『煙草、ない?』
著者:元
「よろしくおねがいしまぁす!」
朝の綾金駅前。
出勤途中の彼女はポケットティッシュと思い、キャンペーンガールからそれを受け取った。
「あれ?」
歩きながら手渡されたそれを見る。5本入りの煙草だった。
『天にも上る軽さと爽快感,メントール10mg配合,ニコチン0.001mg以下。七星ハイパー
ライトをお試しください』
などという宣伝文句が書いてあった。
「吸わないんだけどな」言いながらも彼女,桜木 高見はポケットにそれを突っ込む。
後にそれが大事件を引き起こす鍵となることも知らずに…
「煙草、ない?」
姫萩 夕がいつもの決まり文句を言ったのはその日の朝だった。
当然、『すわない』と言う返事が返ってくると思いきや…
「ありますよ」
サラリ、言ってのける眼鏡っ子。
ゴソゴソとポケットをまさぐり、ポリエチレンの袋に包まれた5本の煙草を手渡す。
「サンキュ! 火、ない」
「ないです」
「あ、そ」
姫萩は煙草を咥えて梅崎の元へ。
「火」
「あいよ」
バキュン!
ぶっきらぼうに言い放ち、トカレフの一撃。
「ちょっと! 危ないコトするんじゃないわよ!!」
「気を付ける…」
紫煙を上げながら、姫萩はいつもの眠たげな眼で蘭東に答え…
と、彼女の動きが止まった。
「どしたの,夕? 顔色が」
そこまで言って、菊島の顔色の方が変わった。
そう。姫萩の目が爛々と輝き、いつもの無気力さが消えて溢れんばかりの活気に満ちた顔になっているではないか!?
「さぁ、みんな。張り切って仕事しましょう!」
「「?!?!」」
清々しいと声色で言い放つ姫萩 夕。別名『夢見る女』『眠り姫』。
「ど、どうしたんですか? 姫萩さん…いつもと様子が違いますよ」
恐る恐る尋ねる田波に、姫萩はさわやかな笑顔を向ける。
「何を言ってるの? 田波君? 私はいつもの通りの姫萩 夕じゃない。ララリルラ〜♪」
歌いながら、オフィスを飛び出して地下ガレージに駆けて行った。
呆然と、そのスキップする後ろ姿を見送る神楽一同+猫一匹+入江の監視カメラ。
「一体何が…何が起こったというの?!」悲鳴に近い叫びを上げるは蘭東。
「きっと恐怖の大王が落ちてくるんですよ!!」
「でも8月じゃなかった?」
「改造よ,化け猫に改造手術をうけちゃったのよ!!」
「あ、あの…」
恐る恐る手を上げるのは桜木だ。
「これ、吸ったからじゃ…」
言って彼女は姫萩が落していった試供品の煙草を差し出した。
「『軽い』、か?」宣伝文句を読みながら、田波。
それに菊島がポンと手を叩いた。
「もしかして…もしかしてよ,夕の吸う煙草の銘柄で普段の性格が決まるんじゃないの?」
「「…」」一同沈黙。
「試して、みるか?」
梅崎のその一言が全ての決定打であった。
後にマフィアっぽい太い葉巻を吸わされた姫萩が、ニヒルに笑いながら、ショーン=コネリーばりに
梅崎の不法マシンガンを奪取,オフィスに『地獄へ帰れ、ブタ共! Lalalala!!」と吐き捨てながら乱射したのは、彼らにとって苦い想い出である。