『愛・憶えてますか?』
おやじまや Final!

著者:元



 キキィィィ!!
 西武園競輪場の前で、出張君は急停車。
 中から一人の男と四人の女性が飛び出した。
 同時に、競輪場からはぞろぞろと人が出てくる。
 「…終わった」
 ガックリと、その意味を知った田波はその場に膝を付いた。
 そう、すでにレースは終了したのだ。
 「あ、お〜い,みんなどうしたのぉ〜」
 「あ、夕!」
 遠くからの声に、菊島は応じて大きく手を振った。
 人込みに紛れて姫萩と少女,まやがやってくる。
 「ま、まや!! 俺の給料は? 10億円はぁぁ?!?!」
 詰め寄る田波にまやは目を白黒させながらも、小さく微笑む。
 田波は姫萩を見上げた,彼女は大きく頷く。そして彼はまやに視線を戻し…
 「てへ,すっちゃった!」
 「……ふぅ」
 気を失う田波青年。
 「ああ、田波さん!!」駆け寄る桜木。
 「某マンガじゃないけど、これで10億の男だぜ,ハクが付いたね!」当然他人事の梅崎。
 「ま、次回があるさ!」
 さらりというまやの言葉に、田波は怒りの復活を遂げる!
 「あるかぁ、ボケェェ!! 食らえ,超電磁ヨーヨー!!」
 「うにゃぁぁぁ!!」
 「超電磁たつまき!!」
 「にゃにゃにゃにゃ!!」
 「超電磁スピン!」
 「ふにゃぁぁ!!」

 「おお、なんだか良く分からんが、とにかく凄い威力だ」
 やはり素直に感心,姫萩。
 「フーフー…」肩で息する田波。それを神楽社員は遠く避難して見送っていた。
 倒れる少女が、ゆっくりと身を起こす。
 「…にゃ? 田波…さん?」
 パチクリ,目を瞬かせてまや。
 「元に…戻ったのか?」
 しかしまやは小さく首を横に振る。
 「田波さんの為にお金を増やそうと思って…頑張ったんだけど…」
 「まや…」気落ちして俯くまやを、田波はぎゅっと抱きしめる。
 「これしか増やせなかったの」まやは田波の胸の中で小さく言い、懐から何やら取り出した。
 「これ…」差し出す。
 「? これは………!!!」
 渡されたのは紙片,その中身に田波は絶句した。
 「何何何?」菊島が駆け寄り、覗き込む。
 「これは!! 万馬券!!!」桜木はその額面を見て仰天する。
 掛け金は100万円,最終レースは1000倍のレートの万馬券レースだったのだ。
 「10億円ですよ! 田波さん!!」
 「た、助かったぁぁ!!!」
 へなへなととの場にくず折れる田波青年。
 こうして、菊島の磁石攻撃によるまやのバグと、オンライン不正操作による10億円無断貸しつけ事件は閉幕したのであった。



 「あれ?」
 「どうしたの、田波君?」菊島は銀行通帳を見て首を傾げる田波に尋ねた。
 「俺の…貯金は??」通帳の残高は『0』である。呆然と、田波。
 「バグった方のまやが一点買いしたんじゃない?」
 「…んな馬鹿なぁぁ!!!」
 結局、バットエンディングしか行きつかない田波であった。合掌。

おわり