『インストール厳禁』

著者:元





 「へぇ、そんなことがねぇ」
 「そうなんですよぉ」
 菊島は桜木の話に、ふふんと嬉しそうに鼻を鳴らした。
 そう、何かを思い付いた様だ。
 菊島は懐から一枚のCD-ROMを取り出す。そしてオフィスを見渡し…見つけた。
 窓際でひなたぼっこする子猫一匹。
 「まや、おいで!」
 「?」
 呼ばれてまやは、菊島に駆け寄る。
 「ちょっとこれを読んでみなさい!」
 「??」
 CD-ROMを目の前に付きつけられ、まやは一瞬当惑。
 「社長、何やるつもりなんですか?」
 「いいからいいから!」
 「?」
 桜木をかわし、菊島はまやにCD-ROMを勧める。
 まやはその銀色の円盤を軽く見まわし…
 人差し指の上で高速回転!
 「「おお!!」」
 目からはレーダー光がCDに向かって走る!
 「「おお!!」」
 きっと120倍速くらいに相違ない。
 やがてまやはゆっくりと顔を上げる。
 カラン…
 CD-ROMが床に落ちた。
 タイトルは…『To Heart』?!
 「社長! アンタ何考えてるんですか!?」そのタイトルを見て慌てふためく桜木。
 「ふふふ…これでまやはきっと『犬チック』になるはずよ! 猫なのに犬, これでまや人気も落ちてその分が私達に廻ってくるという算段!」
 「な、なるほど…」納得するな,桜木!
 まやのぼんやりとした瞳が、カッと開かれた!
 そして
 「まやちゃんニュース!」唐突に叫ぶ。
 「「なぬ?!」」驚愕×2。思っていたのと違うキャラだった。
 「昨日未明、神楽総合警備社長・菊島由佳は飲み屋で一杯引っ掛けた後、近所の駐車場で立ちションしてました。女でもできるわい!と叫びながら」
 「おい…お前ら」
 「アンタ達何を騒いでいるの?」田波と蘭東が訝しげに3人を見る。
 「いや〜!!」耳を押さえてオフィスを駆けて出て行く菊島。
 「まやちゃんニュース・2!」
 「ちょ、ちょっとまやちゃん」取り押さえようとする桜木の腕をするりと抜け、まやは叫びつづける。
 「昨日夕方、神楽総合警備に務める桜木高見は古同人誌屋で自ら所有するヤオイ系同人誌150冊を処分しようと立ち寄りましたがレアな同人誌を発見してしまった為に売るのも忘れて逆に買いました。なお買ったのは『ヤオイの世界・忍たま』という…」
 「やめてぇぇ!!」やはり耳を押さえてオフィスを走り去る桜木。
 揺れる扉を、残った神楽面々は呆気に取られた顔で眺めていたという…



 −−−同日−−−
 「黒猫…」ヴァシュカはいつもニヒルでダンディーな彼の後姿に声をかけた。
 ゆっくりと振り返る黒猫。
 カラン…
 彼のコートの内側から何かが落ちた。
 CD-ROM?
 「ヴァシュカか…」
 「ハッ!」
 「僕達、友達だよね」
 「はい?」
 CD-ROMのタイトルは…『To Heart』