替えのために上着を脱ぐ。
 と、それが昨日の宴会のときの服装であることに気付き、昨日のことが思い出された。
 ”そういや、ファトラさんから渡された酒を飲んで倒れたんやな,この頭痛いのは二日酔いいうやつか”
 次第と記憶と思考がはっきりとしてくる。それと供に靄の掛かっていたような視界が晴れるようにしっかりとしてきた。
 肌着を脱ぐためにそれに手をかけたときである。
 「??? あれ?」妙な感触が手に感じた。その手は明らかに自分の胸を掴んでいるのだが、妙に柔らかい。
 「?」誠は肌着を脱いで自分の胸に目をやる。
 息が止まった。
 そして、
 「なんで僕に胸があるんやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 絶叫が木霊した。



 「ううむ」ファトラは痛む頭に手を当てながら目を覚ます。
 傍らには彼女にしがみつくようにアレーレが寝息を立てている。
 「むぅ,久しぶりの二日酔いか,やはりあの火炎酒はキクな」あまり昨日の記憶がなかった。時としてファトラは酔うが、昨日のようなことは今までにはなかったことである。
 揃っていたメンツが親しい者達であったためか、彼女らしからぬことに少々羽目を外してしまったようだ。
 「まぁ、こんなこともあろう」自嘲気味に微笑む。
 「ん…」愛しの愛人が動く。
 「お、アレーレ,起こしてしまったようじゃの,すまんな」
 「…!」寝ぼけ眼が驚きのそれに変化し、ずざざと身を引くアレーレ。
 「どうしたのじゃ?」ファトラが近づく分だけ、アレーレは引く。
 「何で誠様がここに!!」
 「はい?」
 ファトラは改めて自分の体を見る。
 髪が短かった,そしてガタイがしっかりしている気がする。
 そして何よりなかったものがあった…
 「???」
 バキ
 彼女は何を思ったか、自らの頬をグーで殴りつける。
 「…ほほぅ,面白いではないか」不敵に微笑み、ファトラ。ちょっと頬が腫れたようだ,涙目になっている。
 「もしかして…ファトラ様なんですか?」
 「決まっておろうが。これは面白い,ぐふふふふ…」邪悪さがアップしている。
 「どこが面白いんですかぁぁ!! それにホントにファトラ様なんでしょうね,誠様じゃないですか?!」
 「それはどうかのぅ?」ジリジリ,ファトラは脅えるアレーレに近づいていく。
 「…ち、近づかないで下さい!! いや〜〜〜〜」
 小さな絶叫が上がった…



 「はっ!!」
 誠は鏡の前で我に返る。
 ついつい昔の癖で完璧なまでの化粧を施していた。
 着ているものはその時、ファトラの代役を努めていたときに着ていた服だ。
 「あかんあかん!! 何ハマっとんのや!」
 ぶんぶん頭を振って、彼(彼女)は研究所を飛び出した。
 と、いきなりバスケットを持った菜々美に遭遇する。
 「ファトラさん…? どうしてここから出てくるの?」半ば茫然と尋ねてくる。
 「な、菜々美ちゃん?!」”ヤバイ,これはヤバイで!”
 「ちゃん? 貴女、ファトラさんじゃないわね」いきなり確信にヒット!
 「な、何を申しておる! わらわは正真正銘のファトラじゃ!」
 普段(?)なら声でばれるところだが、体自体が女性化しているために身体的にはファトラとの違いはない。
 そんな誠を下から上へ、上から下へまるで品定めするかのようにまじまじと眺め回しながら、菜々美は再び問う。
 「なんでファトラさんがこんな朝からまこっちゃんの研究所にいるのよ」
 「え、そ、その〜」
 「まさか! お酒で倒れたまこっちゃんを襲ったんじゃないでしょうね!!」
 ずずいと詰め寄る菜々美に誠は冷汗をかく。
 「お、襲うって…わらわの趣味は美少女のみとお主は知っておるだろう?」
 「この間、美少年にも手を延ばし始めたって自分で言ってたじゃないの」
 「そ、そうやったかなぁ」
 「やったかなぁ? 妙ね言葉づかいね,ファトラさん」ジト目の菜々美。
 「…わ、わらわは忙しいのじゃ! ではな,菜々美!」
 「あ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 誠は逃げきれることを祈りながら、思い切り駆け出していた。



 「シェーラはん,僕、前から君のこと…」
 「ちょ、ちょっと誠…お前…あ、そんなトコ」小さく喘ぐはシェーラ。
 「って,待てい!!」グイ,ファトラはシェーラに手をかける誠の襟首を引っ張る。
 廊下の片隅,そこで声がしたかと思うとこれだった。
 菜々美の追跡を何とか振り切った誠は、とてつもなく嫌な予感がしてその声の元を辿ればこれである。
 「なんじゃ,お主?」問うシェーラの服に手をかけた誠,もといファトラは怪訝な視線でかつての誠を見る。
 「なんや,ファトラさんやないですか」シェーラに迫っていた誠は誠(ファトラの姿)に平然と言い放った。
 「貴方,ファトラさんですね。言葉までそっくりにしてさかい…」
 「何を言っておるんや? 僕は正真正銘,どこにでも転がっている一般的な水原誠やないか」
 「…どうなってんだ??」着衣を直し、シェーラ。
 「シェーラさん,僕が誠です」
 「何言うてんのや,ファトラさん。僕が誠やないか」
 詰め寄る誠とファトラに目を白黒させるシェーラ。
 そして…
 「フッフッフ…」
 「「?」」不気味に含み笑いを漏らし始めるシェーラ。
 その額からちろちろと炎が漏れ…
 「てめえら二人ともファトラだな! しんじまえ!!!」
 「「うきゃ〜〜〜」」
 後には黒く焦げた2人が残された。
 「ファトラさん…一体これはどういうことなんでしょう?」
 「知らぬわ…しかし今がチャンスであったのに…」
 「それしか頭にないんですか」
 「お主も妙に美しいではないか,女装癖は本物であったのだな」
 「あらあら,どうしたのファトラ」その声は頭上から聞こえてきた。
 「王女様?」ファトラな誠はルーンの勘違いに嫌な予感。
 「? さぁ、今日の公務は貴女の力も必要なんですから。行きますよ」
 「ちょ、ぼ、僕は水原やて!」
 「もう少しまともな嘘をおつきなさい」
 「わらわの代わりにしっかり働いてこいよ〜」
 引き摺られていく誠に、ファトラは心の中で手を振った。
 「誠はん,どないしましたの? さ、肩を貸してあげるさかい」
 一拍遅れてやってきたのはアフラだった。彼女も昨夜はこの城に泊まったのだ。
 「アフラさん…ありがとうな」ファトラは彼女の好意に甘んじることにした。



 ”一体何でこないなことになってしもうたんや…”
 外国からの訪問客達に愛想笑いを振り撒きながら、誠は事の発端を考える。
 「これはこれはファトラ様,いつも以上に今日はお美しいですね」ガナンの外交官がそう声を掛ける。本人が聞けば打ち首にされるに違いない…
 ”突拍子もなくこんなことがおこるなんて。原因があるはずや!”
 その外交官に軽く挨拶を済ませ、彼は推敲を続ける。
 と、ひらめくものがあった! 誠の脳裏に一人の男の顔が急に思い当たったのである。
 “ストレルバウ博士,昨日は実験の準備とか言うて…実験!?!”
 次の瞬間、ファトラな誠は駆け出していた。
 「ファトラ,一体何処行くのです!!」
 「化粧室でしょう」ルーンの言葉にロンズが何気無く答えていた。



 「全く、あの女子にも困ったもんどすわ」
 アフラは誠(ファトラ)の腕に包帯を巻きながら溜め息交じりに言った。
 ここは治療室,主に城の中に住む者が怪我などした場合に応急処置などを施す、薬品が置かれている部屋だ。
 この時間、狭いこの部屋にはこの二人しかいない。
 「さ、これで終わり。大した怪我やのぅて、良かったどすな」
 「えらいすいませんね,アフラさん」
 「謝るのはこちらの方どす。あのバカには良く言って聴かせますわ」
 ”そういえば、こやつも誠が好きであったな”ファトラはアフラに関する数少ない情報を引き出す。この風の大神官はあらゆる意味で後が怖いので、手を出すのを控えていたのだが…
 ”今ならイケるやもしれぬ!!”
 「しかしファトラはんにも困ったもんどすわ,もしもウチがシェーラだったら毒殺してる所ですな」
 ビクッ
 「それはまずいのでは?」真顔のアフラに明らかに狼狽えるファトラ。
 「ウチを見くびったらあきまへん。名探偵コナン君でも分からない完全犯罪くらい訳ありまへんわ」
 ”むむ…どうしようか,しかしここで引いたら男ではない!!”ホントは女だ,アンタ。
 「ま、それはそうとして。研究にしてもいつも迷惑ばかりかけてしまって。ほんま、ありがとうございます」
 「な、なに改まって変なこというてますの?」急な誠の言葉にどぎまぎするアフラ。それに構わず、ファトラは続ける。
 「僕、気づいたんですわ。アフラさん,貴女に徐々にこの心がひかれて行くのを
 「!…」
 そしてファトラはアフラを強く抱きしめる。アフラの手から包帯が落ちて床に白い帯を作った。
 「誠…はん?」
 「好きです,アフラさん」
 次第にアフラから力が抜けて行くのを感じる。
 ”いよぉし!!”心でガッツポーズのファトラ。
 が、次の瞬間、ファトラの体はアフラによって思いきり突き飛ばされ、部屋の壁に叩きつけられた。
 「…!」衝撃に息が出来ない。
 「ファトラはんやったんか,危うく騙されるところでしたわ」
 「なんで…気づいた?」薄れ行く意識の中、ファトラは悔しげに尋ねる。
 「誠はんの口調をまねても、性格だけは真似られんようどすな」
 しかしアフラの答えを最後まで聞けく前に、ファトラは気を失っていた。
 「誠はんもこれくらい積極的なら、何も苦労はおへんが」
 アフラの諦めにも似た呟きが部屋に響いた。



 そしてストレルバウは一同に詰め寄られていた。
 ストレルバウはここ数日、性別を変換させる薬を開発していたらしい。
 「これは一体…」
 「どういうことおますか?」
 誠、アフラに問いつめられ、老人はあとずさる。
 「私はこのままでも良いような気がするんですが」
 「王女様!」
 「姉上、それは一体どういうことです?」ルーンの何気無い、慈悲のない言葉に誠とファトラが抗議の声を上げた。
 「ともかく説明してもらいましょうか?」
 「博士!」菜々美とクァウールに問い詰められる。
 「…仕方あるまい,正直に言おう」ストレルバウは折れた。
 ゴクリ
 一同に緊張が訪れる。
 博士の口が開かれる!
 「なんか面白いかなぁ〜と思って…」
 ぷち…
 全員が一歩足を踏み出した。
 「な、何かな,皆揃ってその恐い顔は…」後ろに下がろうとするが、老人の背は壁に付いている,逃げ場は断たれている。
 「「死にさらせぃ!!」」
 …・・ストレルバウがぼろ雑巾と化す頃、2人の体は元に戻っていた。
 だが、これでパーティは終わらなかったのである!
 「あ、いたいた!」背後からの声に誠は振り向く。
 「誠様,責任を取って下さいね」アレーレは真顔で誠に詰め寄っていた。
 「はい?」首を傾げる誠。
 「どしたの? アレーレ?」
 「なんかあったのか?」菜々美とシェーラに問われ、アレーレは頬を赤らめ…
 「私の口からは、言えません,あんな恥ずかしいこと…」
 両手で頬を隠すアレーレ。
 「「なぬぅ!?」」想像力は豊富な2人は殺気を振り撒き、誠を捕まえた。
 「何や何や?! 一体僕が何をしたというんやぁぁ!!
 その後ろで、ファトラが笑いを殺しながらダッシュで逃げ出したのは言うまでもない。



おわり