セピア色の光が、高い本棚を照らす。
 黴臭い,それでいてあらゆる知識の存在する高尚なる静寂の場。
 乱立する様でいて一定の法則を保って配置された、それら本棚の中心に大き目な机が1つ、設置されている。
 その机に座すは一人の老人。胸まで伸びた白髭は美髯と呼ぶに相応しい。
 彼は深い澄んだ瞳を見上げる。
 威厳,発せられるはそれとともに内なる気力。
 「ようこそ、ストレルバウの書斎へ…」
 老人は言葉に力を込めて、そう言い放った。
 今ここに、知識の扉が開かれん…


 この番組は、知識と教養を世界に・ロシュタリア王立学院がお送り致します。


エルハザード 真夏のif



 「ようこそ、ストレルバウの書斎へ。本日は全国から多数寄せられた質問や疑問の御葉書を紹介しようかの。特に今回は、そのなかから「もしも」というテーマのものを選りすぐってみた」
 老人・学術顧問ストレルバウ博士はそう言うと、机の下から大きな箱を取り出した。
 四角い箱,それはその一面がガラスで出来ている。
 「これはの、『もしもボックス3号』と呼ばれるワシの新発明品なんじゃ。こんなにも早く見ることが出来るとは、お主、技術の最先端を見ておるのだぞ」
 彼はそこまで言って、箱をぽんぽんと叩く。
 ヴゥン!!
 くぐもった音と伴に、ガラスの面が淡い光を放ち始めた。
 「このモニターに『もしも、こうこうこうだったらどうなるんだ?』という映像が映るのじゃよ。一種のシミュレーション機に近いの。まぁ百聞は一見にしかず,早速試してみることにしよう!」
 懐から取り出すは1枚の手紙!
 「まず1つ目の質問,北海道は時の鐘の管理者さんからじゃ。これはなかなか興味深い質問じゃのぅ」
 モニターが映像を紡ぎだす…


Q.1 もしもOVAのイフリータがTVのイフリータだったら?
シーン: 第七夜 神の目の上にて

 「イフリータ!!」
 誠は叫び、駆け出さんとするが肩を強く藤沢に捕まれた。
 彼の前に立つは薄幸の美少女・イフリータ。
 「さようなら、誠さん。それじゃ、神の目を止めてきますね〜」
 「あかん、そんなことをしたらイフリータ,君が時空の彼方に吹き飛ばされてしまうんやで!!」
 「はぁ? まぁ大丈夫ですよぉ。それじゃ、行ってきますぅ!」
 「イフリータァァ!! 説明を聞いてくれぇぇ!!」叫ぶ誠,
 「…無駄だ誠」
 「センセ…」
 神の目の中へと颯爽と消え去って行くイフリータの後ろ姿から、誠は背後の男性に救いを求める目を向ける。
 しかし無精髭の中年は黙って首を横に振る。
 「あいつにお前の説明が分かるとは思えん…俺も分からんしな」
 そういう中年教師の瞳に、眠気の涙が流れていたのを彼は見逃さなかった…


 「待っていたよ、誠…」
 「き、君は…」
 「ただお前だけを待ち続けた、流れ行く行く千の夜を越えて…」
 美少年と美少女が遺跡の中、再会する。
 少年は動けなかった,彼女との衝撃的な出会いに。
 少女はただ抱きしめられたかった,待ち続けた想い人に。
 「誠…」
 ガタン
 ベシャ!
 「あだ!!」
 と、そこで唐突に映像は途切れる。
 「??? あや?」
 少女は古びた遺跡の中、寝癖で跳ねた髪を掻きながら辺りを見渡す。
 「夢?」着崩したパジャマの肩口を上げて、寝ぼけ眼で彼女は呟いた。
 彼女が眠りに就いていた寝床がひっくり返っている,寝相が悪かったようだ。
 と、思い出したように腕にした時計を見る。
 「…ああああああああ!!!」
 飛び上がる彼女,鬼神イフリータ。
 「寝過ごしちゃったぁぁ!!」
 「なんやなんや??」
 待ち続けた少年の声!
 「うっきゃ〜〜!!」
 「だ、誰や,アンタ?!」
 寝癖&着崩したパジャマ姿のあられもない鬼神の姿を目の当たりにした誠は、彼女の夢の中とは違う意味で茫然と立ち竦んだ…
 「あ〜ん、見ないで下さいぃぃぃ!!」
 きゅどむ!!
 イフリータの腕から放たれた光芒に、誠は異次元へと飛ばされた。
 「…ああ!! 慌ててたから違う次元に送っちゃったぁぁ!!」
 叫ぶイフリータ、そして数秒後。
 「ま、いっかぁ。寝直おそ〜」
 何事もなかった様に寝床に戻って行ったそうな。



 平安の世界 エルハザード  「おじゃる誠物語」へと続く。


 「ダメダメじゃのぅ。TV版イフリータはタイムパラドクスすらも関係なしなんじゃの」
 老人は苦笑。
 「次のお便りじゃ。埼玉県は所沢市・多仲君からの質問じゃ。これは期待できるぞぃ」


Q.2 もしもファトラが男だったら。
 ザ〜
 「良いではないか良いではないかぁ!!」
 ざ〜
 「お戯れはおやめくださいぃぃ」
 ザザ〜
 「そぉれ、廻れ廻れぇい」
 ざざ〜
 「あ〜れ〜」
 ザザザザ〜〜〜〜〜〜ぷちん!


 バンバン!
 ストレルバウは「もしもボックス3号」を叩く。
 すると砂嵐だったモニターは元の暗闇に戻る。
 「どうも調子が悪い様だの,今のは終わってしまった様じゃ。楽しげな音声は聞こえたのだが、残念じゃったの。気を取り直して次の御葉書じゃ。京都府の若菜って呼んで♪さんより」


Q.3 ウーラがドスケベな猫だったら…
 「ウニャ!!」
 「何てことするんです! ファトラさん!!」
 誠は足蹴にされて廊下でうめいている猫に駆け寄り抱きしめた。
 それを真っ赤な顔で見下ろすは彼と同じ顔をした少女,ファトラである。
 「なんてこと…じゃと?! こやつはなぁ! わらわを守らなかったばかりか、気を失っていることを良いことにあんなことやこんなことまで…」怒りに拳を震わせながらファトラ。
 「?? なんやさっぱりわからへんけど、ウーラを虐めたらあかん!!」
 「そうですわよ、ファトラ」
 「姉上まで…ちっくしょ〜〜〜、いつか絶対復讐しちゃる!」
 ファトラは泣きながらその場を去って行った。
 その時、猫を庇った2人は知らない。
 そのつぶらな瞳に獣の光が宿っていたことに…


 「シェーラさん,危ない! バグロムの大軍が,ウーラ!」
 「任しときな誠! そりゃぁぁ!!」
 「ウニャ!」
 襲い来るバグロムの大軍に向って炎の法術を打ちかますシェーラ。
 そしてその身を守る為(という建前で)に、ウーラはシェーラにまとわりついた!!
 「しぇーら、うーらガ守ル」
 「サンキュ! ウーラ!!」
 「うにゃ〜,マサニないすばでぃト言ッテ過言ハナイにゃ〜。何ヨリコノ胸,大キクテ柔ラカクテ気持チイイにゃぁ,グフフゥゥ…」 ← ネコ語
 「? 何か言ったか? ウーラ?」
 「うにゃ? 何モ言ッテナイにゃ」
 バグロムが一掃された,その直後である!
 「ああ、今度は幻影族がぁ!!」
 「ウチに任しとき!」
 「うにゃ!」
 風の衝撃波が、幻影族達を葬った!
 放ったのは風の大神官,アフラ=マーン。
 その体には彼女を守るべく猫がまとわりついていた!
 「? 案外すれんだーナ胸にゃ。デモサスガハ大神官ノ最年少,肌ノ張リガ違ウにゃぁ〜。スベスベシテテ、良イ匂イガスルにゃ〜〜」 ← ネコ語
 「ウーラ?」
 「うにゃ?」
 「…なんか胸とかお尻の辺りとか、妙にきついんやけど」
 どっきぃぃ!! ←ウーラの心音
 「今ハ誠用ニこーでぃねーとサレテルカラにゃ」
 「…ふぅん」
 怪訝な目をするアフラからウーラはギクシャクしながら離れる。
 「こ、今度は唐突にコミック版の鬼神シリーズが菜々美ちゃんに!!」
 「きゃ〜〜!!」
 「うにゃ!!」
 今まさに鬼神の放った光弾に当らんとする菜々美を、ウーラがまとわり付きはじく!
 入れ替わるようにシェーラとアフラの法術が鬼神達を包み飲み、虚空へと消し去った。
 「ウヘヘヘヘ サスガはふぁとらガ目ヲ付ケテイルダケアルにゃ。大キスギナイ胸,クビレノアル腰,ソシテ形ノ良イ尻,ドレヲ取ッテモ最高らんくにニ値スルにゃぁ!!!」  ← やっぱりネコ語
 「ヒャ〜ッハッハッハ〜!!」
 ウーラの感動をよそに、高笑いが響き渡る。
 「陣内!」
 「お兄ちゃん!」
 「陣内!! 誠,ここは教育者である私が奴を更生させる!!」
 燃えて立ち上がるは熱血教師一直線・藤沢 真理であった!
 「行くぞ、ウーラ!」
 「う、うにゃ?!?!?!」
 菜々美から強引に引き剥がされ、ウーラは藤沢に着られる!!
 「ク、クサイ!! 煙草ニ酒,ソレニ…ソレニコイツ風呂ニ全然入ッテナイにゃぁぁ!!」  ← 人間の嗅覚の1000倍
 へろへろ〜〜
 ぽすん
 力なくウーラは地面に落ちる。
 「「ウ、ウーラ?!?!」」一同驚愕。
 「陣内の新兵器か?!」おののく誠!
 「さすがじゃな! 陣内殿!!」デイーバは尊敬の眼差しを彼女の司令官に向けた。
 「??? ま、まぁな,ヒャ〜ッハッハッハ〜!!」
 乾いた笑いが響き渡っていた。


 「ディモールトぉぉ!!! ウーラよ、うらやましいぞぉぉぉ!! それでこそ、雄じゃぁぁ!!」
 はぁはぁ,老人は息を吐く。
 「ファトラ様に何をしたかは、後でゆっくり巻き戻して個人的に見るとしてじゃ。この調子で次の葉書に行ってみようかの!」


Q.4 三大神官が男だったら?
シーン: アーリマンの泉 禊の儀
 ミーズ :「あ〜ら、遅かったじゃない(声:山寺宏一)」
 シェーラ:「よぅ、久しぶり,ミーズの兄貴(声:岩田央男)」
 アフラ :「ミーズ兄さん、お久しぶりどす(声:野沢那智)」
 ミーズ :「ホント、久しぶりねぇ,しばらく見ない内に出るところも出ちゃって(声:山寺宏一)」 二人のある所を突つくミーズ。
 アフラ :「あん(声:野沢那智)」
 シェーラ:「あいかわらずだなぁ、ミーズの兄貴は(声:岩田央男)」 突つき返すシェーラ
 アフラ :「2人とも、変なことはやめときや(声:野沢那智)」
 ミーズ :「アフラ、歳を取るとね、貴方達のような若い筋肉が懐かしく思えるの,そういうことで、えい!(声:山寺宏一)」 ムニ!
 アフラ :「あん、やめてって!(声:野沢那智)」
 シェーラ:「良いじゃねぇか、へるもんじゃあるまいしよぉ。何もしらねぇネンネじゃあるめぇし(声:岩田央男)」 むにむに
 アフラ :「あ〜ん!(声:野沢那智)」


 「おえ〜〜〜〜〜〜(嘔吐)、こいつめこいつめこいつめぇぇ!! 気色の悪いもの見せおってぇ!」
 げしげし,もしもボックス3号を蹴るストレルバウ。
 「はぁはぁ、次のお便り行ってみるかの。マケドニアの勇士・まや大好きっ子さんから」


Q.5 菜々美が醤油でなくてXOジャンを持っていたとしたら…
 「ひゃ〜っはっはぁぁ!!」
 ジュァァァ!!
 肉の焼ける香ばしい香りが人を呼ぶ。
 厨房には大鍋を片手で振り回して炎との饗宴をする菜々美の姿があった。
 「料理は勝負! 菜々美様の料理は魔法なのよぉぉ!! ひゃ〜っはっは〜〜!!」
 兄顔負けな高笑いの後、料理が並べられて行く。
 今や彼女の料理は、それと同じ重さの金と交換されていた。
 異世界の料理人・陣内菜々美。
 エルハザードでは彼女はこう呼ばれている。
 鉄鍋の菜々美と…(by 鉄鍋のジャン)



 「…料理クラブじゃろ…もっとらんて…さて、最後の御葉書じゃ。東京は貞子さんより。これは…なかなか期待できるぞぃ!」


Q.6 ファトラの付き人がアレーレでなくパルナスだったとしたら…
シーン:誠がファトラの身代わりになって1日目の仕事が終えてベットで眠る場面より
 「もぅ駄目やぁ!」
 パタン、彼女(彼?)はベットに倒れ込んだ。疲労がどっと押し寄せてくる。
 女装のその姿を解くのも面倒くさい,彼はそのまま布団に潜り込んだ。
 ゴソゴソ…
 「?」
 足元で何かが動いている。
 ごそごそ…ムニ?
 「「ひぃ!」」
 誠は股間を掴まれ小さい悲鳴を上げる!
 それは同時に掴んだ方をも驚かせた。
 誠の目の前には美少年が一人。
 驚きの中、見詰め合う2人、月の淡い光が2人を夜の中に照らし上げる。
 「…ええんやで」
 「パルナス,いっきま〜す!!」


 「って、待てぃ!! これでは特定の趣味の方にしか受けんではないかぁぁ!! ワシが違うシーンを用意してくれるわ!!」


 「パルナスよ…」
 「はい」
 ファトラは寝台で、付き人を誘う。
 「さぁ、いつものように」潤んだ瞳を、彼女は少年に向けて言った。
 「はい、ファトラ様…」
 パルナスの小さな手が、ファトラの薄い衣類に掛かる。
 パサリ
 小さく乾いた音と伴に王女のシルク地の衣が、肩から腰まで落ちる。
 仄かに紅潮した、ファトラの素肌が露になり…



 ストレルバウの後ろ頭
 ストレルバウの後ろ頭
 ストレルバウの後ろ頭



 そしていつもの夜は過ぎて行く…
    おわり


 「ふぅ、良いもの見たのぅ,お主等。 ん? 見てない? いや見えなかった?? ふむ、それは済まなかったのぅ,運が悪かったと諦めておくれ,ぐふふぅ」
 老人はたたずまいを直し、椅子に腰掛ける。
 「『もしも』の話、如何じゃったかの? 御意見、御感想や他の「もしも」などあればどしどしとワシの元まで聞かせて欲しいものじゃ。それでは、今日の講義はここまで。また来週、お会いしようかのぅ…」
 カメラ視点は博士を中心にフェイドアウト,そのまま書斎の扉が閉ざされた。
 「さて、巻き戻し巻き戻し…」
 そんな声が書斎から聞こえてくる…ような気がする。


 EDテーマ

大人の階段の〜ぼ〜るぅ〜♪ 君はまだ、シンデレラっさぁ〜♪


この番組は、健やかな青年を育てるロシュタリア王立学院がお送りしました。