『とあるミレニアムっぽい報告書』


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


  ご〜ん
  除夜の鐘の音が、聞え始めた。
  「今年一年も、色々あったなぁ…」
  コタツに入り、何気なくTVを眺めている,どこかくたびれた風の青年は一人
  小さく呟いた。
  今、彼の頭の中では仕事場で化け猫に殺されそうになった事や同僚に撃たれ
  かけた事,核爆発に捲き込まれそうになったこと、などなど…
  「よ、よく生きてるな、オレ…」あらかた思い返して、しみじみ生きてるって
  コトはスバラシイ,思う青年・田波 洋一。
  ご〜ん
  「あと3分で2000年かぁ。ま、なんとか四畳半だけどアパート借りる事
  できたし、うるさい菊島はいないし、携帯の電源は切ったし、ひっさびさにゆっ
  くり出来るよな〜」
  ご〜ん
  ゴロリ、寝転がる田波。天井の板の木目がなにか眠気を誘う。
  ご〜ん
  もぞり、コタツの中から何かが出てきた。
  ご〜ん
  それは一匹の小さな仔猫。田波の胸の上に乗り、そこで小さくうずくまる。
  「お、まや,起きたのか?」
  「にゃあ」
  彼の言葉に答えるかのように小さく鳴く仔猫。
  ご〜ん
  ご〜ん
  ご〜ん
  やがて…
  TVの音声が一際騒がしくなった。
  『はっぴ〜にゅ〜いや〜!!! うえるかむ2000年んんん!!!』
  『『うおぉぉぉぉぉぉ!!』』
  「お、2000年になったな」寝転んだまま顔だけTVの方へ動かして、
  田波は少し嬉しそうに呟いた。
  もっとも2000年になろうが2001年になろうが、彼の生死の綱渡り
  人生がラクになるわけではないのだが。
  と、その時である。
  「にゃ?!」
  胸の上の仔猫が、小さく叫ぶ。
  「まや?」
  顔を向ける田波,途端、胸の圧迫が大きくなった。
  猫の代わりに見知った少女がそこにはいた。
  彼に跨る様にして少女が苦しげに胸を押さえている。
  「どうした? まや??」田波は慌てて上体を起こそうとするが彼女が
  乗っているのでそうもいかない。
  「く・る・し・い…」荒い吐息に彼女の弱々しいそんな声が漏れる。
  「ちょ、ちょっと,一体!?」
  田波は慌てて彼女の肩を掴む,途端、バチィと彼の手に火花が散った。
  「っだ!」
  弾かれる様に再び床の畳に後頭部をぶつける。
  「ん!」
  まやの姿が壊れたテレビのように揺れた。やがて霞み、ゆっくりと消え
  始める。
  それを呆然と見つめる田波の頭の中に、2,3日前の眼鏡をかけた同僚
  の言葉が不意に蘇った。
  『化け猫にも2000年問題ってあったりして』
  オフィスのPCをチェックしながら、彼女は笑ってそんな事を言っていた。
  「くぅ!」薄くなりながら、まやはうめく。
  「ま、まや!」
  田波ははっと我に帰り、身を起こして彼女を強く抱きすくめる。
  バチィ!
  先程以上の静電気に似たショックが立て続けに彼を襲う。
  が、田波は歯を食いしばり強く、強く彼女に触れようと両腕に力を入れ
  続けた。
  まるで磁石のような反発の力が腕の中で生まれる。それを押しつぶす様
  に、強く強く…
  田波には長く感じられただろうが、それはものの数秒。
  ポン!
  力の暴発か,気の抜ける破裂音とともに、反発力は唐突に消え、田波は
  まやを押し倒した。
  ご〜ん
  ご〜ん
  ご〜ん…
  108つが鳴り止む。
  TVからはコメディアンのつまらない漫才が垂れ流されていた。
  「…う」田波は薄く眼を開く。
  「大丈夫か…まや?」慌てて腕の中の少女を見て…
  硬直
  「…田波さん」まやが抱かれながら顔を上げた。
  「ありがとう,掴んでてくれなかったら…消えちゃうところでした」
  そう答えるまやのぱっちりとした瞳は潤み、頬はほんのりと赤く染まって
  いる。
  何より…
  「まや、なんか大きくなってないか?」かすれた声で田波は呆然と言った。
  まやは自分の姿をチラリ、見る。
  スラリと伸びた手足,姫萩には負けるが豊かな胸,某木村が『くびれ!』
  とか叫びそうになる腰。
  「…2000年だから」ぽそり、呟いた。
  「なんだぁぁ!! それわぁぁ!!」思わず絶叫。
  田波は己のこめかみを押さえると、なんとか落ち着こうと努力する。
  「まぁ、あとで高見ちゃんにデバックしてもらうなり修正プログラム作って
  もらうなりすればいいか。他には異常はないか?」
  心配げに尋ねる彼に、まやはしかし首を横に振る。
  「何だ? イタリアンの他にレパートリーが増えたとか、目から不可解光線
  が出るとか、今が1900年に見えて『さくら行きます!』って帝劇っぽくな
  るとかか?」
  ふるふる、首を横に振る彼女。
  肩に置かれた田波の右手を己の左手に重ねると、それを胸の所に持ってくる。
  「へ?!」
  田波の右手に柔らかい感触と、早鐘を打つような鼓動が伝わってきた。
  「胸が」
  まやは顔を上げる,真っ赤にその頬は染まっていた。そのまま彼女は田波に
  しなだれかかり、その耳に囁く。
  「胸が、苦しいんです。田波さんを見ていると…」
  一瞬の沈黙。
  「まや…」
  田波は彼女を強く抱き締めると、その白い首筋に軽くキスをする。
  「はぅ…田波さん………」まやの熱い吐息が、田波の耳元にかかった。
  彼の手が、まやの肢体をなぞって 〜〜〜〜〜
  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・
  ・・・
  ・


  バタン
  「きゅぅ〜」
  ラフ画を前に倒れ込む眼鏡っ娘。
  かなり過激な下絵の描かれた原稿に彼女のよだれが垂れ…
  「高見! 寝るなぁぁ!!」
  どげしぃ! 高乃の蹴りは桜木の眠気覚ましのツボに3ヒット,64の
  ダメージ。原稿セーフ!
  「痛いぃぃぃ!」涙を流しながら目を覚ました彼女の前には、目だけが異様
  に爛々と輝く女同人編集長の姿があった。
  「ユンケルか? ゴールドか? リゲインか? 部屋の隅で寝不足にガタガタ
  震えながら原稿仕上げる心の準備はOK?」
  「はぅ〜、高乃センパイ,あと2日で64ページなんて無理ですよ〜」
  「やるといったらやるの! 坪井,篠部、アンタ達のトライガンモノはあと
  どれ位!?」
  彼女の言葉に、半ばゾンビと化した2人の女性が顔を上げた。
  「あと〜」
  「5時間くらいです〜」
  「2時間で仕上げなさい!」
  「「はい〜」」
  その様子を改めて目の当たりにし、桜木はゴクリ,息を飲む。
  高乃はギギィ,彼女に視線を向け…
  「高見? 2時間で今描いてるジオブリ18禁モノ仕上げて、LOAN
  WOLFヤオイ本に取りかかりなさい」
  「無理ですぅぅぅ!!」
  「私の文字に不可能という辞書はないのよ!」
  「も〜訳分からないですぅぅぅ!!」
  刻は1999年12月22日。
  2000年問題以上の巨大な問題を抱えた乙女達がここにいた。



                         色々と終わってる様な気が…

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 あとがき

  1900年代最後の更新だと思います。
  さてさて、如何でしたでしょうか? 18禁を扱った人達の報告書です。
  だから18禁ではありません(なんだかなぁ…)
  ともあれ、2000年。新年も『えれくとら』を宜しくお願いします。
  では!

                                                      1999/12/28(Tue)
文/