『とある2/14の報告書』


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  2/14
  この日の田波氏は特に何かフラグが立っているでもなく、仕事に追われていた。
   
  「で、デリ〜ト!!」
  「キシャァァ!!」
  「うわぁぁ、また失敗かぁぁ! 高見ちゃん,バックアップを!!」
  「うにゅ〜〜」
  「ひぃぃ、こんな時にぃぃ?!」
  「紅の流れ星、見参!」
  どんどんどんどんどんどん!!
  「フーーー!」
  「どこ撃ってんですか、俺達を殺す気か! 梅崎さん!!」
  「峰打ちじゃ、安心せい」
  「アホー!」
  「キシャァ!」
  「「逃げろーー!」」
   
  そんないつもの仕事光景だった。
  「ど、ど〜にか封印完了」
  へろへろになりながらも田波は携帯電話の向こうに告げる。
  『ご苦労様。で、今どこにいるの?』
  蘭東の声だ。彼は彼女に向って目の前にそびえるビルの名前を告げる。
  「綾金病院です。高見ちゃんと梅崎さんが落下の拍子に捻挫したみたいで」
  『そう、ラッキーだったわね』
  「ラッキー?」
  蘭東の言葉に田波は首を傾げる、怪我をしてラッキーはないだろう。
  『実は次の仕事が入ったの,緊急よ。社長がもう向ってるから田波君も夕と一緒に
 合流してちょうだい。場所はTV塔よ』
  「…………仕事?」
  『そう、お仕事。稼げる時に稼いでおかないとね』
  電話の向こうの嬉しそうな声とは対称的に、田波はがっくりと肩の力を落として
 通話を切った。
  重たい足取りで姫萩がエンジンを温めるバモスへと向う。
  「二人は?」
  「診察待ち。俺達は先にTV塔に向えだってさ」
  「はいよ」
  特に詮索することなしに姫萩はバモスを前進させた。
  しばらく無言のまま、エンジン音とボリュームを押さえ気味のラジオをBGMに
 静かな時が流れる。
  「ね、田波君?」
  「何ですか?」
  田波は次に来るであろう、姫萩の言葉を予想しつつ問い返した。
  「煙草…」
  「吸いません」
  言葉を遮って即答。姫萩は「あ、そ」と呟き胸ポケットからラッキーストライクを
 取り出した。
  「…持ってるんだったら他人にねだらないで下さいよ」
  「他人の煙草ほど、美味いものはないんだよ」
  「…そですか」
  諦めにも似た田波の呟きに姫萩はハンドルを右に回しつつ微笑む。
  「田波君は煙草、吸ってたの?」
  「二十歳で辞めました」
  言ってから慌てて口を押さえる田波。
  「…ひょっとして、ワル?」
  「いや、そういうわけじゃ…」
  姫萩は胸ポケットから二本目のラッキーストライクを取りだし、田波の目の前に。
  「吸う?」
  「いえ」
  「そう?」
  姫萩は今吸っている煙草を灰皿に,二本目に火を灯した。
  バモスはやがて、赤信号で交差点に停止する。
  姫萩はハンドルから空いた手で、懐をまさぐると新しい煙草の箱を取り出した。
  「そんなに吸ってると体をおかしくしますよ、姫萩さん」
  「ん〜、大丈夫だいじょう〜ぶ」
  とんとん,新しい箱を開けて一本取り出し、それを…
  「煙草止めたんなら、こっちあげるよ、田波君」
  「んが?」
  田波の口に突っ込まれるのはやっぱり煙草…?
  「だから吸いませんって…あれ? これって」
  唇が甘かった。
  「シガレットチョコ?」
  「アタシの隠しおやつ」

     2月14日の二人(By 緒方 青氏)

  言って姫萩は信号が青に変わると同時にバモスのクラッチを踏んでギアをつなげる。
  バモスの加速を感じながら、田波はしげしげと己の口にくわえたシガレットチョコを
 見つめ…
  「これなら頂きます」
  「ん」
  音声ボリュームの小さいラジオから聞こえてくる女性パーソナリティの声。
  『今日14日はバレンタインデー,意中の人に貴方の愛のたっぷり詰まったチョコを、
 渡すことは出来ましたか?』
  次の信号の赤にブレーキを踏みながら、姫萩はなんとはなしに小さく微笑んだ。



                                   終わり


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あとがき

  ん〜、14日ですねぇ。
 貴方はあげる方ですか? 貰う方ですか?
 ともあれ、良い日になると良いですねぇ。
 
    PS.
      イラストは緒方 青氏に頂きました,感謝!
                 緒方 青氏のHP → TissueBox 21(閉鎖)

                                                          2001/02/12

文/