たとえばの話
誠は、シェーラは、そして藤沢は絶句していた。
ここは鬼神イフリータが眠ると言われる遺跡。
その中心部と思しきこの場所で、少し小高い機械の山の上に一人の男の姿があった。
「ひゃーっはっはっは! 水原 誠ぉ、私は手に入れたぞ。最凶の兵器を、この世界を滅ぼすほどの存在をっ!」
甲高いバカ笑いをあげながら彼は、手にしたゼンマイを足元にいるのであろう、鬼神に突き刺し回し始める。
「やめや、やめるんや、陣内!!」
「ひゃはひゃはひゃーーーっはっはっはーーーー♪」
ごごん
遺跡全体が鳴動する。
そして、陣内の前に何かが立ち上がった。
「「こ、これは!!!」」
3人は息を呑む。
先エルハザードの遺産・最終決戦兵器・最終兵器彼女(?)たる鬼神のその姿に。
まずは無表情な八角形の顔――いや、無表情なのは良い。兵器なのだから。多分。
それ以前に顔と呼べるのか? 申し訳程度に目と鼻と口と思しき木片が張りついている。
体――剥き出しの歯車にバルサ材のような角ばった木枠。そこから細い両手(?)と両足(?)が伸びていた。
そして……腰には砲台、か???
ロボットだ。
それも明らかに木製の、小学生の低学年辺りですら夏の自由工作で提出をすることを躊躇いそうな………そんなロボット?
「ひゃーっはっはっは!! どうだ、誠! これぞ、これぞ中華4000年の技術力の粋だっ!!」
「ここはエルハザードやろ?」
関西人主人公のツッコミは場をシンとさせるには充分だった。
「え、ええい! ごちゃごちゃと。まずは鬼神イフリータ――いや敢えてこぅ呼ぼう。先行者よ!」
「「先行者?!?!」」
誠は驚愕した。
”ええんか、これで……これで?? アレが僕の……ヒロイン?!”
ガクガクッ,誠は痙攣を起こして倒れた。
「ま、誠?!」
「どうした、誠っ!!」
「嫌や……あんなんヒロインなんて絶対……」
ぶつぶつ白目で呟く誠を抱えながら、シェーラはキッと陣内を睨む。
「へん、そんなオンボロに何が出来るってんだ?」
陣内はニヤリ、微笑み先行者に一言。
「見せてやれ、先行者」
先行者はギギギ、と動き始める。
その動きは、そう、まるで………
「「コマネチ?!」」
誠と藤沢の叫びが重なる。
先行者のコマネチは次第に次第にスピードを上げて行く。
「ひゃーっはっはっはーー。良いぞ、大地の力をもっともっと吸収するのだー!」
陣内の狂気的な笑いが遺跡に響く。
やがて先行者は腰の砲台を遺跡の壁に向け―――
ちゅどーん!!
まずは光が走った、そして炸裂音と振動が来た。
思わず目を瞑った一同が目にしたものは。
「壁が、無い」
「山も一つ吹き飛んでるぞ」
閉鎖された空間だったはずの遺跡には外の景色が広がり、そしてその外に合ったはずの山が一つ消えうせている。
「これが 中華キャノンの威力だっ」
「やはりアレが…」
藤沢が悔しそうにそう呟いた。
「イフリータ、か」こちらはシェーラだ。
「くっ、アレが……鬼神イフリータなんか」
誠が悔しそうに吐き捨てる、と。
「アレが私のわけあるかーーーーーー」
突如、叫ぶ女性の声。
遺跡のさらに深層から床を突き壊して姿を現すのは一人の女性だ。
美しいその表情はしかし、今は怒りに染まっている。
「アレを私を間違えるか? 間違えると言うのか?!?!」
服従装置なぞ何のその。自らの意思で彼女――イフリータはゼンマイを大きく振りかぶり………
―――――エルハザードは破滅した。
おわり