『その名にまつわるエトセトラ その1』

著者:元



 桜散る,その木の幹に背を預け、彼女は一人、佇んでいた。
 彼女は上を見上げ、散りゆく桜色のそれを掌に掴む。
 と、その後ろから一人の男が息を切らしながら現われた。
 「計画より5分の遅れだ、すまん,ソックス」
 「大して影響はないわよ,タキ」
 サングラスをかけた無精ひげの男にそう答え、ソックスは掌を開く。
 花びらが風の中へと消えた。
 「奇麗なものね」小さく微笑み、ソックス。
 「?」
 「サクラがよ」
 ビクッ
 その言葉にタキが小さく震えた。
 「? どしたの? タキ」
 「い、いや,何でもない…」
 冷汗をかきながら、青い顔で彼はソックスから目を背けている。
 タキが飼いネコだった頃、飼い主に付けられた名前がオスにも関らずに『さくら』であったということを…
 知る者はいない。
 飼い主がカードキャプターやサクラ大戦のファンであったかどうかは、タキの知るところではないが。