『クロえもん』

著者:元



 「クロえもぉん〜〜,また矢島にいじめられちゃったよぉ〜」
 ドタバタドタ,階段を駆け上がりながら情けない声が近づいてくる。
 ガラリ,そして『彼』のいる部屋の障子が、開いた。
 「クロえも〜ん」
 部屋の真ん中に鎮座する黒いコートの中年男に、若い男が泣きながら抱き付いた。
 黒コートの男は、まるでそれがいつものことであるかのように表情を一つも変えることなくひたすらに右手を口を動かしていた。
 右手には『どらやき』がある。
 ひたすら無表情に口に運んでいる,その行動に何かを主張するかのように…
 「ねぇ、クロえもん,何とか矢島と…それに口のとんがった入江をぎゃふんと言わす道具を出してよ!」
 「…田波君,どうしても必要かね?」
 どらやきを運ぶ手を止め、クロえもんはギロリ,青年を睨む。
 「う…うん」
 鋭いその視線にやや怖じ気気味な田波青年。しかし首はコクリと縦に振る。
 クロえもんはやおら、己の腹の部分にある大きなポケットに両手を突っ込み…
 『それ』を取り出した。
 「真浜原発ぅ〜」
 「ク、クロえもん??」
 しん…
 静まり返る部屋。
 「クククッ…」
 やがてクロえもんが小さく笑みの声を漏らす。
 「メルトダウン…良い響きだ」
 「や、やめろぉぉ,クロえもん!!」
 「サイは投げられた」
 「投げるなぁぁ!!」
 「ダメ…か?」
 「ダメだよ!」
 残念そうにクロえもんは真浜原発をポケットに戻す。
 そして今度は、
 「Prowlerぁ〜」
 米国ロボット・ディフェンス・システムズ社製自律型ロボット哨戒車両。
 「な、なんか強そうな戦車だね…」
 「消磁処理装甲,完全にプロテクトされたCPU,これは完璧な対化け猫用の特殊兵器だ」
 「へぇ…これで矢島も入江もおたぶつだね♪」
 「可能な限り時間を稼いで、自爆するがな」
 ニタリ、笑みが漏れるクロえもん。
 「え?」
 「計画は続行だ,さぁ、行くが良い」
 「う。うん」
 何の計画だか定かではないが、田波青年はこうしてプラウラを手に入れ、にっくきいじめっ子(歌が大好き)矢島&金持ち入江へと復習へと向かうのだった。
 なお、入江の新たに購入したDAXなる兵器にいとも簡単に破れたのは余談である。