特番/玄海灘でシャウト♪
この番組は2001年の12月末日に収録されたものです。
「さーて今年もやってまいりました,波飛沫舞う玄海灘!」
暗雲立ちこめる崖っぷちで、マイク片手にノリノリな彼女は陣内 菜々美。
「言いたかったけど言えなかったあの言葉,胸に溜まったあのセリフ,年の瀬を前にして、今それをここでぶちまけてもらいましょー♪ 審査をするのはこの方々だー!」
彼女が指差す先には横一列に並んだ審査員席。
何故か席につく全員は覆面だ。
それもそのはず、彼らがこの冬の玄海灘に向って一人づつ叫ぶ、審査される側でもあるからだ。
「放送の都合上、挑戦者には覆面をかぶって頂いております。では最初のトライはこの方っ! どうぞ、思うが侭にシャウトしてくださいっ!」
いつも以上にハイテンションな菜々美に押し出されるは、青年と思われる体格の覆面。
彼(?)は崖っぷちが恐いのか、ややおぼつかない足取りでその先端まで辿りつくと、大きく息を吸いこんで、
「僕の関西弁はエセやないんやーーーーーー!!」
叫んだ、コレ以上もないくらいに叫んだ。
「さーて、判定は?!」
審査員達に問う菜々美,覆面達は思い思いに点数の書かれたプレートをテーブルの上に立てて行く。
「2点、3点、1点、4点、2点………合計12点! コメントを聞いてみましょう」
彼女は審査員の一人にマイクを突きつけた。
「今のイントネーションすら、エセやおまへん?」
クールな女性の声だった。
「そーですよねー,では最低基準点20点に達しなかったので、落ちてもらいましょう!」
「え、ちょ、菜々美ちゃん?! 落ちるって?!?!」
ドン!
小さな爆発音と共に青年の足下が崩れ落ちる。
同時、
「あ〜〜〜〜〜〜」
誠青年は荒れ狂う玄界灘に落ちて消えて行った。
「さて次の挑戦者はこちらだー!」
落ちた誠男を気にするでもなく、菜々美は2人目を崖っぷちに。
長身の、女性の様だ。
「さ、どうぞ!」
覆面は大きく息を吸いこみ……
「ウチは16歳おます!」
あまり大きな叫びではないが、気持ちはこもっているようである,大きく肩で息をしている。
「判定は! 3点、4点、7点、4点、5点で23点!」
覆面の彼女はほっと一息。
「コメントを聞いてみましょう」
菜々美は言って、赤毛が覆面からはみ出た審査員にマイクを。
「まぁ、だからといって老けて見えるのはどうにもならないんじゃねーか?」
すこーん!
覆面の頭に石が飛んだ。
「いって! 石投げるなよ、アフラっ!」
「大人びいているって言え! それに名前言うなーーー!」
「さて、バカは放っておいて次にいってみましょう、どうぞ!」
やはり次も女性の様だ、それも2人組。
やや背の高いのと、低い2人だ。2人は荒れる玄海灘を眼下に下し、
「「ビバ、美少女!!」」
波を突きぬけ、遥か彼方まで駆け抜けた。
「さて、評価はっ?! 5点、4点、3点、5点、6点、23点だっ」
「次はワシの番じゃな」
菜々美にコメントを求める暇すら与えないまま、覆面から白い髭をこぼした老人らしき男がのそり、立ち上がり崖っぷちへ。
「あ、ではどうぞ」
戸惑う菜々美を一瞥、老覆面は叫んだ!
「学術顧問は偉いんじゃぞ! 尻くらい触ってもええじゃないかーーーー!!」
叫び終えた彼の後ろ姿は、何かを成し遂げた漢の背中だった。
「………評価は、0点、0点、0点、0点、0点……ぶち殺すぞ、エロジジィ!」
菜々美がクィっと親指を下に向けると同時に老覆面は足下から爆破,荒れ狂う海の中に消えていった。
「次は私だな」
今度は杖をついたスタイルの良い女性のようだった。
彼女は崖に臨み、大きく息を吸いこんでこう一言。
「浮気しとらんで、さっさと迎えに来いや、ゴルァ!!」
鬼気迫る叫びに、審査員も唖然。その点数は、
「8点、7点、8点、9点、6点,38点と高得点ですっ! さすがにはっきりしない誠っちゃんに文句がある人達は多いみたいですねー、私もですけど。さて、次は」
菜々美はそこで絶句。
次の挑戦者は、覆面はしているものの明らかに人間ではないからだ。
虫の骨格を持つ人外の昆虫――バグロムというヤツだ。
それもここに来ているのはそのなかでも知名度の高い、確かカツヲとか言った……
そのカツヲは叫ぶ。
「ウゴウゴウガーーーー(実は私、女の子なんです)」
「「なぬーーーーーー?!?!」」
「ウゴウガグー!(そして3年経つと成虫になって、人型になれるんです!)」
「「なんですとーーー!!」」
ちゅどーん!
問答無用で爆破スィッチを押した菜々美、カツヲは海に消え行く。
「敵(ライバル)になりそうな種は早めにつまないとね。さて次はコチラ!」
菜々美の紹介より早く、定位置に立ったのは赤い髪を覆面からはみ出している女性だ。
大きく息を吸いこんで、そしてシャウト!
「誠、好きだーーーー!!」
ちゅどーん!
「どさくさに紛れて何言うかっ!」
立て続けの爆破で彼女を海の藻屑にする菜々美。しかし彼女の処置に止めるモノはいないのが不思議なところではある。
菜々美は切れる息を何とか整え、営業スマイルに戻る。
「さて、次の叫びが最後となりました。どうぞ!」
最後もどうやら女性、おっかなびっくりに崖っぷちに立ち……
足下を見る、そこに一匹のフナ虫が走っていた。
「いやぁぁぁ、虫ぃぃぃぃぃぃ!!!」
そんな叫びと共に、海の水が一斉に吹きあがる!
凶器となって押し寄せる玄海灘の波はあっさりと菜々美と審査員達を呑みこんで、全てを流し尽くして行く。
「がぼっ、そ、それではみなさん、また来年ぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜」
流されて行く菜々美、やがて映像も迫る波の飲まれて、消えたのだった。
この番組は、ロシュタリア王立学院の提供でお送り致しました。