『銭湯準備OK? 四』

著者:元



 「田波先輩はどういった女性が好みなんでしょうね?」
 浴槽にてポツリと呟いた柊の言葉に、数人が凍り付く。
 「やっぱり重要なのはスタイルじゃない? この私のような若い体!」
 立ちあがって菊島。若い、というより幼児体型だ。しかし誰もツッコまないところに人生の侘しさすら感じる。
 「スタイル…かなぁ?」眼鏡がないので視界がはっきりしていないのだろう,壁に向かって呟く桜木。
 その背中を突つく者がいる。
 「どうしたの? まやちゃん?」
 「すたいる?」珍しく言葉を口にした。
 「ええと…田波さんはあんまりそういうのは気にしないんじゃないかなぁ?」
 「そうか?」
 「そうかな?」
 「そうですかねぇ?」
 突然、サウナ戻り三人衆に真顔で言われ、桜木は困った顔をした。
 「…すたいる」
 まやは何を決断したのか,立ちあがった!
 いつの間にやら彼女の手には魔法少女っぽい杖が握られていたりする。
 「集まれ、電子のちからぁ!」
 飯塚真弓ばりの声が風呂に木霊した。
 まやの体が光りに包まれる!
 「「おおおおお?!」」
 桜木が、柊が、蘭東が、光の中のまやの変化に驚きの声を上げる。
 「ちっ!」
 一人、菊島は舌打ち。
 まやの身長が伸びた,胸が大きくなった,腰がくびれた,なんかスゴイことになっている。
 やがて光が消えたそこには…スタイルがナ●ミ=キャ●ベルなまやが、悠然と皆を見下ろしていた。
 「はぁい、皆さん。まやです」妖艶な笑みを浮かべて変身まや。
 「そんな、声まで変わって!?」まるで某CMの様に、柊は悲鳴を上げるかのように叫んだ。



 殺人鬼と化した強暴な化け猫2匹は脱衣所に飛び込んだ!
 「死ねや、神楽!」
 「無力に打ち震えながら泣き叫ぶが良い!」
 と、2匹の動きが止まる。
 目の前には筋肉の壁,壁,壁…
 「何だ、こいつら?」
 「化け猫じゃないか!」
 「総員、非常事態!」
 屈強な裸の男達が一糸乱れぬ行動で2匹を取り囲んだ。
 「んな…」
 「アニキ、こっち男湯じゃ…」
 呆然と2匹。
 さらにハウンドがいたとは彼らも思いもしなかったろう。
 「だが、我等を封じるすべは持ってはいまい!」
 そんな叫びも虚しく、2匹は次の瞬間にMDへと封印されていた。
 「どんな時でも銃は持っているぞ、銃は」
 裸のままの矢島のオヤジギャグに耳を貸す隊員はいなかったそうな。



 「何だかんだ言って、良いお湯でしたね」
 「うう〜ん」桜木の言葉に田波はちょっと悩む。
 夜の涼しい風がバモスへと向かう一同に吹き抜けてゆく。
 「さっぱりした所でカラオケでも行きません?」
 「そうね、たまには良いわね」柊の提案に菊島が笑って続けた。
 「田波君、デュエットしよ〜」
 「あ〜、はいはい」腕を引っ張られつつ、田波は曖昧な返事をした。
 「にゃ〜」
 彼の頭の上で猫のまやが疲れ切った声で一声鳴いた。
 案外、綾金は平和な様である。



 「何ですか? これは??」
 翌日、入江のポストに綾金新聞8年分の契約書が放り込まれていたのは余談である。