『108つの煩悩』
著者:元
「「デリート!!」」
バシュウ!
閃光がここ工事現場に生まれ、そして唐突に消えた。
「終わった…」
「ふぅ」
田波と菊島は呟きながら背を合わせて地面に座り込む。
そんな2人に神楽社員が各々集まってきた。
「お疲れ様です!」2人にカップに入ったお茶を差し出すのは桜木。
カップからは白い湯気は立ち上っている。
「ありがと、高見ちゃん」受けとって田波は一口。
夕闇が辺りを支配し、真冬の乾いた風が一同に吹き寄せた。
「さっむ〜,さ、帰りましょ」自分の両肩を抱え、蘭堂はメリケンサックを外しながら言う。
と、同時に風に乗って重い音が聞こえてくる。
ごぉ〜ん
ごぉ〜ん
ごぉ〜ん
「除夜の鐘,だな」ラッキーストライクを一本,懐から出して姫萩は眠そうな目で呟いた。
「結局、行く年も来る年も仕事か」
「まぁ、いいじゃねぇか」大きい溜め息を吐く田波の肩を叩く梅崎。
彼女は懐から出したサブウェポンであるトカレフを田波に手渡した。
「?! なんです? これ」
「トカレフ」
「じゃなくて! こんなの渡してどうするんですか?」
「あたいら裏の稼業をやってる奴等には色んな慣習があってな」
梅崎は懐からルガーを取り出して、それを真っ暗な空に向ける。
ガゥン!
深い暗黒に向って火を吹くルガー。
「31日には、こうして108つの煩悩を頭に描きながら弾を放つのさ」
「へぇ、色んな慣習があるんですねぇ」
「ああ、もともとはお尋ね者のせいで鐘をつきにいけなかったってところに起源はあるみたいがだな」
「田波君田波君,次あたしに貸して!」田波にトカレフをねだるは菊島。
「あ、ああ」
「その次、アタシですぅ!」こちらは高見だ。
その4人の様子を眺めながら、蘭堂は隣で煙を上げる姫萩に呟いた。
「よく108つも煩悩が思い浮かぶわねぇ…私なんかせいぜい半分も言えたら良い方よ」
”それでも54も煩悩があるのか,アンタは…”敢えて口にしない姫萩だった。
ガゥン…
今年も神楽の除夜の鐘は夜空に鳴り響く…