初夜 おまけ‐龍三×良子
Written by ◆Lumi/2sUEI


 『ドサッ』
 「!?」
 突然の物音に眠っていた良子は目を覚ました。
 よく見ると体に掛けてあったシーツが消えており、自分の裸体が露になっていた。
 そして隣で寝ていたはずの彼の姿までも消えていた。
 「いってぇ…」
 頭をさすりながらベッドの端から龍三が現れた。
 寝相が悪い龍三は寝返りを打った際にベッドからシーツを巻き込んで転落してしまったのだった。
 「大丈夫?」
 「ああ。すまねえな」
 シーツを掴んで龍三がベッドに這い上がってくる。
 「今何時になってる?」
 「えーと、2時」
 「なんだ。そんなに寝てたわけじゃないんだな」
 再び並んで寝転ぶと龍三は自分と良子の体の上にシーツを掛けた。
 「いつもベッドから落ちてるの?」
 龍三の顔を見て良子が聞いてきた。
 「そんなわけないだろ。シングルベッドに2人で寝てるんだからな。狭いんだよ」
 「じゃ、ちゃんと真ん中で寝ないとダメなんだね」
 「そういえばシェールの部屋で寝ちまった時も落ちて目が覚めたんだよな」
 「えっ…」
 龍三の思わぬ発言に良子は言葉を詰まらせた。
 「それって…?」
 龍三の腕枕から不信の眼差しを向ける良子に対し、龍三は良子を抱き寄せて言った。
 「バカ。勘違いするな。お前が消えてたときだよ。シェールも消えて、その帰りを彼女の部屋で海平とシスター茜の3人で待ってたんだよ」
 「…」
 「結局彼女はそのときは帰って来なかったけど、俺は待ってる途中で寝ちまったんだよ。だからシェールと何かあったとかそんなことはないんだよ」
 「うん…」
 抱きしめる腕に力を入れて龍三は続けた。
 「分かったか?」
 「うん…ごめん疑ったりして」
 「ダメだ許さない」
 「えっ!?」
 不安の表情を見せる良子を尻目に、龍三はすばやく良子の腕を取ると自分の背中に回した。
 「罰として、もう落ちないようにしっかり俺を抱いていろ。そうしたら許してやる」
 ニヤニヤしながら良子の顔を見る。良子は不安な表情から徐々にいつもの表情に戻っていった。
 「うん…わかった」
 良子はもう片方の腕を龍三の背中に回して力を入れて抱きしめた。
 「おっ…」
 予想よりも強かった良子の腕力と、ふくよかな胸の感触に龍三は思わず声を上げた。
 「でも龍三のほうが力強いんだから龍三が、その…あたしを抱いてたほうが…」
 「もちろんそのつもりさ。でもお前に抱かれてるっていうのを味わってみたくてな」
 良子の背中に回した手に力を入れながら龍三は続けた。
 「それに俺寝相わるいからいつの間にか腕解いてしまうかもしれないし。でもお前が抱いててくれたら俺が解いてしまっても落ちることは無いだろ?」
 「うん」
 良子はゆっくりと目を閉じて言った。
 「龍三ってまるで抱き枕みたい」
 「そうだな。お前専用の抱き枕だな。で、お前も俺専用の抱き枕だな」
 「そうだね…」
 良子は脚を龍三の脚に絡めて体を密着させた。
 「抱き枕手離すなよ。俺も離さないからな」
 「うん…」
 「じゃ、おやすみ。また朝な」
 「うんおやすみ」


 ピピピピピ……
 「良子、起きろ良子…」
 「ん…龍三…」
 カーテンの隙間から朝の光が差し込んでくる。
 ふと目覚まし時計を見ると針は朝の7時を指していた。
 「あ…おはよう」
 「おはよう。よく眠れたか?」
 「うん…」
 龍三の腕の中で、寝ぼけ眼の良子は答えた。
 「約束守ってくれたな」
 「あ…うん」
 良子の腕はしっかりと龍三を抱きしめていた。龍三は満足そうな表情を浮かべて良子に、
 「じゃ、約束だし許してやるな」
 良子の額に軽く唇を落とすと上半身を起こした。
 「龍三、目が真っ赤だけど大丈夫?」
 龍三の顔が近づいたときに、龍三の目が充血しているのを良子は見つけた。
 「ああ、これか。俺は寝なかったからな。そのためだろ」
 枕元の手鏡を持って自分の眼を見ながら龍三は答えた。
 「え、じゃ何やってたの?」
 「知りたいか?」
 視線を良子に移すと龍三はずいっと良子に顔を近づけ言った。
 「ずっとお前の寝顔見てた」
 「え…」
 「お前の寝顔、なかなかかわいかったぜ。時々唇が尖がるところなんか特にな」
 「……」
 顔を真っ赤にして言葉を失っている良子に対し、ニヤニヤしながら龍三は続けた。
 「それ以上のことはやってないから安心しろ。その続きはまた夜にな」
 「あ、あの…」
 「あ、キスぐらいはしちゃったかも。すまん覚えてねえや」
 「も、もう知らない!」