『決戦兵器開発事業部』
著者:元
「蘭堂さん、こんなんできましたけど…」
新入社員・柊は手にした装置を神楽の実質上、主権を握る彼女の机の上に置いた。
「??」
蘭東は首を傾げる。
置かれたそれは小さな立方体の木の箱,その上面に僅かに開いた穴から一本生えるハリガネ状の細い棒と、先端にはなにやらフワフワした毛玉がついていた。
「何々、これ〜?」そんな二人の横から割り込むは一応社長を自負する幼児体型。
「柊ちゃん、これが化け猫対策の兵器のつもり?」
白い目で菊島は、彼女に問うた。
そう、今この新神楽オフィスではお札に次ぐ新たなる対化け猫兵器を模索中なのである。
ついでを言うならば、『低価格の』がついた兵器作成会なのではあるが。
柊は二人の古株に向かって自身ありげに頷くと、箱の底についたスイッチをオンにする。
ぶぅぅぅぅぅん…
何かが回転する音が箱の中から僅かに響く。
「「おお??」」
箱から生えたハリガネが高速回転! 先端の毛玉がゆらりゆらりと、何やら良い具合に揺れていた。
そう、これはまさに…
「これこそ化け猫もじゃれること間違いなし! 柊じゃらし壱号です!!」
猫じゃらしから取ったのだろうが、ネーミングセンスは最悪である。
「皆さんも銃器がロクに効かない化け猫に散々追い回された経験がおありでしょう?」
小さく頷く菊島と蘭東。
「そこで猫族ならライオンですらじゃれるという、猫じゃらしに焦点を置いたわけです。動力源にマブチモーターと単一電池を1つづつ使用,総コストとは僅か521円(消費税込み)となっております」
ここで彼女は一呼吸置く。そしてビシィ,オフィスの端で昼寝する仔猫を指差し、
「すでにテスト結果では有効と判断されております!」
ぶぅぅぅぅん…
ぐぅぅ…
マブチモーターの回転音と姫萩のいびきの協奏曲が、お昼時の静かなオフィスにしっとりと響く。
「でもね」
「はい?」
蘭東が小さく、口を開いた。
「マブチモーターは、もう発売を終了しているってウワサよ」
「ガーン!」古典的表現の柊。
「それに化け猫がこんなものに引っかかるわけないでしょ! とゆ〜わけで、却下!」菊島は豪快に柊じゃらし壱号を窓の外に投げ捨てた。
「はい、次次!!」うなだれる柊を横目に、頭を悩ませ続ける残る社員達を叱咤しながら蘭東は業務に戻った。
その頃、窓の外では…
「おか〜さん、あの人なに?」
「しっ! 指差しちゃいけません!」
子供連れの親子が早々に立ち去って行く。名残惜しそうに手を引かれながら後ろを振返る子供の視線の先には…
「うにゃ!」
偶然『まや』の様子を伺いにやってきていた『黒猫』が、目の前に落ちてきた装置にじゃれていたそうな。
どうやらテスト結果は正しかった様ではある。