Letter



 分厚い古書を読みふける誠の膝に、暖かい何かが乗ってきた。
 「? どないした,ウーラ?」
 誠は膝の上に立つくっきりとした瞳のウーラを見つめる。
 と、その口に葉書がくわえられていた。
 「絵葉書?」手に取る誠。
 ウーラはそのまま、彼の膝の上で丸くなる。
 誠は葉書をまじまじと見つめた。雪の降る山の絵が描かれた絵葉書に、
 奇麗ではないがしっかりとした自我を感じる文字が連なっている。
 その筆跡は誠の良く目にするものだ。学術書にではなく。
 穏やかな微笑みを浮かべて、彼は目を通し始めた―――――


 拝啓 水原誠 様

 お元気ですか? イシエルです。
 私は今、ガナンの北にある高山にいます。
 雪が腰辺りまで積もっていて、寒さが身に染みます。
 ロシュタリアは年中暖かいので、旅をする
 この身としてはとても羨ましいわ。


 「そうやなぁ,暦では冬やもんな。東雲やったら息が白いって、
 菜々美ちゃんが言うてくれるから季節を感じるんやけど」
 しばし懐古し、改めて彼は葉書に目を戻す。


 さて、ここには温泉があるのです。
 山の奥に隠れた秘湯なんだって。
 今ね、ゆっくりと浸かりながらこれを書いているのよ。
 効用は……リウマチ? 何よ、これ??
 他には、ええと、美容に効くってさ,ミーズ用に少しお湯を持って返ろうか?
 あら、雪がちらほらと降ってきたっしょ!
 ん〜、月見酒だけのつもりだったけど、
 雪見酒っていうのも良いものね。
 今度、一緒に入りましょうか? ふふふ……


 膝の上のネコが顔を上げる。
 「マコト,顔ガ赤イ」
 「何言うてんのや,ウーラ」
 言われた青年はネコの背を優しく撫でた。
 ゴロゴロゴロ……
 ウーラは喉を鳴らして顔を自分の腹に埋める。


 私は元気です。
 誠もロシュタリアが暖かいからといって、
 薄着で寝ないように気を付けてね。
 夜は肌寒くなるんだから。


 「僕に姉がいたら、こんな感じなんやろか? 気を付けますよ、イシエルさん」


 誠の研究に役立ちそうなものを幾つか手に入れたので、
 おみやげ代わりに持っていきます。
 その時には、たまになんだからお酒に付き合ってね。



 「底無しやさかい……たまにはほどほどにしとってや」
 苦笑する誠。


 それでは、乱文乱筆ながら失礼します。
 この手紙が届く頃―――――


 
 最後まで目を通した誠は、反射的に後ろを振り向いた。
 コンコン,同時に扉を軽く叩く音が響く。
 「ウニャ」ウーラが動いた誠に驚いて、慌てて床に下りた。
 誠は立ち上がり、扉に向かって歩み出す。
 そしてゆっくりとそれが開き………

 「ただいま,誠!」

 「おかえり、イシエルさん」



この作品はおださがさんのHPへ20000Hit記念としてお送りしたものです