賢人達の憂い



 ロシュタリアの王城,そのテラスに、この国の文と武を司る二人が話し合っていた。
 通り掛かりの城の侍女達は、敬意を込めてそんな二人を眺め、通りすぎる。
 そう、彼ら二人はこれからのロシュタリア,いや、エルハザードについて議論を交わしているのである!
 「不思議なんじゃ。どうしてエルハがこぅ、あまり流行らないのかが…」
 ふぅ、と学術顧問のストレルバウは溜息を溢した。
 「そうですな、博士はその原因と対策をどのようにお考えですか?」
 問うはロンズ侍従長である。
 「君はどう思うかね? ロンズ侍従長?」
 試す様に尋ねる学術顧問。ロンズはううむと一声唸り、そして一言。
 「…萌えるキャラの不足、でしょうか?」
 「そんなことはあるまい。一時期一世を風靡した無表情キャラと、掃除好きなアンドロイド,この2つが融合したイフリータというものがエルハザードにはおるではないか」
 ふるふると首を横に振ってストレルバウは反論。
 ロンズはもう一度、小さく唸り、
 「そうですが…組み合わせが悪かったんではないでしょうか?」
 「ではイフリーナはどうかね? ドジで掃除好きというところは全く同じじゃぞ?」
 「…やはり時期尚早だったのですかね?」
 そんな意見にようやくストレルバウも同意する。
 「そうかも知れぬなぁ。そうじゃ、君はどんなキャラをこのエルハザードに求める?」
 「それを私に言わせますか! そんなこと、言うまでもないでしょう!」
 ロンズの目が輝き、口が滑らかに動いて己の意見を吐き出した。
 「これからの時代は委員長です、博士。委員長が必要です!!」
 「ほほぅ、無論メガネっ娘で神戸訛りの関西弁を話すとでも言うのか?」
 「…何故分かったのです? 私の言おうとしていることを…」
 驚きに目を見開き、ロンズ。それに対し、ストレルバウの瞳には怒りがこもっている。
 「ばっかもぉぉん!! 既存キャラをパクってどうする! 貴様には…貴様にはプライドというものがないのかぁぁ!!」
 「うう…申し訳ありませぬ」
 「それに委員長キャラならばアフラ殿がいるではないか。まぁ、この世界にはメガネがない(らしい)のでそこは我慢してもらうしかないがの」
 「くぅ…今ほどこのエルハザードという枠を憎らしいと思ったことは御座いませぬわ!」
 「なおこのエルハザードでは下着をはくという習慣もないそうじゃ(秘密本より抜粋)
 「んな!! それではチラリズムという私の美学は?!
 「…漢らしい美学といえば美学じゃが。まぁ、ちと辛いものがあろう。だが不審な行動は田代まさしのように憲兵にしょぴかれるので止めておくがいい」
 「はっ!」
 涙を拭き拭き、ロンズは先達に敬礼。
 そして再び二人はテラスから眼下に広がるフリスタリカの街並みを見つめた。
 「幼馴染みの女の子というのは…どうですか、博士?」
 先程の問いの答えとして、ロンズはもう一度チャレンジする。
 「幼馴染み…かの?」怪訝そうにストレルバウ。
 「そうです、想像してみて下さい。例えば…誠殿を主人公にして」
 二人は得意中の得意である妄想能力をフル活用!


 「まこっちゃん、起きてよ!」
 布団を揺さぶり、起こさんとするは高校の制服を身に纏った少女。
 「ううん…」
 布団からは寝ぼけた声。
 「学校遅刻しちゃうよ! 罰金だかんね!」


 妄想、ストップ。
 「菜々美殿ではないのかね?」
 「…そうですなぁ」
 議論はここでまたもや中断。
 遠い目で二人はフリスタリカをぼんやりと見つめ続けた。
 「やはりここは「不器用」ではないかとワシは思うのだよ」
 ストレルバウがそう声を放ったのはどれくらい経ってからであろうか?
 「不器用…とは?」
 「ふむ、好きだけど好きと言えない,ついついふざけて言い逃してしまうとゆ〜、甘酸っぱい青春じゃよ!」
 言葉を放ちながら、自らの言葉に興奮してくる老獪ストレルバウ。
 そんな彼に鼓舞されるかのように、中年ロンズもまた目が輝き出してくる!
 「くぅぅ!! 酸っぱい、甘酸っぱいですぞぉ! 博士!! まるで一ヶ月経った雪印牛乳のように酸っぱいですぞぉ!」
 「王道といえば王道だが、最近はあまり見ないからのぅ,ここいらでど〜んと新キャラとして出てくれれば、注目されるじゃろうて!」
 「あ……博士、ふと思うのですが」ロンズは唐突に思い当たった様に冷静に戻った。
 「何だね?」
 「シェーラ殿がそれにかぶってませんか?」
 沈黙。
 気まずい沈黙を何とか破ろうと、ロンズは無理矢理に呟いた。
 「触覚キャラ…これもまた萌えの一つに挙げられませんでしょうか?」
 「ううむ、確かにそれは一理あろう。最近ではラブひなの成瀬川や乙姫を筆頭に寝癖としか思えないものが続々と出てきているからのぅ」
 「となると今後はエルハザードにおける触覚キャラ…ディーバ殿を前面に押し出して行けば!」
 ロンズの提案に、しかしストレルバウは首を横に振る。
 「いや…アレは触覚そのものではないか。それに…歳が行き過ぎておる」
 「一人、忘れたらアカンで,博士!」
 若若しい声が、二人の背後に刺さった!
 慌てて振り返る二人。
 そこには…
 「誠殿?!」ロンズが怪訝に呟く。
 このようなエルハザードを左右する談義を、こんな若造に何が分かるものか、そう言わんばかりだ。
 「エルハザードの触覚キャラならば…クァウールさんを置いて他にいませんやろ?」
 「くっ! さすがは誠殿…このストレルバウ、恐れ入ったわい」
 「はっはっは,博士も一本取られましたな」一転,誠に向ける視線に敬意を込めるロンズだ。
 誠は続ける。
 「さらにクァウールさんは『ボケ』もありますんで、フィールドに+5の修正が加わります」
 「しかしのぅ、誠くん,彼女一人だけではこのエルハザードは救えまい」
 ストレルバウのしかし悲痛な言葉に、誠は自信を持って答えた。
 「僕が思うにここはアブノーマルで行くのはどうですかね?」
 「ほほぅ」頼もしい、言わんばかりのロンズに、
 「君からそんな意見が出るとは思いもよらなかったわい」成長する息子を眺めるような、そんな視線を向けるストレルバウだ。
 「僕も日々勉強してますからね。今の世の中はもぅ、普通の料理じゃ飽きてしまっておるんです」
 「で、君の言うアブノーマルとは?」
 「それはですね………」
 考えこむ誠。細かく詰めてはいなかった様だ。
 「年増?」
 「ディーバ殿?」
 「人妻?」
 「ミーズ殿?」
 「…レズ?」
 「ファトラ姫?」
 「…ロリ?」
 「アレーレ殿?」
 「獣?」
 「ウーラ(嘘)」
 果てしない問答に突入した、そう思われた瞬間だった。
 「博士、大変ですぅ!」
 叫びが、3人の背後から!
 慌てて駆けて来るのはアレーレである。
 「どうしたのかね、アレーレくん?」
 肩で息をする彼女に、好々爺の顔で尋ねるストレルバウ。
 アレーレはようやく一息落ちついて、言葉を選ぶ様に呟いた。
 「イフリータが…いえ、天野由梨さんが…」
 「なんかあったんか?」
 イフリータの単語に、誠の眉に皺が寄る。アレーレは戸惑いつつも、しかしはっきりとした口調でこう言った。
 「変な宗教にひっかかって、声優辞めちゃったそうですぅぅ!!」
 「「なにぃぃぃぃぃ!!」」(実話らしい)


 どうする? 誠、ロンズにストレルバウ!?
どうなる? 神秘の世界エルハザード?!
とゆ〜か、本人が神秘に「なって」どうする?!?!
嗚呼,エルハザードよ、永遠なれ………