『風邪?』
著者:元
「こほこほ…」
「ん? どうした、まや?」
田波がそれに気付いたのはのんびりとしたお昼休みの事だった。
「こほこほ…」
小さく咳込む”まや”。いつも表情は見せないその顔は青白く、健康とは言えない。
もっともデータで構成される彼女に健康うんぬんがあるはどうかは問題でもあるが。
「風邪か?」
心配そうにその顔を覗きこむ田波にまやは、ぽてんと倒れ込む。
「お、おい、まや!」
「どうしたんですか、田波さん?」
慌てふためく田波に、桜木が駆け寄った。
「まやが何か倒れた」その小さな額に手をやりながら、田波は桜木に告げる。
別段、彼の手に普段より高い熱などは感じられない。
「まやちゃん?」
桜木は小さく田波の胸で震えるまやに声を掛ける。
しかし苦しそうな荒い息遣いのみが返って来るだけだった。
「…風邪っぽいですね…風邪?」
桜木は何を思ったか、先程までまやが眺めていたPCに駆け寄る。
そこにはどこかの料理サイトの画面が映っていた。
素早く回線を絶ち切る桜木はDOS窓を展開,PC内メモリを検索し始めた。
「ああ、田波さん! やっぱり風邪ですよ!」
「? どういうこと?」
「ほら、これ見てください!」
桜木の指差すモニターを見てみると、使用メモリのDC00001〜FF00012間に妙なプログラムが潜り込んでいる。
「…ごめん、俺には分かんないよ」困った顔で田波。
「ええとですね、まやちゃんは今、コンピューターウィルスに侵されてます」
「へ?」
「PE_CIHっていうタチの悪いウィルスですね。すぐに除去プログラムを作るから待ってて下さいね」
「はぁ…とにかく頼むよ」
寒さにか、震え続けるまやをきつく抱きしめて田波は桜木の打ち続けるキーボードの音を聞いていた。
−−−数分後−−−
「??」不思議そうに辺りを見渡すまや。
田波と桜木はほっと一息、まやの頭を軽く撫でた。
この日から桜木特製のウィルスチェックプログラムが神楽のPC全てにプレインストールされたそうな…