2ndステージ記念SS 


 抜き足差し足、
 廊下を歩く老人のその肩を、ガッシと掴む者がいた。ビクリと老人は全身を震わせ、ゆっくりと後ろを振り返る。
 「ストレルバウ博士、これから大事な会議があるのですぞ」
 「ロ、ロンズ殿…」
 有無を言わさぬ迫力の侍従長に、学会の権威は思わずどもる。
 「また、『あちらの世界』に遊びに行かれるつもりですな。いけませぬぞ!」
 「誠殿に危険が迫っておるのじゃよ!」
 しかし老人の言葉に侍従長の態度は全く変わらない。
 「またそれですか。私は知っているのですよ,有明…という言葉を」
 「いや、その、ま、それもあるが…しかし今回はマジなのじゃ。誠殿に危険が、ひいては向こうの世界に危険が」
 パチン、ロンズは指を鳴らす。
 それを合図に廊下の脇から数人の屈強な衛兵が姿を現し、ストレルバウを取り囲んで持ち上げた。
 「話を、話をきいておくれ!!」
 「さっさと会議室にお連れしろ」
 「「はっ!」」
 「マジなんじゃよ〜、下二桁が…」
 ロンズの見送る中、ジタバタしながらストレルバウは連行された。
 衛兵達は慣れた手つきで老人をあやしながら廊下の向こうへと消えて行く。
 「観念なさい。いい加減にしてくださいよ」
 「はいはい、分かりましたよ,おじいちゃん」
 「昼御飯はさっき食べたでしょ!」
 「下二桁、下二桁がぁぁ〜」
 虚しい叫びが、白亜のロシュタリア城に響き渡る………


みれにあむ


 艶やかだった。
 思わず誠は彼女から目を逸らしてしまう。
 「やはり似合わないか,誠…」
 もともとハスキーな声をさらに落胆に沈めて、まるで美を凝縮したような彼女は俯く。
 慌てて誠はぶんぶんと頭を横に振った、否定である。
 「そんなことあらへん! えらい似合うとるで,イフリータ」
 「ならばどうして私を見てくれないのだ?」
 言われて誠は困りながらも、彼女に視線を固定。
 赤い生地に白い小鳥が描かれた晴れ着に身を包み、ウェーブのかかった髪を上に上げて束ねている。着物の襟から覗くうなじに妙な色気が醸し出され、いつもは鋭い紫紺の瞳は何処か柔らかなものが見て取れた。
 「あ、その………きれいすぎて僕なんかが見るのがもったいないと言うかなんというか…何言ってるんやろな」誠は苦笑。そんな彼にイフリータは顔を赤らめ、小さく微笑む。そして、
 「さ、誠,行こうよ。除夜の鐘、突くのだろう?」
 言いながら彼女は彼の腕を抱く。
 誠は目と鼻の先にある彼女をジッと見つめ、
 「ああ。ほな、行こか!」



 ご〜ん
 ご〜ん
 鐘の音を遠く聞きながら、二人の男女は人込みの境内に並んでいた。
 「鐘は突けたけど、お参りには年越しそうだな」
 「そやね。まぁ、行列の中で2000年も良いんやないか?」
 二人は微笑み合う。
 やがてどこからでもなくカウントダウンが始まる。
 5
 「もぅ1999年もお終いかぁ」
 4
 「今年も色々あったな、誠」
 3
 「うん。来年も今年より楽しくしよな、イフリータ」
 2
 「できるさ、お前と一緒なら」
 1
 「二人一緒なら、な!」
 0!!
 「?!」
 行列のあちらこちらで所構わずおめでとうコールが鳴り響く中、イフリータの瞳から輝きが消えた!
 ボコリ
 「イ、イフリータ?!」
 彼女の端正な顔が、歪む。
 ボコリボコリボコリ…
 「え…え…ええ?!」
 顔だけでない,体全体が妙な動きをする。
 赤い着物の下では何が起こっているのか,まるでグレムリンに水をかけた時の様に何かが出っ張ったり引っ込んだりしていた。
 やがて…
 「ゲハッ、ゲハッ、ゲハハハハハハハハァァァ!! ゼンマイの精・イフリート。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん,ナリナリナリナリナリィィィ!!!」(声:野太い天野由梨)
 「な!」
 誠は絶句する。彼の目の前に立っているのは、あの鬼神イフリータではなかった。
 赤い着物を窮屈そうに着込むは、赤銅色の肌とむっきむきの筋肉の鎧を身に纏ったスキンヘッドの男。
 身の丈2mはあろう,着物から伸びる手足は範間勇次郎並みの鍛え方をした様に見える。
 「さぁ、我が主よ。アッラー(ぷ)との契約に基ずき、3つだけ何でも願いをかなえてしんぜよう」(声:野太い天野…以下略…)
 「い、い、い…イフリータ?? っつうかアッラーって一体?? それに(ぷ)ってなんなんやぁぁ!!!」叫ぶことで現状を打破しようともがく目の前の青年に、筋肉魔人イフリートはチッチと指を鳴らす。
 「イフリートなり! さぁさぁ、何でも3つだぞぉ、3つだぁぁぁぁ!!」(声:野太い天…以下略…)
 「…3つ叶えたら、イフリータはどうなるんや?」
 「イフリートだ! 3つ叶えたら私は自由になれるのだ! だからさっさと願いを言えぃ!」(声:野太い…以下略…)
 どびしぃ、指差され誠は絶句。しかし、はっと気を取り直してぽんと手を叩いた。
 「暖かい午後ティー2つ買ってきてぇな。はい、これお金」
 言って誠は千円を彼に手渡す。
 「おつりはちゃんと返してな」
 「……………ワシ、パシリかい?」不服そうに魔人。だが誠に無言で頷かれ、しぶしぶ行列を離れて買出しに出かけて行った。



 数分後。
 「さぁ、次の願いを言えぃ! あちち…」誠に缶ジュースとおつりを手渡し、イフリートは迫る。
 「うん、じゃぁ、今年の紅白はどっちが勝ったか、見てきてもらえへん?」
 「……………あのなぁ、もっとぶわぁっとした願いはないのか? 世界征服とか」
 「そんなんは僕の知り合いだけで十分やで。さっさと見てきてや」
 魔人はやはり不服丸出しで誠の前から離れて行く。



 再び数分後。
 「ヒロミ郷のアチチが好評を得て、白組が優勝だと」
 「ほぅ、そうなんかぁ。今年のあの二人の仮装はどんなんやった?」
 「さぁ?」
 「使えん魔人やな」
 「くぅ…」あっさり評され、イフリートは心で涙。
 ともあれ、願いはあと一つである!
 「では最後の一つは!」
 「イフリータの下二桁を直しておいてな」
 にっこり笑って言い放つ誠に、イフリートは目が点になる。
 「はい?」
 「イフリータの下二桁を直しておいてな。なんでも叶えるんやろ?」
 二人の間に、冬の寒い風が吹いた。
 「ちくしょ〜!!!」
 泣きながら雄叫びを上げるイフリート。その姿がボコリ、ボコリと再び変形し…
 「…あれ?」
 右を見て、左を見るイフリータの姿がそこにあった。
 そんな彼女に誠は優しく微笑む。
 「今年もよろしくな、イフリータ」
 「うん、あけましておめでとう,誠」(声:いつもの天野由梨)
 気のせいと取ったか、イフリータもまた笑って答えた。その彼女の手に暖かい缶紅茶が手渡される。
 「あれ? いつ買ったんだ?」
 「ま、な。寒いやろ。もうちょっとで賽銭箱や」笑いながら誠は己の缶を開ける。
 「そうそう、紅白な,イフリータの予想通り白組が勝ったで」
 「そうなのか! …でもなんで知ってるんだ?」
 「まぁ…ほんと、世の中には色々あるもんやね」
 「??」
 腑に落ちない表情のイフリータに笑顔を向けつつ、誠は思う。
 今年もいい年であります様に………



Happy New Year !!




あとがき

 2ndステージ優勝に輝いたイフリータのSSでございます!
 何だか相変わらずふざけまくってますね〜、許せ!
 さて、総合優勝は誰でしょう? なんと、この人だぁぁ!!



2000.2.2. 自宅にて