太陽が一日の仕事を終え、地平線の向こうに消えてから数刻。
「ん〜、一段落…やな」
青年は椅子の背を預けて思いきり背伸びする。
その瞬間、穏やかだった彼の時間は線路を踏み外したのだった。
カルテットになる刻
??:「「「一月〜は正〜月〜で酒が飲めるぞぉ〜♪」」」
遠く聞こえてくる歌声に、誠は緊張!
??:「「「酒が飲める飲めるぞ〜酒が飲めるぞぉ〜♪」」」
誠:!!
着実に近づきつつあるその声に、彼は周囲を素早く見廻す。
部屋の扉と、そして目の前の窓。
誠:「逃げな!」
誠は迷いなく窓を選び、鍵を外す。
ガラリ!
イシエル:「二月〜は旧正〜月〜で酒が飲めるぞぉ〜♪」
誠:「うっわぁぁぁぁ!!」
ニヤリを笑みを浮かべる目の前の女性に、
誠は驚きに余りに飛び退いた!
ガチャリ,背後の部屋の扉が開く。
シェーラ&藤沢:「「酒が飲める飲めるぞ〜酒が飲めるぞぉ〜♪」」
誠:”出たな、酔いどれトリオ!”
振り返ることなく青年はある程度を察知した。
ドン!
シェーラは千鳥足のまま、一升瓶を床において座り込む。
シェーラ:「ま、飲もうぜ、誠」
誠:「ちょ…シェーラさん。こんなところで…」
イシエル:「アタシらは気にしないっしょ」
誠:”僕が困るんやねんけど…”
藤沢:「ま〜、固いこと言うなって」
藤沢に無理矢理床に座らされる誠。イシエルは窓から侵入し…
ガシャン!
イシエル:「あ、インクビンひっくり返しちゃった。なにさ、誠! これハヤシインクじゃないべさ! こんなんじゃ良いマンガは描けないっしょ!!」
誠:”…はぅ”
勤勉な青年は諦めて三人の輪に加わる。
誠:「何もここじゃなくても街には飲み屋さんは沢山あるやないですか?」
イシエル:「だって…」
藤沢:「なぁ?」
シェーラ:「飲み尽くしちまったしな」
誠:「へ?」
イシエル:「何軒ハシゴしたっけ?」
藤沢:「1,2,3…」
髭づらの中年は親指、人差し指、中指と折ってゆき…
藤沢:「数え切れんな」
ボソリ呟く。
シェーラ:「ロシュタリアは酒が少なくていけねぇや」
イシエル:「炎の神殿の方が貯蔵してある酒量は多いんじゃない?」
シェーラ:「おおぅ! 火事でも起こったら神殿なんて跡形も残さず木っ端微塵に爆発だろうなぁ」
藤沢:「火気厳禁ですな?」
シェーラ:「そりゃ無理な注文ってもんだぜ,センセ!」
イシエル&藤沢&シェーラ:「「「がっはっは〜〜〜」」」
誠:”だ、ダメや,この人達、完全に酔っ払いや”
イシエル:「さ、誠もドウゾ!」
誠は手渡されたコップを持ちつつ、藤沢に向かって真剣な目を向けた。
藤沢:「? どした?」
誠:「未青年に御酒飲ませてええんですか?」
藤沢の瞳に光が灯る。
誠:”そや、センセは聖職やろ! 未成年が道を踏み外さない様にしっかり指導せんと!”
藤沢:「シェーラ君!」
シェーラ:「ん?」
藤沢:「君は何歳だね?!」
シェーラ:「16」
藤沢はキッと誠に振り返り、
藤沢:「年下は飲んでるのに、お前は飲まんつもりか! 誠!!」
目がすでにイッてしまっていた。
誠:「…はぁ」
と、誠はシェーラの手にしているビンに目が向く。
酒瓶にしては変わったビンだ。
茶褐色のガラス材質に大き目のラベルが張ってある、
誠が良く何処かで見たことのある………そう!
誠:「ああああああ!!」
シェーラ:「何だよ、誠?」
誠:「それ、薬品庫にしまってあるメタノールやないですか!!」
シェーラ:「仕方ねぇだろ。街には酒が一滴も残ってねぇんだからさ」
イシエル:「こっちはエタノールっしょ」
藤沢:「こいつはオキシドールだ」
誠:「エタノールはまだしも、二つとも飲んだら死にますよって!!」
藤沢:「オレ達の胃袋は」
シェーラ:「そんなにヤワじゃないのさ」
誠:「あ〜、もぅトルエンでもダイオキシンでも何でも飲んどってください」
藤沢:「違うぞ、誠!」
誠:「何がです?」
藤沢:「トルエンは吸うもの…」
誠:「アンタ、ホントに聖職者かぁぁ!!」
ちゅど〜ん
誠:「?!?!!?」
地響きになって届いてくる轟音に、誠は慌てて窓に駆け寄った。
窓から見える景色、ここロシュタリア城の端にある一角が炎を上げて燃え盛っているではないか。
遠く、「消化隊はまだか?」「テロか?!」「見つけ次第即射殺せよ」などなどが聞こえてくる。
爆発の起きた場所、そこは…
誠:「薬品庫?」
彼は慌てて容疑者(もしくは犯人ともいう)にわなわなと振り返った。
イシエル:「ま、よく言うっしょや。『発つ鳥、跡を濁さず』って」
藤沢:「四字述語では『証拠隠滅』」
シェーラ:「ちゃんと壁には『アフラ参上 夜露死苦!』ってサイン入りだぜ」
誠:”ダメや、この人達、ヒトとしてもぅダメや…”
藤沢:「『終わり良ければ全て良し』だな? 誠?」
誠:「勝手に終わりにせんといてやぁぁ!!」
イシエル:「飲みが足りないっしょ、誠」
言いながらコップに一升瓶の中身を注ぐ。
純水のような透き通った透明の液体だ。
イシエル:「これはココリコ山系の地下水で作ったっていう清酒の逸品っしょ」
彼女は藤沢、シェーラにも注いで行く。
シェーラ:「えと、では改めて…何について乾杯だ?」
藤沢:「40000の夜に,だな」
誠:「?」
イシエル:「ま〜、そういうことで40000の夜に♪」
一同:「「「「乾杯!!」」」
チィン!
コップが鳴り、四人はまるで水の如く飲み干す。
誠:「なんや、水みたいなお酒ですね」
シェーラ:「少し塩味がするような」
藤沢:「変わった酒だな、何て銘柄だ?」
イシエル:「んとね、清酒『マッチョの汗』」
誠&シェーラ&藤沢:「「「ぶふぅ!!」」」
イシエル回避ロール…70%成功。
イシエル:「うぁ、汚いべさ!」
誠:「何てもの飲ませるんですか?!」
イシエル:「変わってる名前なだけっしょ。ね、シェーラ?」
シェーラ:「アタイはもぅ、これはいいや…」
藤沢:「ああ、そうそう、誠。生中とホッケ頼むな」
誠:「だからここは飲み屋違いますって」
シェーラ:「サービスの悪い店だな」
誠:「あのね…」
イシエル:「じゃ、こっちの大阪のお酒「魔王」は?」
誠:「どうしてそぅ、怪しい方へ怪しい方へと行こうとするんです?」
藤沢:「生中まだか?」
誠:「ここは飲み屋じゃないって言ってるやないですか!」
シェーラ:「ツマミならさっき薬品庫からパクってきたニトログリセリンを綿に染み込ませたやつがあるぜ」
藤沢:「甘くて美味いんだよな、コレ」
イシエル:「通だね、二人とも」
誠:「いつの時代を生きてきたんです?」
戦争直後です。
シェーラ:「マスター,とんぺい焼きはまだ?」
誠:「ここは店とちゃう言うとるやろが!」
イシエル:「うぁ、誠が怒った!」
シェーラ:「うわ〜ん(嘘泣き)」
藤沢:「女の子を泣かせるのは良くないぞ、誠」
誠:「…イシエルさん、お酒下さい」
…………
………
……
…
イシエルは背中に感じた僅かな肌寒さに目を覚ます。
夜明けまであと数刻。
床に散らばるは空の酒瓶に食べかけのツマミ。
そして毛布や座布団にくるまった自分を含めた四人の人間。
「………」
寝ぼけ眼のまま彼女はそれらを見渡し、再び毛布を羽織って床に寝転んだ。
そして手近に寝転ぶ青年を、背中から強く抱き締める。
「あったかい…」
彼の背中に顔を埋めてイシエル。
「うう〜」
抱き枕にされた青年は僅かに呻き声を上げるが、それは抱きしめた彼女の寝息と、何より残る二人のいびきに飲まれ、消えて行った。
空の白みはやがて金色に変わる―――
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