『Labyrinth』

author:Gen




 「じゆう」
 呟き。
 私はどうしたら良いのだろう?
 『大丈夫、あんたなら巧くやるわ』
 彼女のかつての声。
 「ありがと」
 確かに、あの時私は微笑んだ。
 そして今、私には意志がある。
 意志という名の感覚は、あの人と一緒にいる時間が長くなるほど、明確に浮きあがる。
 「自由という名の…」
 呟きは雨の中に、消える。




 雨が降る、さんさんと細い雨が。
 『あの仔をあなたが護ってやって』
 かつて一匹の猫がそう言い残して、消えた。
 その猫の言葉は何を表わすのだろう?
 傍らにいるこの仔を言葉の通りに守ってやる,それを示すのか?
 今となっては解らない。
 ただ一つ、言えるのは。
 俺はこの仔を守ってやろうと思っている、それだけだ。




 私には役目がある。
 反面、それを破棄することもできる,タキのように。
 自由…全てはこの一言に尽きるのかもしれない。
 だからこそ、自由という迷路に迷う。
 今の私には出口は見えず、迷路の真ん中で途方に暮れるしかない。
 そぅ、まだ自由には、なれない。
 けれど、この人に就いて行けば、いつか辿り着けるかもしれない。
 私のいるべき場所に。
 私は今の自分を確かめる。
 頬に人の暖かさ。
 懐かしい、遠い記憶の匂いとぬくもり。
 私はそこに身を委ねる。
 「ここが、私のいるべき場所なのかもしれない」




 幼い頃、猫を拾った。
 護ってやろうと思った。
 でも、護れなかった。
 もし今一度、あの頃に戻れるのなら、
 きっと護ってやれる。
 あの日も、こんな雨の日だった。
 だからかな、こんなことを考えるのは。
 胸に小さな重さを感じる。
 目をやれば人の姿をした小さな猫。
 「まや…か」
 雨で濡れたその身を小さく震わせ、目を閉じていた。
 俺は壊れないよう、ゆっくりと抱きすくめる。
 懐かしい感触。
 俺はふと上を見上げる。
 見覚えのある木目の屋根。
 見渡す。一つ一つ確認するように、ゆっくりと。
 ここは小さな神社の境内だった。
 既概視
 「そうか…」
 胸に伝わる小さな鼓動とぬくもり。
 今度はきっと護ってやる,そぅ、想う。
 例え、敵となろうとも。
 この仔とともに、全てを見届けることを,幼い頃の自分に対して、誓う。
 『あの仔をあなたが護ってやって』
 「ああ」




 「田波に〜ちゃんだ」
 神社の境内、一息吐く一人と一匹に、思わずあたしは微笑。
 降り続く細い雨。
 この雨が降り止む頃、あの二人がホントの微笑みを浮かべることが、できればな。
 叶わぬ願いと想いつつも、あたしは雨降る天に、小さく祈った。